米国のDonald Trump大統領が、台湾で製造される半導体やコンピュータチップに対して、最大100%の関税を課す方針を表明した。この動きは、TSMCをはじめとする台湾の半導体産業に大きな影響を与える可能性があり、世界の半導体サプライチェーンに新たな変化をもたらす可能性がある。
米国への技術移転を目指すための政策
Trump大統領は、House GOP Issues Conferenceでの演説で、「近い将来、コンピュータチップ、半導体、医薬品の海外生産に対して関税を課す」と述べた。関税率は25%から100%まで段階的に設定される可能性があり、その主な目的は米国内での生産回帰を促すことにある。
特に注目すべきは、前Biden政権のCHIPS法に対する批判だ。Trump大統領は、「企業はすでに十分な資金を持っており、必要なのは資金援助ではなく、インセンティブである」と指摘。25%から100%の関税を課すことで、企業が自己資金で米国内に工場を建設することを期待している。
産業界への影響
この政策による影響は、半導体産業のサプライチェーン全体に波及することが予想される。最も直接的な影響を受けるのは、世界の半導体製造の約98%を担う台湾、とりわけTSMCだ。TSMCは現在、Apple、AMD、Broadcom、NVIDIA、Qualcommなど、米国の主要テクノロジー企業の製造パートナーとして重要な役割を果たしている。これらの企業は、最先端プロセスノードでの製造能力を持つTSMCへの依存度が特に高い。
これは直接・間接的に米国及び世界の消費者市場へ影響を与える事になるだろう。米国の消費者に対する直接的な影響としては、関税導入は電機製品の価格に大きな影響を与えることが予想されている。Consumer Technology Association(CTA)の分析によると、具体的には、ノートPCとタブレットについては46%もの価格上昇が見込まれ、ゲーム機については40%の値上がりが予測されている。さらに、現代生活に不可欠となったスマートフォンにおいても、26%の価格上昇が予想されている。これほどの大幅な価格上昇は、消費者の購買行動に重大な影響を与える可能性が高い。
サプライチェーンの観点からも、複雑な影響が予想される。半導体製造は高度に専門化された産業であり、設計、製造、テスト、パッケージングなど、各工程が異なる企業や地域で行われている。関税の導入は、これらの工程間の連携や、最終製品の組み立てに至るまでのサプライチェーン全体のコスト構造を変化させる可能性がある。
関税によるコスト増加は、最終的に製品価格に転嫁されることになり、グローバル市場での米国企業の競争力を低下させる恐れがある。特に、中国や韓国など、半導体産業で競合する国々との競争において、不利な立場に置かれる可能性もあるだろう。
確かに、製造業の観点からは、米国内での生産能力拡大に向けた動きが加速する可能性も考えられる。とは言え、これには膨大な初期投資と時間が必要となり、一朝一夕に達成できることではない。最新の半導体製造施設の建設には、土地の選定から稼働開始まで通常3年から4年の期間を要する。また、熟練した技術者の確保や、安定した供給網の構築など、製造能力の移転には多くの課題が存在するのもまた事実だ。
業界の反応
半導体業界からの反応は、前政権の政策との比較を軸に展開されている。特に業界団体のSemiconductor Industry Association(SIA)は、前Biden政権のCHIPS法の成果を強調しながら、関税による強制的な製造移転に対して慎重な姿勢を示している。
SIAによれば、CHIPS法の製造インセンティブは既に具体的な成果を上げている。現在までに28の州で90を超える新規プロジェクトが始動しており、これらのプロジェクトを通じて半導体エコシステムにおいて58,000人以上の直接雇用が創出される見込みだ。さらに、これらの雇用は米国経済全体で数十万人規模の間接的な雇用創出効果をもたらすと予測されている。
特に注目すべきは、SIAとBoston Consulting Groupが共同で実施した分析結果である。この報告によると、米国の半導体製造能力は2022年から2032年にかけて203%増加する見通しで、これは世界各国と比較して最大の成長率となっている。さらに、2024年から2032年までの期間における世界全体の設備投資のうち、28%を米国が占めると予測されている。これらの数字は、現行のCHIPS法による支援策が効果を上げていることを示している。
また、主要な半導体メーカーであるIntel、TSMC、Coherent、Analog Devicesなど、すでにCHIPS法による助成金を受けている企業からの反応も注目される。これらの企業は、すでに米国内での製造施設建設を進めており、突然の政策変更による投資計画への影響を懸念している。特に、長期的な設備投資計画を立てる上で、政策の安定性と予測可能性が重要だとの認識を示している。
注目すべきは、これらの業界団体や企業が、米国の半導体製造能力強化という目標自体には賛同しつつ、その達成手段としての関税政策については異なる見解を示していることだ。多くが、強制的な措置よりも、現行のCHIPS法のような支援策の継続と拡充を求めている。これは、半導体産業が持つ高度な技術的特性と、グローバルなサプライチェーンの複雑さを反映した見解といえる。
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