米国の半導体産業を支援するCHIPS法に基づき、Intelに約85億ドルの補助金が提供されることが決定してから半年以上が経過した。しかし、同社はいまだに1セントも受け取っていない状況であり、深刻な財政危機に陥っているIntelとしては好ましくない状況が続いている。この遅延は、政府による厳格な審査プロセスが原因とみられている。
資金提供の遅れに焦りを見せるIntel
Intelは、CHIPS法を通じて85億ドルの補助金と110億ドルの低金利融資を受ける予定だ。しかし、この資金提供には特定のマイルストーンの達成が条件となっており、政府による徹底的なデューデリジェンスが行われる必要がある。これが資金提供のプロセスを遅らせている一因となっている可能性が高い。
情報筋によると、Intelは政府の「足踏み」に不満を抱いており、資金提供の迅速化を求めているという。同社は、アリゾナ、ニューメキシコ、オハイオ、オレゴンの各州で進行中のプロジェクトに多額の投資を行っており、CHIPS法の資金が計画通りに提供されることを期待している。
一方で、同社は商務省(CHIPS法の資金を監督する部門)との情報共有に消極的な姿勢を示しているとも伝えられている。この姿勢が、政府側の審査プロセスをさらに遅らせている可能性がある。
Intelは声明で、「アリゾナ、ニューメキシコ、オハイオ、オレゴンの各プロジェクトで大きな進展を遂げており、近々資金提供の合意を最終決定できることを楽しみにしている」としている。一方、商務省はこの件についてコメントを控えている。
CHIPS法による資金提供の遅延は、Intelにとって大きな打撃となっている。同社は最近、厳しい財務状況に直面しており、2024年8月の決算報告では16.1億ドルの純損失を計上した。この結果を受けて、Intel株は急落し、過去10年以上で最低の水準に達している。株価は決算発表以降、34%以上も下落している。
財務再建に向けた苦悩
厳しい財務状況を受けて、Intelは100億ドル規模のコスト削減計画を発表した。この計画には、全世界で15,000人以上の従業員を削減することも含まれている。Pat Gelsinger CEOは社内メモで「我々の収益は期待通りに成長していない。AIのような強力なトレンドの恩恵をまだ十分に受けられていない」と述べ、「我々のコストは高すぎ、利益率は低すぎる」と現状を厳しく分析している。
さらに、同社はより抜本的な対策を検討中だという。一部の報道によると、Intelは特定の事業部門の分離や、合併・買収(M&A)の可能性まで検討しているという。最近では、QualcommがIntelのチップ設計事業の一部を買収する可能性があるとの噂も浮上している。時価総額が約1,850億ドルに達するQualcommには、このような大型買収を実行する財務力がある。
また、Intelは株主からの訴訟も抱えている。株主たちは、同社がIntel Foundry Servicesに関するネガティブな情報を隠蔽していたと主張している。これに加えて、第13世代および第14世代CPUの不具合に関する集団訴訟も提起されており、同社の評判に更なる打撃を与えている。
Intelの経営陣は今月末の取締役会で今後の方針を協議する予定だ。CHIPS法による資金提供の行方は、同社の今後の戦略に大きな影響を与える可能性がある。政府との交渉を成功させ、必要な情報を適切に共有しながら、いかに迅速に資金を確保できるかが、Intelの再建と米国半導体産業の競争力維持の鍵を握っているといえるだろう。
Source
コメント