米中貿易摩擦を背景に、半導体後工程メーカーの生産拠点が中国から東南アジアへとシフトする動きが加速している。Reutersの報道によると、韓国Hana Micron、米Amkor Technology、Intelなど主要半導体メーカーが、ベトナムでの後工程製造能力を大幅に拡大する計画を進めている。
大手メーカーが相次ぎ大型投資を実施
Hana Micronは2026年までに1.3兆ウォン(約1400億円)を投じ、レガシーメモリチップのパッケージング事業を拡大する計画を発表した。同社ベトナム法人のCho Hyung Rae副社長はReutersの取材に対し、「産業界の顧客から中国からの生産能力移転要請に応える形での投資決定」と説明。米中貿易摩擦の影響により、顧客企業がサプライチェーンの地理的分散を急ぐ状況が浮き彫りとなった。
米Amkor Technologyは16億ドル(約2,400億円)を投じ、同社最大かつ最先端となる約20万平方メートルの工場建設を進めている。新工場は「次世代半導体パッケージング能力」を提供する設備として位置付けられており、事業関係者の証言によれば、一部の製造装置については中国の既存工場からの移転が計画されているという。この動きは、米中対立の深刻化を見据えた生産能力の戦略的再配置とみられる。
半導体大手のIntelは、すでにベトナムに同社最大規模の後工程製造拠点を構えており、さらなる展開を模索している。先週ハノイ近郊で開催されたベトナム初の国際半導体展示会では大規模なブースを出展し、同国での事業拡大に対する積極的な姿勢を示した。
これら主要3社の投資総額は25億ドル(約3,700億円)を超える規模となる。さらに、Biden政権はCHIPS法の資金の一部をベトナムへの投資に充てることを検討しており、米国政府による後押しも期待される。これらの投資は、単なる生産能力の拡大にとどまらず、ベトナムの半導体産業エコシステムの形成を加速させる可能性を秘めている。
このような大手メーカーの積極的な投資は、ベトナムが半導体後工程製造における新たな重要拠点として急速に台頭していることを示している。特筆すべきは、これらの投資が単なるコスト削減を目的としたものではなく、地政学的リスクの分散という戦略的な意図を持つ点である。
ベトナムの半導体産業が飛躍的成長へ
米半導体工業会(US Semiconductor Industry Association)とBoston Consulting Groupの共同報告書によると、ベトナムの半導体後工程(ATP:Assembly, Testing, and Packaging)における世界シェアは、2022年の1%から2032年には8-9%まで拡大すると予測されている。これは主要な外資系企業の大規模投資に加え、現地企業の積極参入が寄与するとされる。
ベトナム最大手テクノロジー企業のFPT Corporationは、ハノイ近郊に1,000平方メートルのテスト専門工場を建設中。関係者によると、2024年初頭の操業開始時点で10台のテスト機器を導入し、2026年までに30台まで増強する計画。総投資額は3,000万ドルに達する見込みだ。同社は現在、戦略的パートナーの選定を進めている。
投資会社のSovico Groupも半導体産業への参入を表明。同社のLe Dang Dung上級顧問は、中部の沿岸都市ダナンでのATP施設建設に向けて外国パートナーとの協業を模索していることを明らかにした。
ベトナムの半導体産業は後工程製造の成長にとどまらない。国営の通信・防衛企業Viettelは、2030年までに同国初のファウンドリー(半導体前工程製造工場)建設を計画している。これは、ベトナム政府が掲げる「2030年までに少なくとも1つのファブを稼働させる」という野心的な目標に沿ったものだ。
ベトナム政府は2050年までに6つのファブ(半導体製造工場)設立という長期目標を掲げており、先週ハノイ近郊で初の国際半導体展示会を開催するなど、産業育成への強い意欲を示している。NVIDIAやAppleといった大手テクノロジー企業も、すでに進出しているIntelに続き、ベトナムを将来の製造拠点として注目している。
こうした官民一体での取り組みにより、ベトナムは東南アジアにおける半導体産業の新たな中心地として急速に台頭しつつある。特に後工程製造分野では、中国・台湾に次ぐ新たな製造ハブとしての地位確立が視野に入ってきた。950億ドル規模とされる世界の半導体後工程市場において、ベトナムの存在感は今後さらに高まることが予想される。
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