AMDが、ゲームグラフィックスの新時代を切り開く革新的な技術開発の詳細を、同社の開発者向けプラットフォームGPUOpenで明らかにした。この新技術は、パストレーシングのデノイズ処理とアップスケーリングを単一のニューラルネットワークで実現する画期的なアプローチを採用している。業界関係者からは、長年グラフィックス技術をリードしてきたNVIDIAのDLSS(Deep Learning Super Sampling)に対する、AMDによる本格的な対抗策として高い注目を集めている。
単一ニューラルネットワークによる革新的な統合処理
AMDが開発を進める新技術の核心は、これまで複数のプロセスに分かれていたデノイズとアップスケーリングの処理を、単一のニューラルネットワークで統合的に処理する点にある。従来のレンダリングパイプラインでは、パストレーシングによって生じるノイズの除去には複数のデノイザーを必要とし、処理負荷軽減のための低解像度レンダリングとそれを高解像度に引き上げるアップスケーリング処理も別個に行う必要があった。この複雑な処理フローは、計算効率の低下や画質の劣化を引き起こす要因となっていた。
新技術では、これらの処理を一つのニューラルネットワークで同時実行することで、処理の効率化と画質の向上を同時に達成する。特に注目すべきは、低解像度でレンダリングされた画像から直接、ノイズの少ない高品質な高解像度画像を生成できる点である。この技術により、『Cyberpunk 2077』や『Alan Wake II』などの最新タイトルで見られるような高度な光の表現を、より効率的に実現できる可能性があるとのことだ。
AMDの研究者たちは、この統合アプローチによって、従来の手法と比較して最大30%の性能向上が見込めると指摘している。さらに、単一のニューラルネットワークを使用することで、複数のデノイザーを使用する場合に発生しがちだった画質の不整合や処理の遅延といった問題も解決できる。また、このアプローチは、異なる照明効果に対して個別のデノイザーを必要とする従来の手法と比較して、メモリ使用量の大幅な削減も期待できる。
リアルタイムパストレーシングにおける画期的な進展
パストレーシングは、コンピュータグラフィックスにおいて最も正確な光のシミュレーション手法として知られている。映画製作では、1フレームの処理に数時間をかけ、1ピクセルあたり数万回もの光線計算を行うことで、フォトリアリスティックな品質を実現している。しかし、ゲームではリアルタイム処理が要求されるため、サンプル数を数百回程度まで大幅に削減せざるを得ず、これが画質の低下やノイズの原因となってきた。
AMDの新技術は、この根本的な課題に対して、革新的な解決策を提示している。具体的には、モンテカルロデノイジングと呼ばれる高度な技術を用いて、限られたサンプル数から光の振る舞いを正確に予測し、クリーンな画像を生成する。この技術は、従来のデノイザーと比較して、エッジの保持や細かいテクスチャの再現性において大きな優位性を持つ。
特に、反射や屈折、散乱光といった複雑な光の相互作用が多い場面での効果が顕著である。従来のデノイザーでは、これらの効果を正確に再現するために多くのサンプルが必要とされ、結果としてパフォーマンスの低下を招いていた。新技術では、ニューラルネットワークの学習により、少ないサンプル数でもこれらの効果を高精度に再現することが可能となっている。
ハードウェアの進化と市場へのインパクト
AMDの新技術は、次世代GPUアーキテクチャRDNA 4での本格的なAI処理機能の搭載を視野に入れて開発が進められている。現行のRDNA GPUは、NVIDIAのTensorコアに相当する専用のAI処理ユニットを持たず、代わりにWMMA(Wave Matrix Multiply Accumulate)命令とシェーダーコアを使用してAI処理を行っている。これに対してRDNA 4では、AIワークロードに特化した専用ハードウェアの搭載が予想されている。
この予測を裏付けるように、AMDのCTO Mark Papermaster氏は、ゲーミングデバイスでのAIベースアップスケーリングの実現を明確に示唆している。さらに、Sony PlayStation 5 ProがAI処理用の専用チップを搭載することが発表されたことも、AMDのハードウェア戦略の方向性を示す重要な指標となっている。
特筆すべきは、AMDがFSRの強みである幅広い互換性を維持しようとしている点である。新技術は、RDNA 4向けにフル機能版を提供しつつ、他のGPU向けには最適化された簡略版を提供する二段階のアプローチを採用する可能性が高い。この戦略により、最新のハードウェアでは最高の性能を、既存のハードウェアでも十分な性能向上を実現することが期待できる。
さらに、この技術革新はグラフィックス市場全体に大きな影響を与える可能性を秘めている。特に、リアルタイムパストレーシングの普及を加速させ、ゲームグラフィックスの質を大きく向上させることが期待される。また、この技術の登場は、NVIDIAが独占的に保持してきた高品質なレイトレーシング市場に、本格的な競争をもたらすことになるだろう。業界関係者からは、この競争がグラフィックス技術の更なる発展を促進するとの見方が強まっている。
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