中国の主要メモリメーカーであるChangxin Memory(CXMT)とFujian Jinhua(福建晉華)が、DDR4メモリ市場で大規模な安値攻勢を展開している。韓国メーカー比で50%以上安い価格設定に加え、中古チップをも下回る価格で市場に供給を行っており、グローバルなメモリ市場に激震が走っている。
生産拡大と価格破壊の実態
中国メモリメーカーによる生産能力の拡大は、想定を超えるペースで進行している。主力メーカーであるChangxin Memory(CXMT)は、2022年時点で月産7万枚だった生産能力を、わずか2年で20万枚まで急拡大させた。同社は更なる増強を計画しており、合肥第2工場および北京工場での生産拡大により、2025年までに月産30万枚体制の構築を目指している。この生産規模が実現すれば、世界のDRAM市場の11%のシェアを掌握することになり、グローバルDRAMメーカーのトップ4に躍り出る規模となる。
一方、米国の制裁対象となっていたFujian Jinhuaも、予想外の復活を遂げている。Huaweiの技術支援を受けて生産体制を立て直し、現在はDDR4 8Gb 3200規格品の量産を本格化させている。同社は2024年末までに月産10万枚、2025年には12万枚の生産体制を整える計画だ。
この急激な生産能力の拡大は、市場価格に甚大な影響を及ぼしている。現在のDDR4 8Gbチップの市場価格は1.13ドル程度で推移しているが、中国メーカーは0.75から1.0ドルという、採算度外視した価格で供給を行っている。この価格設定は、Samsung、SK hynix、Micronなど主要メーカーの価格と比較して50%以上低い水準である。さらに注目すべきは、サーバー用途から回収された中古チップの価格をも5%程度下回る価格を提示している点だ。
この背景には、中国政府による強力な産業支援策の存在がある。潤沢な補助金と国産化方針の後押しを受け、中国メーカーは短期的な採算を度外視した展開が可能となっている。この動きに呼応して、Longsys(江波龍)、Biwin(佰維)、TeamGroup(德明利)など、中国国内のメモリモジュールメーカーも、国産DRAMの採用を積極化させている。
なお、最近CXMTは生産トラブルも経験している。人為的なミスにより約6.5万枚のウェハーが廃棄処分となり、工場長を含む複数の幹部が処分を受ける事態となった。しかし、このセットバックにもかかわらず、同社の攻勢的な生産拡大計画に変更はないとされている。このことは、中国メーカーの強い事業推進意欲と、それを支える政府支援の強固さを示す象徴的な出来事といえる。
市場への影響と各社の対応
韓国メーカーの対応は、急速かつ戦略的な転換を見せている。SamsungとSK hynixは、中国メーカーによる価格破壊的な攻勢に対し、DDR4製品の生産規模を段階的に縮小する方針を打ち出した。両社は、より高度な技術を要するDDR5メモリや、AI向けの高性能メモリであるHBM3など、中国メーカーが現時点で量産体制を確立できていない高付加価値製品へと、経営資源を集中的にシフトしている。この動きは、価格競争による収益性の悪化を回避しつつ、技術的優位性を活かした市場の棲み分けを図る狙いがある。
一方、産業用途市場では中国製DRAMに対する慎重な姿勢が依然として続いている。台湾の大手メモリモジュールメーカーであるTranscendの束崇萬董事長は、同社の産業用製品の売上高が全体の60%を占める中、この分野ではほぼ中国製DRAMを採用していないと明かしている。これは、産業機器向けに要求される高い信頼性や長期的な供給安定性の観点から、実績のある既存メーカーの製品が依然として選好されている実態を示している。
しかし、Transcendのような既存メーカーも、完全に中国製品との競合を避けることはできていない。束崇萬董事長は、主要メーカーとの安定的な取引関係を維持するために、一定規模の購入量を確保する必要があり、そのため消費者向け市場から完全に撤退することはできないと説明している。この市場では中国メーカーとの激しい競争が不可避となっており、収益性の維持が大きな課題となっている。
また、中国メーカーは海外市場への展開も積極的に模索している。特に注目すべきは、台湾企業とのパートナーシップを通じたインド市場への参入戦略だ。中印間の政治的緊張関係を考慮し、台湾企業のブランド力を活用することで、「レッドサプライチェーン」というセンシティブなイメージを希薄化させる狙いがある。この動きは、米国や欧州など、中国製品に対して慎重な姿勢を示す市場を迂回しつつ、新興市場での存在感を高めようとする中国メーカーの戦略的なアプローチを示している。
市場関係者からは、2025年にかけてDRAMの供給過剰状態が改善される可能性も指摘されている。これは韓国メーカーによるDDR4生産の縮小が主な要因とされるが、その一方で、台湾メーカーは中国勢との直接的な価格競争に直面することが予想される。さらに、長鑫(CXMT)をはじめとする中国メーカーが、生産能力の拡大に加えて製造プロセスの高度化を進め、DDR5への参入を視野に入れ始めていることから、メモリ産業全体の競争環境は一層厳しさを増すことが予想される。
Xenospectrum’s Take
中国政府の潤沢な補助金を背景に、採算を度外視した価格攻勢が展開されている現状は、1980年代の日本メーカーによる半導体攻勢を彷彿とさせる。しかし、現代の半導体産業はより複雑化しており、単純な価格競争だけでは市場支配は難しい。
韓国メーカーのハイエンド製品へのシフトは賢明な判断だが、DDR4市場の喪失は短期的な収益に大きな影響を与えるだろう。また、中国メーカーの技術力向上速度を考えると、この「逃げ切り」戦略がどこまで有効か、疑問が残る。
産業用途での採用障壁は当面続くと予想されるが、コンシューマ市場での価格破壊は確実に進行する。結果として、グローバルなメモリ市場は「産業用途=従来メーカー」「コンシューマ用途=中国メーカー」という二極化が進む可能性が高い。皮肉なことに、この状況は中国メーカーにとって技術向上とブランド構築の絶好の機会となるかもしれない。
Source
- DigiTimes: 中國DRAM自製產能溢出海外 韓業者傳將減少DDR4產能供
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