IntelのXeonサーバープロセッサ開発の中核を担ってきたSailesh Kottapalli氏が、28年間務めたIntelを離れ、Qualcommのシニア副社長として新たな挑戦を開始したことが判明した。この人事移動は、QualcommのデータセンターCPU市場への本格参入を示す重要な戦略的動きとして注目を集めている。
Qualcommの野望を体現する戦略的人材獲得
Intelのプラットフォームエンジニアリンググループのディレクターとして、Kottapalli氏はデータセンタープロセッサアーキテクチャの開発において中心的な役割を果たしてきた。その経歴は初期のItaniumプロセッサにまで遡り、その後複数世代のXeonサーバープロセッサの主任アーキテクトとして、高性能サーバー製品における記録的な世代間性能向上を実現。その功績は、Intel Achievement Awardの受賞によっても評価されている。
LinkedInでの投稿で、Kottapalli氏は新たな役職について「革新を推進し、新たなフロンティアを開拓する、一生に一度のキャリアの機会」と表現した。この言葉の背景には、Qualcommが描く野心的なデータセンター戦略の青写真が垣間見える。同社は2021年にチップ設計のスタートアップNuviaを14億ドルで買収し、そのテクノロジーを活用してPC向けSnapdragon X シリーズを開発。このチップはIntelのシリコンを性能面で凌駕し、MicrosoftのCopilot+ PC認定を独占的に獲得するという快挙を成し遂げている。
この成功体験は、Qualcommにとって大きな自信となっている。同社は現在、Nuvia買収で獲得したCPUコア設計技術を活用し、データセンター市場への本格参入を狙っている。すでに同社は機密計算(Confidential Computing)機能を備えたサーバー向けシステムオンチップ(SoC)の開発を進めており、これはIntel XeonやAMD EPYCプロセッサの標準機能と同等の機能を提供することを目指している。
特筆すべきは、QualcommがすでにQualcomm Cloud AIブランドでAIアクセラレータチップをデータセンター市場で展開しており、Amazon Web Services、Hewlett Packard Enterprise、Lenovoといった主要ITベンダーからの支持を得ていることだ。この既存の関係性は、新たなサーバーCPU製品の市場投入においても大きなアドバンテージとなる可能性がある。
QualcommによるKottapalli氏の採用は、同氏が持つサーバープロセッサ設計の専門知識と経験をそのまま取得できるという点で、Qualcommにとって非常に大きな意味を持つ。同社のArmベースプロセッサ技術との融合により、現在x86シリコンが支配する企業サーバーやクラウド市場に、新たなパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めたものだろう。特に、Armアーキテクチャの強みである省電力性能は、ハイパースケーラーの運用コスト削減という観点から、大きな競争優位性となりうる。
市場環境の変化が後押し
現在のデータセンター市場は、かつてQualcommが参入を試みた2018年当時と比べて、大きく状況が変化している。AmazonのGravitonプロセッサの成功により、Armアーキテクチャへの信頼性が向上。また、データセンターソフトウェアのArmサポートも拡大している。
Kottapalli氏の採用は、業界ベテランの信頼性を獲得する狙いもあると見られる。同社はすでにAIアクセラレータチップでAWS、HPE、Lenovoなど主要ITベンダーとの関係を構築しており、これらの基盤を活かしたサーバーCPU展開が期待される。
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