Adobeがスマートフォン向けの本格的な「Photoshop」アプリを初めてリリースした。まずはiPhone版からの提供となり、Android版は情報源により今年後半から2025年の間に登場予定とされている。プロレベルの画像編集機能と生成AIを搭載し、無料版と月額1,300円の有料プランを用意している。
38年の歴史を持つPhotoshopが初めてスマートフォンに本格対応
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Adobe Photoshopは創設から38年の歴史を持ち、世界のクリエイティブプロフェッショナルの90%以上が利用する業界標準の画像編集ツールである。これまでにもiPad版は提供されていたが、今回のモバイルアプリは、2022年末に発表された簡易版の「Elements」とは異なる、本格的なPhotoshopの機能をスマートフォンに持ち込む初の試みとなる。
発表によると、まずはiPhone版が世界中で本日から提供を開始。Android版については2025年中の提供開始が予定されている。
価格体系については、基本機能を備えた無料版と、高度な機能にアクセスできる「Adobe Photoshopモバイル版およびウェブ版」プランが用意されている。有料プランは月額1,300円で、既存のデスクトップPhotoshopまたはCreative Cloudサブスクリプションを持つユーザーは追加料金なしでモバイル版を利用可能だ。
モバイル向けに最適化された機能とUI
新しいPhotoshopモバイルアプリは、タッチスクリーンに最適化されたインターフェースを採用しており、小さな画面でも正確な操作が可能なように設計されている。特に選択ツールとタッチターゲットが最適化され、「タップセレクト」機能により単一のタップでオブジェクトを分離できる。
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無料版でも以下の主要機能が利用可能だ:
- 画像の結合、合成、ブレンド機能
- 選択、レイヤー、マスクなどの基本ツール
- 「タップセレクト」ツールによる画像の一部の除去、色変更、置換
- 「スポット修正ブラシ」による不要素の除去
- Adobe Firefly AIを活用した「生成塗りつぶし」と「生成拡張」機能
- Adobe Express、Fresco、Lightroomとの直接統合
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有料サブスクリプションでは、さらに以下の機能が追加される:
- モバイルからウェブへの円滑な移行による精度とコントロールの向上
- 「類似のバリエーションを生成」や「スタイル参照画像」など追加のFirefly AIツール
- 20,000以上のフォントアクセスと追加フォントのインポート機能
- 「オプジェクト選択」による精密な選択と「Magic Wand」によるオブジェクト分離
- 「削除」、「コピースタンプ」、「コンテンツに応じた塗りつぶし」などの高度な編集ツール
- 高度なブレンドモードによる透明度制御と独自スタイルの追加
クリエイティブワークフローの革新と生成AIの商業的安全性
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このモバイルアプリの登場は、従来デスクトップ環境に依存していたプロフェッショナルな画像編集作業をどこでも行えるようにする点で、クリエイティブワークフローに大きな変化をもたらす可能性がある。特に注目すべきは、デスクトップ版とのファイル互換性だ。PSDフォーマットを完全サポートしており、デスクトップで作成したファイルをモバイルで開き(逆も同様)、シームレスに作業を継続できる。
Adobe Firellyによる生成AI機能も重要な特徴となっている。Firellyは、Adobe Stockと著作権が切れたパブリックドメイン画像のみで訓練されており、これにより生成されるコンテンツは商業利用が可能となっている。この点は、Midjourney、DALL·E、Krea AIなどの競合生成AIツールと比較して、著作権問題を懸念する企業ユーザーにとっての優位性となる。
実用例と市場への影響
Adobeのプロダクトマネジメント上級ディレクターであるShambhavi Kadamは、TechCrunchとの対話の中で「特に携帯電話に非常に慣れている新世代のクリエイターと話し、モバイルデバイスでの独自のユースケースを理解しようとした」と述べている。
実際の利用シーンについて、早期テスターからは多様な活用例が報告されている:
- デジタルアートやムードボードの作成
- ポッドキャストアートやアルバムカバーのデザイン
- ファッションルックブックの編集
- ビデオサムネイルやミームの制作
具体的な編集例として、犬の写真からリードやスマートフォンを生成塗りつぶしで自然に削除したり、人物写真から不要な手や影を除去したり、写真に大きな花などの視覚的要素を合成するといった用途が紹介されている。
企業のデザインチームやマーケティング部門にとって、このモバイルアプリは大きな柔軟性と効率性をもたらす可能性がある。デザイナーやマーケターは、オフィスのデスクトップ環境に依存することなく、どこからでも素早い編集、ビジュアルコンテンツの作成、プロジェクトのコラボレーションが可能になる。
また、若い世代のクリエイターを取り込むことも、Adobeの明確な戦略となっている。この動きは、Snapseed、Picsart、Canvaのモバイルアプリなどの人気編集アプリとの競争を意識したものと見られる。
今後の展望
今回のiPhone版リリースに続き、Android版の開発も進行中であることから、Adobeがモバイル戦略を強化していることは明らかだ。Web版Photoshopの強化と併せて、Adobeは「いつでも、どこでも」というクリエイティブワークフローの実現を目指している。
特に注目すべきは、AIツールの統合がもたらす可能性だ。商業的に安全な生成塗りつぶしや生成拡張機能は、モバイルでの迅速な編集とクリエイティブな表現の幅を大きく広げる。これにより、プロフェッショナルからカジュアルユーザーまで、幅広い層がより高度な画像編集を手軽に行えるようになるだろう。
Adobe Digital Mediaの上級副社長であるAshley Still氏は、「Photoshopの新しいモバイルとウェブアプリは次世代のクリエイティビティを解き放ち、クリエイターがいつでもどこでも素晴らしい写真や豊かで信じられないようなアートを生み出すことを可能にします」と述べており、Adobeの今後の方向性を示唆している。
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