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サイエンス

米民間企業が月面「完璧着陸」に成功—NASAの科学実験10件を遂行へ

2025年3月3日

米国の宇宙ベンチャー企業Firefly Aerospaceは2024年3月2日(米国時間)、月面着陸船「Blue Ghost」による完璧な着陸に成功した。民間企業として初めて問題なく月面着陸を達成し、NASAの科学機器10点を月面に届けた歴史的な快挙である。NASAとの1億100万ドル(約150億円)の契約に基づくこのミッションは、民間企業による月面探査の新時代の始まりを象徴している。

「時計仕掛けのような」精密な月面着陸

Blue Ghost着陸船は米国東部時間3月2日午前3時34分(日本時間同日午後5時34分頃)、月の表側にある「危難の海(Mare Crisium)」と呼ばれる古代の玄武岩平原に着陸した。着陸操作は全て自律的に行われ、平坦で岩の少ない安全な着陸地点を自動選択して降下した。

テキサス州リアンダーにあるFireflyのミッションコントロールでは、数十人のエンジニアが約40万km離れた月から送られてくるリアルタイムデータを監視していた。

「皆さん、着陸に成功しました。我々は月にいます!」とランダーの主任エンジニアのWill Coogan氏が宣言すると、イベント会場は拍手喝采に包まれた。

Firefly AerospaceのCEO Jason Kim氏は「ミッションコントロールは大いに盛り上がっています。着陸まで全てが時計のように正確に進みました。我々の靴に月の砂がついた」と成功を喜んだ。

民間企業による月面着陸競争

このFireflyの成功は、民間企業による月面着陸としては2例目となる。2024年2月に同じくテキサス州の企業Intuitive Machinesの「Odysseus」が着陸したが、その際は着陸脚を1本失い横転して、ミッションが短縮された。完全に成功した民間月面着陸はFireflyが初めてとなる。

近年、複数の政府や企業が月面着陸に挑戦しているが、成功は容易ではない。2023年にはロシアのLUNA-25が墜落、日本の「SLIM」は2024年に着陸したものの逆さまになり、ミッション完遂に必要な電力を得られなかった。また、2023年に日本のispace社は着陸の最終段階で接触を失い、墜落したと見られている。

先端技術を集約した月面実験室

Blue Ghostは蛍の一種にちなんで名付けられた高さ約2メートル、幅約3.5メートルの月面ランダーである。2024年1月15日にSpaceXのFalcon 9ロケットで打ち上げられ、約45日間の航行を経て月に到達した。同じロケットには日本のispace社の月面ランダー「Resilience」も搭載されていた。

10の先進的科学実験

ランダーに搭載された10個のNASA提供科学装置には、以下のような先端技術が含まれている:

  1. 静電式ダストシールド:NASAのケネディ宇宙センターで開発された技術で、電場を使って月の砂塵粒子の除去と宇宙船の繊細な部品への蓄積防止を実証する
  2. PlanetVac:Blue Origin社の子会社Honeybee Robotics社が開発した装置で、ランダーの底部から月面に接触し、高圧ガスカートリッジで土壌やダストを収集チャンバーに送り込む
  3. 放射線耐性コンピュータ:宇宙放射線に対する耐性を強化した計算機
  4. 月のGPSシステム:月面での位置特定システムの試験

NASA科学ミッション局の探査担当副管理者ジョエル・カーンズ氏は「太陽の研究から研磨性のあるダストの研究まで、表面を掘削し、レゴリスを採取します。この1回の月の昼間の間に多くの疑問に答えることになるでしょう。歴史に残るミッションです」と期待を表明した。

NASA主導の商業月面プログラムが結実

Blue Ghostの着陸成功は、NASAが2018年に立ち上げたCLPS(商業月面ペイロードサービス)プログラムの大きな成果である。CLPSはNASAのアルテミス月面有人プログラムに先駆けて、民間企業の宇宙船で科学・技術機器を月に送る取り組みだ。

コスト削減と民間活力の活用

前NASAの科学部門責任者トーマス・ツルブッヘン氏はCLPSについて「商業貨物や商業クルーよりもさらに軽いタッチのアプローチだった」と説明する。従来のNASA主導の月面ミッションでは5億ドル以上のコストがかかるところ、Blue Ghostミッションの総コストは約1億4500万ドルで済んでいる。

CLPSプログラムの特徴は、NASAが開発費を負担せず、民間セクターがランダーの設計・製造に全て資金を提供する点にある。NASAは輸送サービスのみを固定価格で購入し、中核顧客となることを約束している。これにより、政府の厳しい要件に縛られることなく、民間投資を誘致することを目指している。

将来の月面経済の基盤に

NASAはCLPSプログラムの参加資格を持つ13社のリストを管理しており、SpaceXやLockheed Martinといった老舗企業も含まれる。しかし、これまでのところほとんどの契約は新興企業が獲得している。Intuitive Machinesが4回、Firefly Aerospaceが3回、Astroboticが2回、Draper Laboratoryが1回のCLPS着陸ミッションを割り当てられている。

CLPSイニシアチブが政府以外の商業市場を創出するかどうかはまだ不明だが、少なくともこの成功はNASAに月面アクセスのより低コストな手段を提供することになる。

今後の活動と民間月面探査の未来

Blue Ghostは太陽光発電で稼働し、Mare Crisiumに太陽が沈むまでの約14日間(地球時間)、月面で活動する予定だ。太陽が沈むと温度が急激に低下し、ランダーの生存が不可能になる。

独自の科学観測を計画

ミッション期間中のハイライトとして、3月14日に皆既日食の高解像度画像を撮影する予定である。地球から見ると月食に見えるこの現象は、月面からは太陽食として観測される珍しい機会だ。

また、3月16日には月の日没を撮影し、アポロ17のユージン・サーナン宇宙飛行士が初めて記録した、太陽の影響で浮遊する月のダストによる地平線の輝きに関するデータを収集する予定である。日没後も数時間は月の夜間に入ってからの運用を継続するという。

月面探査ブームの先駆けに

このミッションは前例のない民間月面探査ブームの一環だ。Intuitive Machinesは2月26日に2番目の月ランダーAthenaを打ち上げ、3月6日に月の南極近くへの着陸を予定している。また、Fireflyと同時に打ち上げられた日本のispace社のResilienceも5月頃に着陸を試みる計画だ。

CLPSプログラムでは2028年まで月ミッションが計画されており、NASA関係者は「目標はあらゆる場所に着陸することです」と述べている。また、中国の民間企業STAR.VISIONも2028年に中国の嫦娥8号ミッションで2つの小型月探査ロボットを打ち上げる計画を持っており、中国の国家宇宙機関が民間企業と協力する初めてのケースとなる見込みだ。

Meta Description

米Firefly Aerospaceが月面ランダー「Blue Ghost」で完璧な着陸に成功。民間企業初の無事故着陸を達成し、NASAの10の科学実験を月面で展開。商業月面探査の新時代を開く歴史的一歩に。

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