Microsoftが、OpenAIとAnthropicに対抗しうる高性能な独自AIモデル「MAI」の開発を加速させていることが複数の報道機関によって報じられている。同社はAPI公開も視野に入れており、AIプラットフォーム競争の激化が予想される。
OpenAIへの対抗と独自AI「MAI」
長年の提携関係にあるOpenAIへの依存を軽減し、AI分野での自立を目指すMicrosoft。その戦略の中核となるのが、新たに開発中のAIモデルファミリー「MAI (Microsoft Artificial Intelligence)」である。複数の情報源によると、MAIはOpenAIやAnthropicの最先端モデルに匹敵する性能を実現。特に推論モデルは、OpenAIの高性能モデル「o1」に匹敵する能力を持つという。
Bloombergの報道では、テストの結果、MAIがCopilotなどのAIアシスタントを支える基盤モデルとして十分な性能を持つことが示唆されている。Microsoftは年内にもMAIへのAPIアクセスを外部開発者向けに開放する可能性があり、実現すればOpenAIなどのAIラボが提供するサービスと直接競合することになる。
2024年春にThe Informationによって報じられた内容では、MAIファミリーの一つ「MAI-1」は約5000億パラメータ(AIモデルの学習可能な変数の数で、一般的に多いほど高性能)を持つと言及されている。これはMicrosoftの以前の小規模モデルシリーズ「Phi」よりも大幅に大きいスケールであり、業界最大級のモデルに匹敵する規模だ。
MAIモデルの特徴として、Microsoftが事実上買収したAIスタートアップInflectionの技術とトレーニングデータが組み込まれている。また、同モデルは昨年発表されたMicrosoftの内部開発AIチップ「Maia 100」と関連している可能性も示唆されている。MicrosoftのCTO Kevin ScottはLinkedIn上でMAIの存在を確認しているが、同時にOpenAIとのパートナーシップの継続も強調している。
開発の経緯と技術的挑戦
MAIの開発は、2024年にMicrosoftのAI部門CEOに就任したDeepMindとInflectionの共同創設者Mustafa Suleyman氏の指揮のもと進められている。The Informationによると、この開発過程は1年にわたって技術的困難、方向性の変化、主要チームメンバーの離脱などの課題に直面してきた。
特に大きな打撃となったのは、Microsoftの小規模モデル「Phi」プロジェクトを率いていたSébastien Bubeck氏が複数のMicrosoft研究者と共にOpenAIに移籍したことだ。また、Suleyman氏は、OpenAIがo1モデルの内部動作の詳細を明かさなかったことに不満を持っていたとされている。この状況から、両社の間に技術共有に関する緊張が生じていることがうかがえる。
この困難な状況下で、Karén Simonyan氏率いるAIチームは「思考連鎖(Chain-of-Thought: CoT)」技術を活用して、OpenAIのo1に匹敵する推論能力を独自に開発したと報じられている。CoTとは、AIが複雑な問題を解く際に、人間のように段階的に思考プロセスを展開する技術であり、高度な推論タスクに不可欠なアプローチだ。
既にMicrosoftは最新のPhiモデル(Phi-4-miniとPhi-4-multimodal)開発において合成データを使用した新しいLLMトレーニング方法を開発しており、これがMAIモデルの開発にも応用されている可能性がある。Phi-4-multimodalは、パラメータ数がGPT-4よりも大幅に少ないにもかかわらず、一部のタスクではGPT-4に近いパフォーマンスを発揮すると言われており、Microsoftの効率的なモデル開発能力を示している。
OpenAIとの関係変化と戦略的展開
Microsoftが独自のLLM開発に注力する背景には、OpenAIとの関係の変化がある。Microsoftは現在までにOpenAIに約130億〜140億ドルを投資しているが、2024年1月にはパートナーシップの条件が改定され、OpenAIが競合クラウドプラットフォームにワークロードを移動することが可能になった。これによりMicrosoftの排他的クラウドプロバイダーとしての地位が変化している。
この変化に対応するように、MicrosoftはMAIの開発と並行して、Copilotで使用するAIモデルの多様化を進めている。複数の報道によると、MicrosoftはCopilotでxAI、Meta、Anthropic、DeepSeekなど他社のAIモデルも評価しており、OpenAIへの依存度を下げるための多角的な戦略を展開している。この「マルチモデル戦略」は、特定のAI企業に依存するリスクを分散させる賢明なアプローチと言える。
Bloomberg向けのコメントでMicrosoftの広報担当者は「以前にも述べた通り、私たちはモデルのミックスを使用しており、それにはOpenAIとの深いパートナーシップの継続に加えて、Microsoft AIおよびオープンソースモデルが含まれます」と述べている。この声明からは、Microsoftが独自モデル開発とパートナーシップを並行して進める「ハイブリッド戦略」を取っていることが読み取れる。
API提供計画とAI業界への影響
MAIのリリース時期については、BloombergとThe Informationは2025年中のAPI提供の可能性を示唆している。詳細はまだ不明だ画、いずれにせよ、MicrosoftがMAIモデルをAPI経由で外部開発者に提供する計画を持っていることは各報道で一致している。
API(Application Programming Interface)提供により、外部の開発者やビジネスはMicrosoftのAIモデルを自社のアプリケーションやサービスに統合できるようになる。これが実現すれば、MicrosoftはOpenAI、Anthropic、Googleなどと直接競合することになり、AIモデル市場の勢力図が大きく変わる可能性がある。
特にMicrosoftのクラウドプラットフォーム「Azure」の競争力強化にもつながるだろう。AzureでAIサービスを強化することで、クラウド市場でのAmazon Web Services(AWS)やGoogle Cloudとの競争においても優位性を築ける可能性がある。
このMicrosoftの動きは、大規模テクノロジー企業が独自のAIモデル開発に注力する傾向が強まっていることを示している。MetaがLlama 3をリリースし、Googleが内部開発のGeminiモデルをサービスとして提供する中、AIモデル開発の競争はさらに激化しており、企業間の技術格差が縮まっていることがうかがえる。
XenoSpectrum’s Take
Microsoftによる独自AIモデル「MAI」の開発は、AI業界における競争の新たな局面を示すものと言えるだろう。OpenAIへの巨額投資と提携関係を維持しながらも、自社開発を強化する戦略は、AIプラットフォームの覇権争いをより複雑化させる可能性がある。Copilotへのマルチベンダー戦略とMAIのAPI公開が実現すれば、開発者エコシステムにおけるマイクロソフトのプレゼンスは大きく向上するだろう。今後、MAIがOpenAIの牙城をどれほど切り崩せるか、そしてPhiシリーズの技術がMAIにどのように貢献していくのか、その動向から目が離せない。
Sources
- Bloomberg: Microsoft Creates In-House AI Models It Believes Rival OpenAI’s
- The Information: Microsoft’s AI Guru Wants Independence From OpenAI. That’s Easier Said Than Done
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