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マクドナルドはAIをフル活用した大規模な店舗改革を進めている

Y Kobayashi

2025年3月8日

ファストフード大手マクドナルド(McDonald’s)は、全世界43,000店舗でAI技術を活用した大規模な改革を進めている。Google Cloudと提携し、エッジコンピューティングを基盤とした店舗運営の効率化により、待ち時間短縮や注文精度の向上、機器故障の予防などを実現。低迷する売上の回復と2027年までにロイヤルカスタマーを2億5000万人に増やす目標達成を目指している。

AI技術を活用した店舗改革の全容

マクドナルドの改革は、2023年末にGoogle Cloudとの提携から本格化した。核となるのは各店舗に導入される「エッジコンピューティング」技術である。これはデータをクラウドに送信せずに店舗内で処理・分析する仕組みで、特に安定したクラウド接続のない遠隔地でも高速かつ安価に運用できる利点がある。

キッチン機器には各種センサーが設置され、フライヤーやマックフルーリーアイスクリームマシンなどのリアルタイムデータを収集。AIがこれらのデータを分析することで、機器が故障する前に予防的なメンテナンスを行うことが可能となる。マクドナルドのCIO(最高情報責任者)であるBrian Rice氏は「問題が発生する前に積極的に対処できれば、将来的にはより円滑な運営につながる」と述べている。

店舗内に設置されたカメラには「コンピュータービジョン」と呼ばれる顔認識技術の背景にあるAI技術を導入し、顧客に提供される前に注文の正確性をチェックする計画も進行中だ。

さらに注目すべきは「生成AI仮想マネージャー」の開発だ。これはシフトスケジューリングなどの管理業務を自動化するシステムで、店舗マネージャーの負担軽減を目指している。同様の取り組みはYum Brandsのピザハットやタコベルでも検討されている。

改革の背景と期待される効果

この大規模なAI投資の背景には、マクドナルドの米国での売上低迷がある。2024年1月の業績が振るわず、ファストフード業界全体が不況に直面している状況だ。特に低所得層や家族連れの消費者が経済的圧力を感じているとマクドナルドは分析している。

Rice CIOは店舗運営の課題について「当社のレストランは、率直に言って非常にストレスフルな環境です。カウンターの顧客、ドライブスルーの顧客、配達のために来る配達員、カーブサイドでの配達など、スタッフが対応すべきことが山積しています。テクノロジーソリューションがこのストレスを軽減するでしょう」と説明している。

マクドナルドはこの技術革新により、ロイヤルティプログラムのユーザーを現在の1億7500万人から2027年までに2億5000万人に増やす野心的な目標を掲げている。

AIはまた、顧客データの活用面でも重要な役割を果たす。過去の購入履歴などの顧客データと気象データなどを連携させ、パーソナライズされたプロモーションやオファーを提供する計画だ。Rice氏は「甘いものが好きな顧客には、暑い夏の日にアプリを通じてマックフルーリーのオファーを提供することができる」と具体例を挙げている。

過去の試みと今後の課題

マクドナルドのAI導入は今回が初めてではない。2019年から音声認識技術を活用したドライブスルーやロボットフライヤーの試験導入を開始。2021年にはIBMと提携し、AIによる自動注文受付システムのテストを行った。

しかし、これらの取り組みには課題も存在した。2024年7月には、IBMとのドライブスルーでの自動注文受付テスト提携を終了。100以上の店舗で実施されていたAIドライブスルー実験も、顧客が注文していない商品を受け取るという問題が報告され終了している。

今回の大規模なAI導入にも、フランチャイズと直営店舗での一貫した技術展開の難しさやコスト面での課題が指摘されている。市場調査・ITコンサルティング企業Gartnerのリテール分析専門家Sandeep Unni氏は「導入コストと、フランチャイズと直営店舗で同じ技術を展開する難しさが課題となる」と分析している。マクドナルドは技術イニシアチブに費やす金額については明らかにしていない。

一部では、AIへの投資よりも従業員トレーニングの強化や定期メンテナンスの改善に投資する方が良いのではないかという意見もある。ドライブスルーでの注文受付や注文の正確性確保などの業務を従業員がより効率的に行えるようになれば、「AI監視者」は不要になるという考え方だ。だが、少なくともマクドナルドはAIへの投資を続ける考えだ。

競合他社の動向と業界への影響

マクドナルドだけでなく、他のファストフードチェーンもAI技術の導入を急いでいる。ウェンディーズは「FreshAI」と名付けられたAI音声アシスタントを2023年からテスト導入し、現在約100店舗で使用中。2024年末までに500〜600店舗への展開を計画している。

タコベルは「Byte by Yum」というAIツールを導入し、レストランマネージャーの労働力や在庫管理を支援。このAIはスケジュール管理、ドライブスルー注文の支援、競合他社の活動に基づく運営変更の提案など、従業員の効率を最適化することを目指している。

一方で、In-N-OutやChick-fil-Aなどの競合他社は、AI技術よりも人的サービスの質で差別化を図っている。これらの企業は顧客サービスを完璧に仕上げており、他社も優先順位を設ければ同様の成功を収められる可能性があるという見方もある。

Unni氏によれば、マクドナルドは他のファストフードチェーンと比較して、新しいデジタル技術への投資に積極的だという。これに加え、顧客から収集した膨大なデータを活用することで、顧客ロイヤリティを向上させる方法を見出す上で優位に立っている。

Google Cloudの小売・消費財担当マネージングディレクターのJose Gomes氏は、マクドナルドはエッジコンピューティングの活用において業界の先駆者だが、決して単独ではないと指摘する。この技術は病院や工場など、分散した物理的拠点を持つあらゆる分野で活用されると予想されている。

ファストフード業界全体が、AIとデジタル技術を活用して効率化と顧客体験の向上を目指す流れは今後も加速しそうだ。


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