NVIDIAのJensen Huang CEOが中国・北京を訪問し、中国国営メディアCCTVのインタビューで中国市場の重要性を強調した。米国が同社のH20人工知能(AI)チップの中国向け出荷に新たな制限を課す中、Huang氏は中国市場の重要性を改めて強調し、規制に準拠した製品供給を続ける意向を表明した。
「中国は極めて重要」 Huang CEO、CCTVで規制下での決意語る
「中国は我々にとって非常に重要な市場だ」。NVIDIAのJensen Huang CEOは、中国国営放送CCTVのインタビューで、率直にこう語った。この発言は、米国政府がNVIDIA製の高性能AI(人工知能)向け半導体、特にデータセンター向けGPU「H20」の中国への輸出を新たに制限した直後という、極めてデリケートなタイミングで行われたもので、注目に値する。
GPU(Graphics Processing Unit)は、元々はコンピュータの画像処理を高速化するための半導体だが、その並列処理能力の高さからAIの学習や推論にも不可欠な存在となっている。NVIDIAはこの分野で圧倒的なシェアを誇る。
Huang CEOはインタビューの中で、過去30年にわたるNVIDIAと中国市場の関係性を振り返り、「実際、我々は中国で成長し、中国は過去30年間にわたって我々の成長を見守ってきました」と述べ、中国企業との長年の協力関係が相互の発展に貢献してきたと強調した。「もちろん、中国は非常に大きな市場であり…中国企業と協力することで互いに良くなってきました」とHuang氏は語る。
その上で、同氏は今後の中国市場へのコミットメントを明確にした。「我々は規制に準拠した製品を最適化するために引き続き多大な努力を払い、中国市場へのサービスを継続します」。これは、米国の規制という厳しい現実を受け止めつつも、可能な限り中国でのビジネスを継続しようとするNVIDIAの強い意志を示すものと言えるだろう。
逆風強まる米国の輸出規制:H20チップ制限の衝撃
Huang CEOの訪中と発言の背景には、米国政府による対中半導体輸出規制の段階的な強化がある。特に注目されるのが、NVIDIAが中国市場向けに性能を調整して開発したデータセンター向けGPU「H20」に対する輸出制限だ。
H20は、より高性能なモデルが輸出規制対象となったことを受け、NVIDIAが規制を回避するために設計したチップであった。しかし、米国政府は最近、このH20についても輸出制限の対象に加える決定を下した。その理由はH20の持つメモリ帯域幅(単位時間あたりに転送できるデータ量)とインターコネクト帯域幅(チップ間などでデータをやり取りする速度)が、依然として高性能コンピューティング、特に軍事転用可能なスーパーコンピュータ開発に利用される可能性があると判断されたためだ。
この新たな規制により、NVIDIAがH20を中国に出荷するには、米商務省から輸出ライセンスを取得する必要が生じた。しかし、商務省がこうしたライセンス申請に対して「原則不許可」の方針で審査するため、ライセンス取得は極めて困難との見方がある。
このH20規制はNVIDIAにとって大きな打撃であり、同社は第1四半期に55億ドル相当の在庫評価損を計上する見込みだと報じられている。Huang CEOもCCTVのインタビューで「規制強化は当社に著しい影響を与えた」と認めている。
さらに、米国は「AI Diffusion Rule」と呼ばれる新たな輸出管理規則を5月中旬に施行予定であり、これにより米国製AI向けGPUを中国のような指定された国へ販売することが、さらに厳しく制限される見込みだ。NVIDIA自身もこの規則に対し、「中国のAI技術開発を止めることはできず、むしろBirenやHuaweiといった中国企業による独自プロセッサや標準規格の開発を促す可能性がある」と批判的な見解を示している。
北京でのトップ会談:中国側の歓迎と期待
Huang CEOは今回の北京訪問で、中国国際貿易促進委員会(CCPIT)の任洪斌(Ren Hongbin)会長と会談した。国営放送CCTVによると、Huang氏はこの席でも「中国との協力を継続したい」と述べたという。
さらに、Huang CEOは北京の人民大会堂で、経済政策を担当する何立峰(He Lifeng)副首相とも会談した。国営新華社通信によると、何副首相はHuang氏に対し、「NVIDIAを含む米企業の中国市場でのさらなる事業展開を歓迎する」と述べ、広大な投資と消費の潜在力を持つ中国は、常に外資系企業にとって投資と貿易の「肥沃な土壌」であると強調した。これは、米国の規制圧力にもかかわらず、中国側がNVIDIAのようなハイテク企業との関係維持に依然として前向きであることを示唆している。
NVIDIAの広報担当者は、Huang CEOの訪中について「当社は製品や技術について議論するため、定期的に政府指導者と会談している」とコメントするにとどめ、具体的な議題については明らかにしなかった。
一方で、Huang CEOの訪中と時を同じくして、米下院の中国特別委員会がNVIDIAによる対中半導体輸出が米国の規制に違反していないか調査を開始したと報じられている。同委員会は、中国のAI企業DeepSeekがNVIDIA製の規制対象チップを数万個使用している可能性を指摘し、「米国の国家安全保障に対する深刻な脅威」と位置付けているという。なお、一部報道ではHuang氏がDeepSeek創設者のLiang Wenfeng氏と会談したとも伝えられているが、NVIDIA側はこの点についてコメントしていない。NVIDIAは調査に対し、「米国政府の指示に忠実に従っている」と反論している。
Huang CEOの今回の訪中は、米国の規制強化、中国側の期待、そして米議会からの監視強化という、複雑な状況下で行われたものだ。
岐路に立つNVIDIA:規制下での「最適化」の行方
Huang CEOが語った「規制に準拠した製品の最適化」が具体的に何を意味するのか、現時点では不明瞭だ。迫り来るAI Diffusion Ruleのような包括的な規制の下で、NVIDIAがどのように中国市場向けの「競争力のある製品」を提供し続けられるのか。H20のメモリ帯域幅やインターコネクト数をさらに削減した派生モデルを開発する可能性も考えられるが、「可能性は低いシナリオ」との指摘もある。
米国の規制は、NVIDIAのようなグローバル企業にとって、地政学リスクがいかに事業戦略に影響を与えるかを浮き彫りにした。Huang CEOの訪中と発言は、技術覇権を巡る米中対立の狭間で、巨大市場との関係を維持しようとする企業の苦闘を象徴している。今後、NVIDIAがどのような形で中国市場へのコミットメントを果たしていくのか、その具体的な戦略が注目される。
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