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Samsung、DDR4メモリ生産を2025年末に終了へ – DDR5・HBMへシフト加速、市場への影響は?

Y Kobayashi

2025年4月23日

Samsung Electronicsが、広く普及しているDDR4メモリモジュールの一部について、2025年末までに生産を終了する計画であることが台湾の工商時報によって報じられている。背景には、より新しいDDR5やAI向けHBM(High Bandwidth Memory)への戦略的シフトと、中国メーカーとの価格競争激化がある。この決定は、今後のPCやサーバー向けメモリ市場の供給、価格、そしてユーザーの選択に大きな影響を与える可能性がある。

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Samsung、DDR4生産終了の具体的な計画

今回の生産終了計画の中心となるのは、Samsungの旧世代プロセスである1y nm(第2世代10nmクラス)技術を用いて製造されたDDR4メモリモジュールである。EEWorldによると、具体的には8GBや16GB容量のデスクトップPC向けUDIMM(Unbuffered Dual In-line Memory Module)やノートPC向けSODIMM(Small Outline Dual In-line Memory Module)などが対象となる模様だ。

既に多くのサプライチェーン企業は、Samsungから対象製品のEOL(End of Life:生産終了)通知を受け取っているという。計画のタイムラインは以下の通りだ。

  • 最終注文受付(LBO: Last Buy Order): 2024年6月初旬
  • 最終出荷完了: 2025年12月10日

この動きは、Samsungがメモリ生産戦略を大きく転換させていることの表れと言える。同社は既に2024年第2四半期に、さらに古い世代であるDDR3メモリの生産を停止している。そして今回、DDR4についても段階的な縮小を進める。Samsungの全DRAM生産能力に占める1y nm DDR4の割合は、昨年の約20%から、2024年後半には10%未満へと急速に低下する見込みだ。さらに、次世代の1z nmプロセスを用いたDDR4についても、2027年頃の生産終了が見込まれている。

なお、工商時報によれば、Samsungが1z nmプロセスの8Gb LPDDR4(主にモバイル機器向け)についても4月にEOLを迎えるのことだ。こちらの最終注文は6月、最終出荷は10月までとされており、DDR4モジュールとは異なるスケジュールだが、Samsungがレガシー製品から先端製品へ軸足を移している全体的な方向性は一致している。ただし、LPDDR4はDDR4とは異なる規格であり、報道内容に若干の混在が見られる可能性も留意すべきだろう。

なぜ今、DDR4から撤退するのか? – 背景にある2つの要因

世界第2位のメモリメーカーであるSamsungが、依然として大きな市場を持つDDR4から段階的に撤退する背景には、大きく分けて2つの要因があると考えられる。

要因1:先端技術への戦略的シフト

一つ目は、より収益性が高く、将来的な成長が見込める先端メモリ技術への経営資源集中である。

  • DDR5への移行: 最新世代のPCやサーバーでは、より高速・大容量なDDR5メモリへの移行が進んでいる。Samsungとしては、この需要増に対応するため、DDR5の生産能力を拡大する必要がある。
  • LPDDR5の需要: スマートフォンや薄型ノートPC向けには、省電力性能に優れたLPDDR5(Low Power DDR5)の需要が高まっている。
  • HBM需要の爆発: 特に大きな要因となっているのが、AI(人工知能)サーバーや高性能GPU(Graphics Processing Unit)に不可欠なHBMの需要急増である。HBMは非常に高い帯域幅を実現する特殊なメモリであり、製造には高度な技術と専用の生産ラインが必要となる。AIブームによりHBM市場は急拡大しており、SamsungやSK hynixといった大手メモリメーカーにとって最重要戦略製品の一つとなっている。限られた製造設備(ファブ)と投資(キャペックス)を、DDR4のような成熟製品から、これら先端メモリへと振り向けることは、経営戦略上、理にかなった判断と言える。

要因2:中国メーカーとの競争激化

二つ目は、DDR4市場における中国メーカーの台頭と、それに伴う価格競争の激化である。

長らくDRAM市場はSamsung、SK hynix、Micronの3社による寡占状態が続いてきたが、近年、中国のメモリメーカーが急速に技術力を向上させ、生産能力を拡大している。特にCXMT(長鑫存儲)やFujian Jinhua(福建省晋華集成電路)といった企業は、DDR4市場で存在感を増している。

これらの中国メーカーは、大手メーカーよりも大幅に安い価格(報道では最大50%安価なケースも)でDDR4チップを供給していることも以前報告された。CXMTは2024年末に月産20万枚のウェハー生産能力に達し、さらに30万枚を目指しているとされ、今後さらに価格競争力を高める可能性がある。米国の制裁下にあるFujian Jinhuaも、大手メーカーがDDR4から手を引く中で生産を拡大している模様だ。

こうした状況下で、Samsungのような大手メーカーにとって、DDR4市場の収益性は以前に比べて低下している。利益率の高い先端製品に注力し、価格競争が激しいレガシー市場(DDR3やDDR4)からは段階的に撤退するという流れは、昨年SK hynixなどがDDR3生産から撤退した動きとも共通している。

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市場への影響と今後の展望

SamsungによるDDR4生産の段階的終了は、メモリ市場全体に多方面な影響を及ぼすと考えられる。

供給ギャップと価格変動

大手メーカーの撤退は、短期的にはDDR4市場における供給ギャップを生む可能性がある。特に、高い信頼性や品質が求められる用途(サーバー、産業機器など)では、安価な代替品への切り替えが難しいケースもあるだろう。

この供給不安や、生産終了を見越したメモリモジュールメーカーによる在庫積み増しの動きなどが影響し、短期的にはDDR4価格が上昇する可能性があり、TrendForceも、米国の関税政策の不確実性なども相まって、2025年第2四半期にはDRAM全体の価格が3~8%上昇すると予測している。

しかし、長期的には、CXMTなどの中国メーカーが増産を進めることで供給ギャップが埋まり、価格が安定、あるいは再び下落する可能性も考えられる。ただし、その際にはチップの品質や信頼性が改めて問われることになるだろう。

市場構造の変化

Samsungのような巨大プレイヤーがDDR4市場から軸足を移すことで、市場の勢力図が変化する可能性がある。

  • 中国メーカーのシェア拡大: CXMTなどがDDR4市場でのシェアをさらに伸ばすことは確実視される。ただし、TrendForceが指摘するように、中国メーカーも将来的にはHBM3/3eといったハイエンド製品への参入を計画しているとの噂もあり、競争はDDR4市場にとどまらない可能性がある。
  • 台湾メーカーのビジネスチャンス: 大手メーカーが手薄になったDDR4市場は、台湾のNanya TechnologyやWinbond Electronicsといった、これまでもレガシーDRAM市場で強みを発揮してきたメーカーにとって、シェアを拡大する好機となる。米中貿易摩擦による中国製品への関税も、台湾メーカーにとっては追い風となるかもしれない。

地政学リスク

米中間の技術覇権争いや貿易摩擦は、半導体市場全体に大きな不確実性をもたらしている。特に、次期米国大統領選挙の結果次第では、関税政策などが再び大きく変動する可能性も否定できない。こうした地政学リスクは、サプライチェーンの混乱や価格変動を通じて、メモリ市場にも影響を与え続けるだろう。

ユーザーへの影響

現在DDR4メモリを搭載したPCやサーバーを使用しているユーザーにとっては、将来的な保守やアップグレードの際に、メモリの入手性や価格が変動する可能性がある。特に高品質なDDR4メモリの選択肢が減る可能性も考慮すべきだろう。

この動きは、結果的にDDR5への移行を後押しする可能性もある。新規にPCを組んだり購入したりする際には、将来性を見越してDDR5対応プラットフォームを選択する動きが加速するかもしれない。

一方で、低価格帯のPC市場においては、中国製の安価なDDR4チップが広く利用されるようになる可能性が高い。コストを最優先するユーザーにとっては朗報かもしれないが、長期的な安定性や互換性には注意が必要となるかもしれない。

DDR4時代の終焉とメモリ市場の新局面

SamsungによるDDR4生産の段階的終了は、単なる一製品のライフサイクル終了にとどまらず、メモリ市場における大きな転換点を示す動きと言える。技術世代交代(DDR4からDDR5/HBMへ)と、地政学的な影響も絡んだ市場競争環境の変化(中国メーカーの台頭)という、2つの大きな潮流が背景にある。

短期的には、DDR4市場における供給不安や価格上昇といった混乱も予想される。しかし長期的には、市場は新たなバランスへと移行していくはずだ。先端技術へのシフトは加速し、DDR4市場では新たなプレイヤーが存在感を増すだろう。

私たちユーザーは、こうした市場の動向を注視し、自身のニーズや予算、そして求める信頼性に応じて、最適なメモリを選択していく必要がある。DDR4メモリが完全に姿を消すまでにはまだ数年の猶予があるが、その「終わりの始まり」が、今、明確に告げられたと言えるだろう。


Sources

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