NVIDIAが米国司法省から2件の反トラスト法(日本の独占禁止法に当たる)違反の調査を受けていることが明らかになった。この調査は、AIチップ市場における同社の支配的地位と、最近のイスラエルのスタートアップ企業買収に関するものであり、急速に成長するAI産業における競争の公平性に対する懸念を反映したものだ。
NVIDIAは支配的地位を濫用している可能性を疑われている
米国司法省による2つの調査のうち、最初のものは、NVIDIAによるRun:aiの買収に焦点を当てている。Run:aiは、GPUの仮想化技術を専門とするイスラエルのスタートアップ企業で、NVIDIAは2023年4月に約7億ドルで同社を買収したと報じられている。この買収は、NVIDIAのAIチップ市場における地位をさらに強化する可能性があるため、規制当局の注目を集めた。
2つ目の調査は、より広範囲にわたるものだ。NVIDIAがその市場支配力を濫用し、顧客に競合他社の製品使用を思いとどまらせていないかどうかを精査する。具体的には、クラウドプロバイダーに対してNVIDIA製品の購入を強要していないか、競合他社からAIチップを購入する顧客に対してネットワーク機器の価格を不当に高く設定していないか、さらには顧客がライバル企業から製品を購入した場合に報復措置を取っていないかなどが調査対象となっている。
The Informationによると、司法省の担当者は、AMDやAIチップの新興企業を含むNVIDIAのライバル企業数社と接触し、苦情に関する情報を収集しているという。
これらの調査の背景には、NVIDIAのAIチップ市場における圧倒的なシェアがある。推定では、NVIDIAはAIモデルのトレーニングに必要なチップ市場の70%から95%を支配しているとされる。この優位性は、同社の独自ソフトウェアCUDAにも起因しており、フランス競争当局もこの点を懸念材料として指摘している。
NVIDIAの広報担当者Mylene Mangalindan氏は、「NVIDIAは長年の投資とイノベーションに基づいて競争しており、全ての法律を厳密に遵守しています」と述べ、同社の製品がクラウドおよびオンプレミスで全ての企業に公平に提供されていると強調している。また、顧客が最適なソリューションを選択できるようにしていると付け加えている。
この調査は、より広範な文脈の中で理解する必要がある。2023年7月、米国、EU、英国の主要規制当局は共同声明を発表し、「AI業界における公正な競争を損なう、あるいは不公正または欺瞞的な慣行につながる戦術」から保護することを誓約した。この背景には、ごく少数の巨大テクノロジー企業がAI市場を支配することへの懸念がある。
さらに、この調査は米Biden政権による反トラスト法執行の強化の一環でもある。この動きは、シリコンバレーと共和党からの反発を引き起こしている。特に懸念されているのは、こうした規制強化がスタートアップ企業の出口戦略として重要な役割を果たしてきた大企業による買収に影響を与える可能性だ。多くのスタートアップ創業者や投資家は、大企業による買収を主要な資金回収手段と考えているため、この動きは投資家の間に不安を広げている。
NVIDIAに対する調査は、AI技術の急速な発展と、それに伴う市場の変化が、規制当局にとって新たな課題をもたらしていることを示している。公正な競争を維持しつつ、イノベーションを促進するバランスをどのように取るかが、今後の重要な課題となるだろう。
Sources
- Politico: Feds put Nvidia AI deal under antitrust scrutiny
- The Information: Nvidia Faces DOJ Antitrust Probe Over Complaints From Rivals
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