OpenAIは2024年9月12日、新しい人工知能モデル「OpenAI o1」を発表した。この新モデルは、より人間に近い思考プロセスを模倣し、複雑な問題に対してより正確な解答を導き出すことができるという。
OpenAI o1:より深く”考える”AI
OpenAI o1は、これまでのAIモデルとは異なり、質問に対して即座に回答するのではなく、まず「考える」時間を持つように設計されている。OpenAIの研究者であるNoam Brown氏は、「OpenAI o1は、応答する前に’考える’ように強化学習で訓練されています。考える時間が長いほど、推論タスクでの性能が向上します」と説明している。
OpenAIのCEOであるSam Altman氏は、o1を「一般的な目的で複雑な推論ができるAI」と評し、「新しいパラダイム」だと述べている。ただし、Altman氏は同時に「まだ欠陥があり、限界もある」と慎重な姿勢も示している。
o1モデルは、問題解決のプロセスを洗練させ、異なる方法を試み、自身の間違いを認識してから最終的な回答を出力するよう訓練されている。これは人間が複雑な問題に取り組む際のプロセスに似ており、より正確で有益な回答を提供することを目指している。
この新しいアプローチにより、AIの能力向上に新たな次元が開かれたとOpenAIは主張している。Brown氏は「事前学習だけでなく、推論の計算能力もスケールアップできるようになりました」と述べ、AIの進化に新たな可能性が生まれたことを示唆している。
この新しいアプローチにより、o1は特に論理的思考を要する課題において優れた性能を発揮する。例えば、国際数学オリンピアド(IMO)の予選問題では、o1は83%の問題を正しく解答できたとのことだ。対して、前モデルのGPT-4oは13%しか解けなかったというから、その能力がいかに大きく飛躍したかが分かる。また、プログラミングコンテストのCodeforcesでは、参加者の上位89%に達する成績を収めている。
o1の能力は数学やプログラミングにとどまらない。データ分析、科学、コーディングなどの分野でも従来のモデルを上回る性能を示している。GitHubの報告によると、o1はアルゴリズムの最適化やアプリケーションコードの改善にも優れた能力を発揮するという。さらに、アラビア語や韓国語などの多言語能力も向上しており、GPT-4oを凌駕する性能を示している。
o1の開発には、従来のAIモデルとは全く異なるアプローチが採用されている。OpenAIの研究責任者であるJerry Tworek氏は、「o1は完全に新しい最適化アルゴリズムと、特別に調整された新しいトレーニングデータセットを使用して訓練されました」と述べている。
この新しい訓練方法では、強化学習という技術が用いられている。これにより、o1は問題を解決する過程で「思考の連鎖」を形成し、人間のように段階的に問題を処理することができる。この結果、o1はより正確な回答を導き出すことが可能となった。
o1の潜在的な応用分野は幅広い。OpenAIは、以下のような使用例を挙げている:
- 医療研究者による細胞配列データの注釈付け
- 物理学者による複雑な数式の生成
- ソフトウェア開発者による多段階の設計の構築と実行
ただし、o1には現時点でいくつかの制限がある。Web閲覧機能やファイルおよび画像のアップロード機能は含まれていない。また、また、GPT-4oと比較してプロンプトの処理速度が大幅に遅く、コストも高いという課題がある。
さらに、AIモデルが誤った情報を生成する「ハルシネーション」の問題も完全には解決されていない。OpenAIの最高研究責任者であるBob McGrewは「ハルシネーションを解決したとは言えません」と認めている。
OpenAIのChief Research OfficerであるBob McGrew氏は、o1の将来性について次のように語っている。「私たちは何ヶ月もの間、推論能力の向上に取り組んできました。なぜなら、これこそが人間レベルの知能に向けた重要な突破口だと考えているからです」。
OpenAIは今後、数時間、数日、さらには数週間にわたって「考える」ことができるo1モデルの開発を目指している。これにより、新薬開発やリーマン予想の証明など、画期的な応用が可能になると期待されている。
現在、o1はプレビュー版として提供されており、ChatGPTの有料ユーザーのみが週に制限付きで利用できる。OpenAIは同時に、コーディングに特化した軽量版「o1-mini」も発表している。将来的には無料版ChatGPTユーザーにも提供されるようだ。o1-preview の場合は 週に30 メッセージ、o1-mini の場合は 50 メッセージが利用できると言う。これらの制限は今後徐々に引き上げられる計画とのことだ。
o1の登場は、AIが単なるチャットボットを超えて、より高度な思考と推論が可能な存在へと進化する可能性を示すものと言えるだろう。
OpenAIは同時に、GPTシリーズのモデルの開発とリリースも継続する予定であることを明らかにしている。
Sources
コメント