中国のクラウドコンピューティング業界に、NVIDIAの最新GPUを大胆に改造した特別モデルが密かに登場し、AI開発者たちの間で大きな話題を呼んでいる。GeForce RTX 4090Dの48GBモデルとRTX 4080 Superの32GBモデルが、それぞれ通常版の2倍のVRAMを搭載して中国市場に投入されたのだ。米国による制裁下、いかにして中国市場において利益を確保することが出来るかというNVIDIAの試行錯誤が垣間見える動きとなっている。
制裁下で進化を遂げる中国向けNVIDIA GPU
NVIDIAは2023年12月、米国による対中輸出規制に対応するためにRTX 4090Dを発表した。これは米国による規制の範囲内に収まる性能に抑制するために、通常のRTX 4090と比較してコア数を削減し、消費電力を抑えたモデルだ。その翌月には、RTX 4080 Superも発表され、999ドルという競争力のある価格で市場に投入された。
しかし、今回中国のクラウドサービス「AutoDL」に登場したのは、これらの既存モデルをさらに進化させた特別仕様だ。通常のRTX 4090Dが24GBのVRAMを搭載しているのに対し、この特別モデルは倍の48GBを実現。同様に、RTX 4080 Superも16GBから32GBへとVRAM容量を大幅に増強している。
これらの改造GPUは、単なるメモリチップの交換ではなく、PCBの大幅な再設計を必要とする高度な改造を施していると考えられる。現存する2GB GDDR6Xチップを使用しながら大容量化を実現するため、PCBの両面にメモリモジュールを搭載する特殊な設計を採用していると推測される。この手法は、NVIDIAが以前は存在したゲーミング向けフラッグシップTitanやRTXプロフェッショナル向けGPUで採用している方式と同様の物だ。
AutoDLでは、これらの特別仕様GPUをクラウドサービスとして提供している。特にRTX 4080 Super 32GBモデルは、1時間あたりわずか0.03ドルという破格の料金で利用可能だ。ただし、このサービスは中国の電話番号を持つユーザーのみが利用できるプランになっている。
価格面では、RTX 4090D 48GBモデルが約2,500ドルで取引されていると報告されている。これは通常版の1,815ドルと比べて685ドル高い。この価格差は、メモリ増設とカスタムPCB設計にかかる追加コストを反映していると考えられる。
これらの特別仕様GPUが中国市場に登場した背景には、複数の要因が絡んでいる。まず、AIワークロードの急速な拡大に伴い、大容量メモリを搭載したGPUへの需要が高まっていることが挙げられる。特に画像生成や大規模言語モデルの学習など、メモリを大量に必要とするタスクでは、これらのGPUが大きな性能向上をもたらす可能性がある。
また、米中の技術覇権争いの影響も無視できない。輸出規制により最新のハイエンドGPUの入手が困難になる中、中国企業が独自に既存モデルを改造して性能を引き上げる動きが加速している可能性がある。
さらに、NVIDIAが公式に発表していない特別仕様が中国市場に登場していることから、現地企業との密接な協力関係や、グレーマーケットの存在も示唆される。これらのGPUが6月末から中国市場で流通し始めていたという情報は、この状況の複雑さを物語る物と言えるだろう。
この動きは、世界のGPU市場と中国のテクノロジー産業の動向を反映する興味深い事例となっている。高性能コンピューティング分野における技術革新と地政学的な要因が複雑に絡み合う中、GPUの進化は予想外の方向に進んでいる。今後、これらの特別仕様GPUが中国のAI開発にどのような影響を与えるのか、また他の市場にも波及効果があるのかどうか、そして、中国の国産AIチップとの関係など、興味深い状況は続きそうだ。
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