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2024年のPC市場は緩やかな回復を見せるも2025年は不確実性が増大

Y Kobayashi

2025年1月11日

世界のPC市場が緩やかな回復基調にある。調査会社IDCの最新レポートによると、2024年第4四半期のPC出荷台数は前年同期比1.8%増の6,890万台を記録し、通年では1.0%増の2億6,270万台となった。しかし、2025年については複数の不確定要素が市場の先行きを不透明にしている。

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市場回復の兆しと地域別動向

2024年第4四半期、PC市場は複数の追い風を受けて成長を維持した。IDCのリサーチマネージャーであるJitesh Ubrani氏は、中国政府による補助金政策がコンシューマー市場を押し上げたと指摘する。また、米国と欧州では年末商戦での販促活動が奏功。さらに、2025年10月に予定されているWindows 10のサポート終了を見据えた企業のハードウェアアップグレードも、需要を下支えした。

メーカー別の明暗

2024年のPC市場において、主要メーカー各社は異なる成長軌道を描いた。首位のLenovoは年間6,180万台を出荷し、市場シェア23.5%を確保。特に2024年第4四半期には前年同期比4.8%増と力強い成長を見せ、通年でも4.7%増と好調を維持した。この成長は中国市場での政府補助金効果を効果的に取り込めたことが大きな要因とみられる。

2位のHPは、年間出荷台数5,300万台で市場シェア20.2%を維持したものの、成長率は0.1%と伸び悩んだ。特に第4四半期には1.7%のマイナス成長を記録。企業向け市場での競争激化が影響したとみられる。

Dell Technologiesは年間3,910万台を出荷し、市場シェア14.9%で3位の位置を確保。しかし、通年で2.2%のマイナス成長となり、主要メーカーの中で唯一、年間を通じて出荷台数を減らす結果となった。第4四半期も0.2%減と低調な推移が続いており、企業向け市場での需要減速の影響を強く受けた形だ。

一方、Appleは第4四半期に前年同期比17.3%増と驚異的な成長を記録。これを牽引力として、通年でも8.7%の市場シェアを確保し、4.5%の成長を達成した。新型MacシリーズとM3チップの好調な市場投入が、この成長を支えた要因として挙げられる。

5位のAsusも堅調な成績を収めた。第4四半期には11.7%の成長を記録し、通年でも6.4%増と、主要メーカーの中で2番目に高い成長率を達成。市場シェアも6.8%まで拡大し、ゲーミングPCセグメントでの強みが成長を後押ししたと分析される。

これら上位5社以外のメーカーは、総じて苦戦を強いられた。その他メーカー全体で年間出荷台数は2.1%減少し、市場シェアも26.7%から25.9%へと縮小。市場の回復局面において、経営資源を多く持つ大手メーカーの優位性が際立つ結果となった。

2024年第4四半期出荷台数(単位は100万台)2024年第4四半期市場シェア2023年第4四半期出荷台数(単位は100万台)2023年第4四半期市場シェア前年同期比成長率
1. Lenovo16.924.5%16.123.8%4.8%
2. HP Inc13.719.9%14.020.6%-1.7%
3. Dell Technologies9.914.4%9.914.6%-0.2%
4. Apple7.010.1%5.98.8%17.3%
5. ASUS4.76.9%4.26.3%11.7%
その他16.724.2%17.525.9%-4.8%
合計68.9100.0%67.7100.0%1.8%
上位5社、世界の従来型PC出荷台数、市場シェア、前年比成長率、2024年第4四半期 (Source: IDC Quarterly Personal Computing Device Tracker, January 9, 2024)
2024年通年出荷台数(単位は100万台)2024年市場シェア2023年通年出荷台数(単位は100万台)2023年市場シェア成長率
1. Lenovo61.823.5%59.122.7%4.7%
2. HP Inc.53.020.2%52.920.3%0.1%
3. Dell Technologies39.114.9%40.015.4%-2.2%
4. Apple22.98.7%21.98.4%4.5%
5. Asus17.96.8%16.86.5%6.4%
その他68.025.9%69.526.7%-2.1%
合計262.7100.0%260.2100.0%1.0%

このような各社の明暗は、単なる数量競争を超えて、製品ポートフォリオの強さや地域戦略の巧拙、そして新技術への投資能力の違いを反映したものといえる。特にAI PC時代を見据えた製品開発力と、地域別の需要変動への対応力が、今後の競争を左右する重要な要素になると予想される。

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2025年における市場の転換点と構造変化

PC業界は2025年に向けて、複数の重要な転換点を迎えようとしている。IDCのグループバイスプレジデントであるRyan Reith氏が指摘するように、マクロ経済環境の不確実性がAI PCの普及に対して二重の影響を及ぼしている。予算が制約される環境下で、より高価格帯となるAI PCへの投資判断は企業にとって慎重にならざるを得ない状況だ。同時に、実用的なユースケースの確立が遅れていることも、市場の成長速度を抑制する要因となっている。

政治的な不確実性も市場に大きな影を落としている。米国の政権交代を控え、対中関税政策の変更が現実味を帯びてきた。これを受けて一部のPCメーカーは、中国での生産体制の見直しや、代替生産拠点の確保を模索し始めている。IDCの調査によれば、特に中国以外に製造拠点を持たないブランドにおいて、予防的な在庫の積み増しなど、先行的な動きが確認されている。ただし、現時点でのサプライチェーンへの影響は限定的な範囲に留まっているという。

より本質的な変化は、PC産業そのものの構造転換にある。オンデバイスAIの実装は、もはや選択の問題ではなく必然となっている。しかし、その普及プロセスは当初の予想よりも複雑な様相を呈している。高性能なNPU(Neural Processing Unit)を搭載したPCの投入は、製造コストの上昇を伴う。この追加コストを、どのように価格設定に反映させるかは、各メーカーにとって難しい判断となっている。

特に注目すべきは、Windows 10のサポート終了が2025年10月に予定されていることだ。これは企業のPC更新サイクルを加速させる要因となる一方で、その更新需要をAI PCへの移行にどこまで結びつけられるかが、業界全体の成長シナリオを左右する重要な要素となる。

さらに、AI PCの価値提案も進化の途上にある。現状では、画像生成や自然言語処理などの基本的なAI機能の実装が中心だが、今後はより実務に直結した機能の開発が求められる。特に企業向け市場では、セキュリティ強化やワークフロー最適化など、具体的な業務効率の向上に寄与する機能の実装が不可欠となる。

このような複合的な変化に対して、業界各社の対応も分かれ始めている。一部のメーカーは、従来型PCとAI PCの製品ラインを明確に分離し、段階的な移行を目指す戦略を採用。一方で、全面的にAI機能の実装を進め、製品の差別化要素として位置付けるメーカーも現れている。この戦略の違いが、2025年以降の市場シェアを左右する可能性が高い。

IDCの分析が示唆するように、PC産業は単なる技術革新の波を超えて、ビジネスモデルの根本的な変革期を迎えつつある。AI機能の実装は、ハードウェアの性能向上だけでなく、ソフトウェアエコシステムの発展と、それを支える新たな収益モデルの確立をも要求している。この転換をいかに成功させるかが、各社の将来的な競争力を決定づける重要な要素となるだろう。


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