AMDの幹部が、最新のゲーミングプロセッサRyzen 7 9800X3Dの供給不足について、競合するIntelのArrow Lake製品の性能不足が予想以上の需要を引き起こしていると説明した。CES 2025での会見で、同社幹部はIntelの製品を「ひどい(horrible)」と厳しく評価している。
予想を超える需要の背景
AMDのゲーミングソリューション&マーケティング担当チーフアーキテクトのFrank Azor氏は、「我々は素晴らしい製品を作ったことは分かっていた。しかし、競合他社がこれほどひどい製品を作るとは想定していなかった」と述べ、需要予測を大きく上回る状況が発生していることを認めた。
クライアントチャネルビジネス担当コーポレートバイスプレジデント兼ゲネラルマネージャーのDavid McAfee氏は、7000X3Dシリーズおよび9000X3Dシリーズの製造能力を大幅に増強していると説明。「9800X3Dと7800X3Dへの需要は前例のないレベルに達している」と述べている。
生産拡大には時間が必要
X3Dプロセッサの製造プロセスは、通常のCPUと比較してはるかに複雑だ。McAfee氏によると、標準的な半導体製造では、ウェハーの製造開始から完成品の出荷までに約12〜13週間を要する。しかし、X3Dプロセッサの場合、3D V-Cacheの積層プロセスが加わることで、製造期間はさらに延長される。
製造の複雑さは、主に三つの重要な工程から生じている。まずCCD(コア・コンプレックス・ダイ)ウェハーの製造があり、同時並行でキャッシュウェハーの製造も進められる。そしてこれらのウェハーを組み合わせる積層プロセスが、製造工程の最も繊細な部分となる。McAfee氏は「スタッキングプロセスは些細な工程ではない」と強調し、各工程に「相当な時間」が必要だと説明している。
このため、需要予測を上回る生産量の調整には、四半期(3ヶ月)以上の期間を要する。McAfee氏は「X3Dは我々のCPUポートフォリオにおいて、1年前には誰も予測していなかったほど重要な位置を占めるようになった」と述べ、2025年前半を通じて段階的な生産能力の拡大を進めていく方針を示している。
興味深いことに、この供給の制約は3D V-Cacheそのものの製造能力の問題ではないとMcAfee氏は指摘する。むしろ、複数の製造工程を経て完成品となるまでの総合的な時間的制約が、現在の供給不足の主要因となっている。AMDは顧客需要が継続する限り、この製造能力の拡大を続けていく構えだ。生産能力の増強は既に計画を大幅に上回るペースで進められているが、製造の複雑さゆえに、供給が需要に追いつくまでにはなお時間を要する見通しとなっている。
8コア版に集中する需要
興味深いことに、より高性能な12コアや16コアのX3Dモデルよりも、8コアの9800X3Dへの需要が圧倒的に高いという。McAfeeは「9000シリーズでも、8コアのX3Dパーツの需要が他のモデルの10倍以上になるだろう」と予測している。
クリエイター向けの作業では、X3Dの追加キャッシュによる性能向上がわずかであるため、純粋なゲーミング用途に特化した8コアモデルが市場の大半を占めているとされる。
Xenospectrum’s Take
AMDの率直な発言の背景には、現在のIntelの苦境が垣間見える。Arrow Lakeの性能不足を修正するパッチも効果を上げておらず、むしろWindows更新による恩恵は競合製品の方が大きいという皮肉な状況だ。
半導体製造の世界では、需要予測の精度が重要な成功要因となる。今回のケースは、競合の失態という予測困難な要因が需給バランスを大きく崩した珍しい事例と言える。ただし、製造能力の拡大には数ヶ月単位の時間を要するため、当面は品薄状態が続く可能性が高い。
IntelのJim Johnsonが新技術について「未発表の製品については話せない」と述べるにとどまっていることからも、当面はAMDの優位が継続すると予想される。2025年のゲーミングCPU市場は、まさにAMDの独壇場となりそうだ。
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