AnthropicがIPOを目指すなか、今後約10年間で少なくとも5,180億ドルに上るAIインフラ関連の支払い義務が注目されている。

非公開の上場申請書を確認したReutersの9月29日報道によると、このうち約8割は解約できないか、実際の利用量が契約額を下回っても一定額の支払いが必要な契約だという。

約2兆ドルというIPO時の評価額が報じられる一方、Claudeの開発と提供に必要な計算資源を確保するため、Anthropicは将来の需要を見越して巨額の支出を先に約束している。

計算資源の調達先を増やすことは、供給リスクを分散するうえでは有効だ。しかし、需要の伸びが鈍った場合に支出まで柔軟に減らせるとは限らない。

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約8割の支払い義務は、利用量が減ってもそのまま残る

Reutersが報じた主要契約を、利用量が減った場合に支払いをどこまで減らせるかという観点で整理すると、4つの大型契約が目立つ。

相手先 報道された支払額 利用量が減った場合などの条件
Google 少なくとも1,111億ドル 契約した利用額に届かなければ差額を支払う
Amazon 少なくとも1,100億ドル Googleと同様、利用量が不足しても一定額の支払いが必要
Microsoft 314億ドル Microsoft側の重大な契約違反が是正されない場合を除き、原則として解約不能
Broadcom関連の設備リース 約1,612億ドル 債務不履行などを除き、双方から解約できない

Google、Amazon、Microsoft、Broadcom関連への支払い義務を合計すると4,137億ドルとなり、報道された総額5,180億ドルの約79.9%に相当する。

計算は(1,111+1,100+314+1,612)÷5,180×100で、同じReuters報道に記載された金額を使った概算だ。

ただし、一部には「少なくとも」とされた最低額が含まれ、契約期間もそれぞれ異なる。そのため、4,137億ドルが特定の1年間に支払われる金額や、現在の負債額を示すわけではない。

これに対し、xAIから調達するNVIDIA系の計算容量は、2029年までに最大845億ドルに達する可能性があるものの、その大部分は90日前の通知で解約できるという。

同じ5,180億ドルの中でも、後から利用量を調整できる契約と、使わなくても一定額を支払わなければならない契約では、需要予測が外れた場合のリスクが大きく異なる。

2026年に増える計算資源と、2027年から稼働する設備

Anthropicは4月20日のAmazonとの契約発表で、今後10年間にAWS関連技術へ1,000億ドル超を投じ、最大5GWの計算容量を確保すると説明していた。

2026年末までには、Trainium2とTrainium3を合わせて約1GWを稼働させる計画だった。

Anthropicは当時、利用者の急増によって、ピーク時間帯のサービス安定性や性能に影響が出ていることも認めている。長期契約の背景には、足元の需要に対して計算資源が不足しているという事情もある。

計算容量の増強が利用者に直接反映された例もある。

5月6日のSpaceXとの提携発表では、Colossus 1の計算容量を利用し、同月中に300MW超、NVIDIA GPU22万基超へアクセスできるようにすると発表した。

同日、対象プランのClaude Codeでは5時間ごとの利用上限を2倍に引き上げ、ProとMax向けClaude Codeについて、ピーク時間帯に利用上限を引き下げる措置も撤廃した。

Anthropicは、新たな契約とその他のインフラ増強によって、利用上限を引き上げられたと説明している。

一方、実際の稼働が2027年以降になる設備も多い。

GoogleとBroadcomとの4月6日の発表では、次世代TPUを使う数GW規模の計算容量を2027年から稼働させる計画が示された。

AMDが7月22日に公表した提携でも、最大2GW規模のInstinct MI450シリーズを導入する計画で、最初の1GWは2027年前半から導入を始める予定だ。

つまり、2026年の需要増に対応するための計算資源と、2027年以降のさらなる成長を見込んで確保する設備では、時間軸が異なる。

AMDとの協業には、Claudeを使ってGPU上の処理を最適化し、ROCmソフトウェアの開発を加速する取り組みも含まれる。

計算資源の調達先を増やすには、チップを確保するだけでなく、それぞれのハードウェア上でモデルを効率よく動かすための最適化も必要になる。

AnthropicがTrainium、TPU、NVIDIA GPUなどを使い分けるとしているのも、処理内容に応じて適したハードウェアを選ぶためだ。

なお、GWは設備の電力規模を示す指標であり、異なるAIチップ同士の処理性能をそのまま比較できる数字ではない。

複数の基盤を利用できれば、特定の供給元で障害や設備遅延が発生した場合の選択肢は増える。

しかし、処理を別のチップへ移せることと、すでに締結した契約の支払い義務を別の事業者へ振り替えられることは別の問題だ。

調達先が増えるほど、それぞれの契約で確保した計算容量をどこまで実際に使い、それをどれだけ売上につなげられるかが採算を左右する。

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出資者であり、販売者であり、競争相手でもあるクラウド企業

Amazonの4月の提携説明を見ると、大手クラウドとの提携が販売面でも重要な理由が分かる。

Claude PlatformをAWSの既存アカウントから利用できるようにし、追加の認証情報や契約、別個の請求関係を管理する必要をなくす計画だ。

企業は、すでに使っているアクセス管理や監視の仕組みを維持したままClaudeを導入できる。計算基盤だけでなく、既存の販売経路まで利用できることは、サービス普及を速める利点になる。

一方で、こうした経路への依存度も高まっている。

Reutersの別の独自報道によると、AmazonとGoogle経由の売上高が全体に占める割合は、2023年の11%、2024年の32%から、2025年には47%まで上昇した。

両社はClaudeを顧客へ届ける販売パートナーであると同時に、Anthropicへ計算資源を提供する供給者でもある。

さらにAnthropicへ出資する一方で、自社でもAIモデルやAIサービスを開発している。

Anthropicにとって、大手クラウドとの提携は顧客獲得や資金調達、計算資源の確保を同時に進められる一方、複数の重要な役割を同じ相手に依存する構造にもつながる。

収入側と支出側では、契約の柔軟性にも差がある。

Reutersによると、2025年の従量課金による売上高は約38億ドル、定額制による売上高は約7億8,900万ドルだった。

大口顧客の多くには長期契約による強い拘束がなく、利用量を減らしたり、サービスの利用を停止したりできるという。

顧客が利用を減らせばAnthropicの売上高も減る。しかし、インフラ側で約束した最低支払額まで同じ割合で減るとは限らない。

需要が急速に伸びている間は、将来必要になる計算資源を先に確保する戦略が有効に働く。

一方で成長が鈍化すれば、利用量に応じて変動する収入と、長期間にわたって固定された支払い義務とのずれが大きくなる。

クラウド企業との提携がこうした緊張関係を持つことは、以前から公的な調査でも指摘されている。

米連邦取引委員会(FTC)が2025年1月に公表した市場調査では、AI開発企業が、出資元のクラウド事業者へ資金の大部分を支払う契約や、別のクラウド基盤へ乗り換える際の技術的・契約上の負担が取り上げられた。

価格や顧客利用状況などの機密情報を共有することが、競争に与える可能性のある影響についても指摘している。

FTCが調べたのは2024年9月までの情報と、2025年1月までの公開情報であり、今回報じられたAnthropicの契約を違法と判断したものではない。

それでも、利用できるAIチップの種類が増えたからといって、クラウド企業との資金調達、販売、計算資源供給を含む関係まで簡単に解消できるわけではないことを示す材料にはなる。

Anthropicの成長を支える大手企業が、同時に自社のAI事業やクラウド事業の成長も目指す構図は今後も続く。

650億ドル調達の中身と、これから発生する支払い

Anthropicが5月28日に発表したSeries Hでは、650億ドルを調達し、投資後の企業評価額は9,650億ドルとなった。

同社によると、同月の年換算売上高は470億ドルを超えていた。

ただし、これは直近の売上ペースを1年間続けたと仮定した数字であり、実際に1年間で計上した売上高とは異なる。

約2兆ドルとされるIPO時の企業評価額もReutersが報じた目標値であり、6月1日に発表された非公開での上場申請の段階では、募集株式数や公開価格は決まっていなかった。

650億ドルの調達額についても、内訳には注意が必要だ。

Series Hには、クラウド大手などが以前から約束していた150億ドルが含まれており、そのうち50億ドルはAmazonによる出資だ。

したがって、4月に発表されたAmazonの50億ドルを、5月発表の650億ドルへさらに加えると二重計上になる。

Amazonが別途示している最大200億ドルの追加投資も、商業上の一定条件を達成することを前提とした将来の投資であり、全額をすでに受け取った資金として扱うことはできない。

同じSeries Hの発表では、Micron、Samsung、SK hynixもインフラ分野の戦略的パートナーとして名前が挙げられている。

AIの計算能力を拡大するには、演算用チップだけでなく、メモリーやストレージの大量供給も必要になる。

ただし、この発表では各社から購入する製品の金額や数量までは示されていない。パートナー企業として名前が掲載されたことを、そのまま確定した受注額とみなすことはできない。

新しい設備の多くが稼働し始める2027年以降は、契約によって確保した計算容量を実際の需要がどこまで埋められるかを、支払いスケジュールと合わせて見る必要がある。

さらに、モデルの学習にかかる費用と、顧客からの要求に応じて推論を実行する費用を、サービス料金から得られる収入でどこまで賄えるかも重要になる。

確保した計算資源を使い切るだけでは十分ではない。

利用量が増えても利益が残る収益構造を作れて初めて、巨額の資金調達と長期インフラ契約が、Anthropicの次の成長を支える投資として機能する。