中国の半導体技術が欧米に大きく後れを取っていることが明らかになった一方で、急速な進歩を遂げつつある実態が浮き彫りとなった。米シンクタンクInformation Technology and Innovation Foundation (ITIF)の報告書によると、中国は最先端の半導体製造において欧米から5年以上遅れているものの、特許出願数では米国や日本を上回るなど、着実に力をつけている。この状況は、半導体産業における中国の台頭と、それに対する欧米の警戒感の高まりを示唆している。
中国半導体産業の現状と課題
中国政府は2014年以降、半導体産業を国家の最重要産業の一つと位置づけ、1500億ドル以上の投資を行ってきた。この大規模な支援策の結果、中国の半導体設計企業数は2010年から2022年にかけて約6倍に増加し、3,243社にまで達した。しかし、ITIFの報告書によると、最先端の半導体製造技術において、中国は依然として世界のリーダーに約5年遅れをとっているとされる。報告書の著者であるStephen Ezellは、中国企業がロジックチップの設計において世界のリーダーから約2年遅れている一方、メモリチップではさらに数年遅れていると指摘している。
特に半導体製造装置の分野では、中国の遅れが顕著だ。リソグラフィツールなどの製造装置において、中国は5世代も遅れているという見方もある。これは、最先端の半導体製造プロセスにおいて重要な役割を果たす装置の開発と生産が、依然として欧米企業に大きく依存していることを示している。
しかし、こうした技術的な遅れにもかかわらず、中国は知的財産と革新の面で注目すべき進展を遂げている。研究開発投資の面では、中国の半導体産業のR&D強度は7.6%と、アメリカの18.8%やEU諸国の平均15%を大きく下回っているが、特許出願数では米国と日本を上回り、特許協力条約(PCT)に基づく国際特許出願の大部分を中国が占めている。2020年には、中国の半導体産業は3,400件以上の特許を取得した。これは10年前のわずか122件から大幅に増加している。ただし、ITIFの報告書は、これらの特許の多くが必ずしも重要な革新を表すものではないと慎重な見方を示している。
中国の主要半導体企業である Semiconductor Manufacturing International Corporation (SMIC) は、7nmチップの生産能力を獲得したものの、高量産での28nm以下のプロセスには依然として課題を抱えている。一方で、Huaweiのチップ設計子会社HiSiliconのような企業は、モバイルデバイスやAI用チップの設計において急速な進歩を遂げている。
2023年8月、HuaweiはMate 60 Proスマートフォンを発表し、そこに搭載された7nmのKirin 9000Sチップは業界に衝撃を与えた。SemiAnalysisのDylan Patel氏とFabricated KnowledgeのDoug O’Loughlin氏は、このチップについて「Qualcommのチップと比較すると、おそらく18か月程度の遅れしかなく、いくつかの点では実際に同等の性能を持っています」と評価している。
半導体製造におけるシェアの変化も注目に値する。1990年から2021年にかけて、米国の世界シェアは37%から12%に低下した一方、中国のシェアはほぼゼロから米国と同等の12%にまで上昇した。しかし、中国の成長は主に28ナノメートル以上のレガシー半導体の生産によるものだ。これらは自動車、医療機器、家電製品、エネルギー、インフラ、航空宇宙製品などで一般的に使用されている。
中国企業は革新よりも価格で競争する傾向があると報告書は指摘している。これは、中国の半導体産業のR&D投資が他国と比べて低いことと関連している。半導体工業会の計算によると、2022年の中国のR&Dスコアは米国の40%にとどまり、欧州、台湾、韓国、日本よりも大幅に低かった。この状況は、中国が量産規模と政府の大規模な産業補助金に支えられて、価格競争力を維持していることを示唆している。
しかし、Ezellは消費者向け電子機器、太陽光パネル、通信機器などの産業でも同様の現象が起きていることを指摘し、イノベーターがより安価な競合他社に負けることは珍しくないと警告している。この観点から、中国の半導体産業の台頭は、技術的な遅れにもかかわらず、市場シェアを拡大する可能性があることを示唆している。
中国の最終目標は、半導体産業のあらゆる面で自給自足を達成することだ。2015年に発表された「中国製造2025」戦略では、2025年までに半導体の70%を自給自足するという野心的な目標が設定された。しかし、ITIFの予測では、2025年までに達成できるのは30%程度で、完全な自給自足には追加で1兆ドルの投資が必要だとしている。この目標達成の困難さは、半導体産業の複雑さと、グローバルなサプライチェーンの重要性を浮き彫りにしている。
ITIFは、中国が2010年代半ば以降、半導体産業の発展に取り組んできたことを指摘し、米国の輸出規制が中国の国産半導体産業開発を促したという見方を否定している。しかし、報告書は「非常に複雑な技術エコシステムにおいて、『単独路線』戦略は中国にとって非常に困難だろう」と警告している。これは、半導体産業が本質的にグローバルな協力を必要とする産業であることを示唆している。
この状況を踏まえ、Ezellは米国に対し、同盟国と協力して世界貿易機関(WTO)のルールを更新し、産業補助金に対するより厳しい条件を実施するよう提言している。また、報告書は米国に対し、輸出規制を狭く絞り込むことを推奨している。これは「外国の競合他社の国家安全保障機関から先進的な米国技術を守る利益」と「輸出規制が米国企業の売上を減少させる現実」のバランスを取る必要があるためだ。
最後に、ITIFの報告書は、中国の半導体産業の革新能力を評価することが特に困難であることを認めている。これは部分的に、習近平国家主席の下で中国が世界への情報開示を減らしていることが原因だ。特に産業・技術能力に関する情報が制限されている。
中国政府は「中国製造2025」戦略で2025年までに半導体の70%自給率を目指していたが、現実には2025年末までに30%程度の自給率にとどまる見込みである。RANDのJimmy Goodrich氏は、中国が真の自給自足を達成するためには、少なくともさらに1兆ドルの投資が必要であると指摘している。
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