中国のAIスタートアップDeepSeekが発表した画期的なAIモデルが、NVIDIAをはじめとする米国ハイテク企業の株価を急落させ、市場に衝撃が走っている。DeepSeekはこれまで数百億円がかかっていた最先端のAIモデル開発と比較し、従来の3%のコストで最先端のAIモデルに匹敵するAIモデルの開発に成功したと主張しており、巨額の投資を行ってきた米国テック企業の戦略に疑問が投げかけられている。
史上最大の時価総額下落を記録
週明けの株式市場は波乱の展開となった。NVIDIAの株価は17%まで下落し、一時的に時価総額を5000億ドル失う事態となった。これは米国株式市場史上最大の下落幅となる。同社は2024年9月にも2790億ドルの時価総額を失っており、自社の記録を大幅に更新する形となった。この下落により、NVIDIAはAppleとMicrosoftに次ぐ時価総額3位の企業となった。
株価下落の影響は他のテクノロジー企業にも波及し、MetaとMicrosoftはそれぞれ5%と7%の下落を記録。オランダの半導体製造装置メーカーASMLも9.7%下落するなど、AI関連企業全体に売りが広がった。
低コストで実現するAI革新
DeepSeekの衝撃は、同社が開発したR1モデルの驚異的なコスト効率に起因する。同社の主張によると、約558万ドルという比較的少額の投資で、OpenAIのモデルと同等の性能を実現したとされる。
これは、OpenAIが2024年に約70億ドルの運用コストを要し、ChatGPTの運用に1日70万ドルを費やしているとされる状況と対照的だ。さらに、OpenAIは先週、MGX、Oracle、SoftBankとの共同事業「Stargate Project」で、今後4年間で5000億ドルのAIインフラ投資を計画すると発表したばかりであり、これに冷や水を浴びせた格好だ。
米中ハイテク競争の新局面
DeepSeekの台頭は、米中のAI開発競争に新たな展開をもたらすものだ。同社は米国の輸出規制下で、主に旧型のNVIDIA A100チップと中国市場向けに設計されたH800チップを使用してモデルを開発。約2,000個のGPUと2か月未満の訓練期間で、競争力のあるモデルを完成させたと主張している。
これに対し、OpenAIは約25,000個のA100 GPUを使用し、90-100日の訓練期間を要したとされる。この効率性の差は、AIモデル開発の従来の常識を覆すものだ。
Barclaysのアジア新興市場マクロ・為替戦略責任者のMitul Kotecha氏は「中国が、これらの関税や技術企業への投資制限が課される中で手をこまねいていたわけではないという現実が少し見え始めている」と指摘する。
Meta社のチーフAIサイエンティストYann LeCunは、この状況を地政学的な対立としてではなく、「オープンソースモデルが独自モデルを凌駕している」と解釈すべきだと指摘している。
Xenospectrum’s Take
今回の市場の反応は、AIバブルの脆弱性を露呈させた象徴的な出来事だ。NVIDIAの時価総額の急落は、単なる一時的な市場センチメントの変化ではなく、AIビジネスモデルの根本的な再考を迫るものだ。
特に注目すべきは、コンピューティング史における普遍的な法則が、ついにAI業界にも及んだという点だ。かつて数千ドルもした基本的なソフトウェアコンポーネントが、今では無料で利用できるように、AIモデルもまた、高価な独占的資産から、誰もが利用できるコモディティへと進化しつつあるのかも知れない。
DeepSeekの成功は、「より多くのリソース、より大きなモデル、より多くのデータ」という従来のアプローチへの反証となった。これは、クラウドハイパースケーラーが主導してきたAI開発の方向性に、根本的な疑問を投げかけている。
今後は、効率性とイノベーションの新たなバランスが求められるだろう。ただし、DeepSeekの主張の検証はこれからであり、性急な結論は避けるべきだ。市場の過剰反応は、むしろ冷静な分析の必要性を示唆している物と言えるだろう。
Meta Description
中国AIスタートアップDeepSeekの低コストモデル開発により、NVIDIA株が史上最大の下落を記録。AI開発の常識を覆す効率性が示され、テクノロジー業界に変革の波が押し寄せている。業界の将来像に新たな課題が投げかけられた。
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