Huaweiの最新フラッグシップスマートフォンMate 70 Proに搭載された新型プロセッサ「HiSilicon Kirin 9020」が、これまで散々報道機関によって伝えられてきたSMICの5nmプロセスではなく、予想に反して7nmプロセスで製造されていることが、半導体分析企業TechInsightsの調査で明らかになった。期待された5nmプロセスへの進化は実現せず、中国半導体産業の技術進歩の停滞を示す新たな証左として注目を集めている。
想定を下回る製造プロセスの詳細
TechInsightsによる詳細な分析は、Huaweiの最新プロセッサの製造工程について、業界の予測を覆す実態を明らかにした。HiSilicon Kirin 9020は、中国の半導体製造大手SMICの第2世代7nmプロセス(通称N+2)で製造されていることが確認されたのだ。当初、業界アナリストらは同チップがSMICの5nmプロセス技術を採用すると予測していたが、実際にはプロセスの微細化は実現されなかった。
新チップの物理的特徴に目を向けると、興味深い設計上の工夫が見えてくる。Kirin 9020は前世代のKirin 9010と比較して15%大きいダイサイズを採用し、136.6平方ミリメートルの面積を確保している。この拡大されたダイサイズは、製造プロセスの限界を補うための戦略的な選択とみられ、キャッシュメモリの増強によってパフォーマンスと電力効率の向上を図る意図が読み取れる。
チップの詳細な解析からは、製造工程における継続性も確認された。パッケージには’Hi36C0’や’GFCV110’といった、前世代のKirin 9000Sから引き継がれたマーキングが確認される一方、’WH231203’という新しい固有識別子も発見された。この識別子の存在は、基本的なアーキテクチャを踏襲しながらも、一定の改良が加えられたことを示唆している。
特筆すべきは、このチップが示す技術的な意味合いである。2020年にTSMCのEUV(極端紫外線)対応N7+プロセスで製造された初代Kirin 9000と比較すると、製造技術の面では実質的な進歩が見られない。SMICは米国の制裁下でも7nmクラスのチップを量産できる技術力を維持しているものの、より先進的な製造プロセスへの移行には著しい困難を抱えていることが、今回の分析結果から明確になった。
深刻化する技術格差
中国の半導体製造技術が直面している課題は、単なる一時的な停滞ではなく、構造的な問題として深刻化しつつある。その中核にあるのが、先端的な製造装置へのアクセス制限である。特に、最先端の半導体製造に不可欠とされるオランダASML社のEUVリソグラフィ装置が入手できない状況は、製造プロセスの微細化に向けた決定的な障壁となっている。
この技術格差の実態は、台湾の技術担当大臣の発言に如実に表れている。同大臣によれば、TSMCは2025年に2nmプロセスの量産を開始する計画を着実に進めており、この時点で中国本土との技術格差は約10年に達する見通しだという。さらにBloombergの報道によれば、Huaweiが5nmプロセスの量産体制を確立できるのは早くても2026年とされており、その頃にはTSMCは第2世代2nmプロセス(N2P)やゲートオールアラウンド(GAA)ナノシート・トランジスタを採用したA16製造ノードの実用化を進めているとみられる。
特に注目すべきは、この技術格差がAI処理装置の分野に及ぼす影響だ。Huaweiの次世代AI処理装置HiSilicon Ascend 910Cは、2025年の登場時点でSMICの6nmクラスプロセス(N+3)に依存せざるを得ない見通しだ。これは2020年に発表されたAscend 910(NVIDIA A100との競合を意図して開発)の簡略版である910Bからの大きな進展が見込めないことを意味する。対照的に、NVIDIAは来年にもBlackwellシリーズの量産を開始する予定であり、プロセッサレベルでのAI処理能力において、少なくとも2世代分の技術格差が生じることが予想される。
この状況に対するHuaweiの対応策として、膨大な数のAscend 910シリーズプロセッサを集積した巨大AIデータセンターの構築による性能補完が考えられる。しかし、この手法による大規模言語モデルのトレーニングが、米国企業との競争力を長期的に維持できるかどうかは不透明である。さらに、こうした対症療法的なアプローチは、エネルギー効率や運用コストの面で大きな課題を抱えることになる。
このように、半導体製造技術における中国と先進国との格差は、単なる製造プロセスの世代差を超えて、AI開発能力や産業競争力全般に波及する構造的な問題として顕在化しつつある。政府による潤沢な資金援助だけでは解決できない、技術的なボトルネックの存在が、改めて浮き彫りとなっているのである。
Xenospectrum’s Take
今回の調査結果は、中国半導体産業が直面している構造的な課題を如実に示している。特に注目すべきは、政府から潤沢な資金援助を受けているSMICですら、2026年まで7nmプロセスに留まる見通しという点だ。
より深刻な影響が予想されるのはAI処理装置の分野である。2025年に登場予定のHiSilicon Ascend 910Cが6nmプロセス(N+3)に留まる一方、NVIDIAは既にBlackwellシリーズの量産準備を進めている。この技術格差は、中国のAI開発能力に大きな制約をもたらす可能性が高い。
皮肉なことに、2020年にTSMCのEUV対応N7+プロセスで製造された初代Kirin 9000の方が、特定の性能面で2024年モデルを上回る可能性すらある。これは技術進歩の停滞を象徴する象徴的な事例と言えるだろう。
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