米国を代表する半導体企業Intelが、韓国のSamsung Electronicsに対し、ファウンドリー(半導体受託生産)事業での包括的な協業を打診していたことが明らかになった。複数の報道によると、Pat Gelsinger Intel CEOは、李在鎔(イ・ジェヨン)Samsung会長との直接会談を要請。両社のトップレベルでの協議を通じ、ファウンドリー部門における広範な協力体制の構築を目指しているという。
TSMCの圧倒的優位性が背景に
この動きの背景には、台湾TSMCによる半導体ファウンドリー市場の独占的支配がある。業界調査会社TrendForceの報告によると、2023年第2四半期におけるTSMCの市場シェアは62.3%に達し、Samsungの11.5%を大きく引き離している。特に注目すべきは、3nmや5nmといった最先端プロセスにおいて、TSMCが92%という圧倒的なシェアを確保している点である。
Samsungは3nmプロセスの製造に関しては先行していたが、歩留まりの改善に苦戦しており、この差は縮まる気配を見せていない。
Intelも当初予定していた2nmプロセスの製造を諦め、1.8nmプロセスの製造に注力することを決定するなど、開発は難航しているようだ。
そうした現状の中、両社はTSMCの牙城を崩すため、手を組むことを模索しているようだ。
専門家によると、IntelとSamsungの協業が実現した場合、以下の分野での包括的な協力が予想されるという:
- 製造プロセス技術の相互交換
- 生産設備の共同利用
- 研究開発(R&D)での協業
特筆すべきは両社の補完関係だ。Samsungは3nm GAA(Gate-All-Around)技術を保有し、Intelはチップの統合技術「Foveros」や電力効率を向上させる「PowerVia」技術を持っている。これらの技術を組み合わせることで、AI、データセンター、モバイルAP向けの高性能・低消費電力プロセッサの共同開発が可能となる。
両社の製造拠点の地理的分布も、この提携の重要な要素となっている。Samsungは米国・韓国・中国に、Intelは米国・アイルランド・イスラエルに製造施設を保有している。近年、米国やEUによる先端半導体の輸出規制が強化される中、この地域分散型の生産体制は戦略的な優位性をもたらす可能性がある。
とは言え、Wccftechが指摘するように、両社のファウンドリー事業が直面している最大の問題は、TSMCが既にAppleやNVIDIA、Qualcommなどの大口顧客を持っていることにある。IntelやSamsungの今後の先端ノードが成功したとしても、それを元に顧客を獲得するためには、その優位性を何年にもわたって示さなければ難しいだろう。
Xenospectrum’s Take
この動きは半導体業界において、大きな地殻変動を伴う出来事と言える。しかし、両社の協業が実現したとしても、TSMCの強固な市場支配力を短期間で覆すのは困難だろう。
特に注目すべきは、Samsungの3nm GAAプロセスの歩留まりが10-20%程度と報告されている点だ。また、Intelのファウンドリー部門(IFS)も、Cisco、AWSとの契約は獲得したものの、投資額に見合う大口顧客の獲得には至っていない。
両社の協業は、技術力の相互補完や地政学的リスクの分散という観点では理想的だが、実務レベルでの統合や、顧客からの信頼獲得には相当な時間を要するだろう。半導体業界の新たな同盟が、どこまでTSMCの牙城を崩せるか、今後の展開が注目される。
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