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IntelとTSMC、半導体製造で歴史的タッグか? 合弁設立で暫定合意と報道

Y Kobayashi

2025年4月4日

半導体業界の巨人、IntelとTSMCが製造分野で手を組む可能性が浮上した。The Informationによると、両社はIntelの工場運営を目的とした合弁会社設立について暫定的な合意に達したという。これが事実であれば、経営再建中のIntelにとって、そして世界の半導体供給網にとって、極めて大きな出来事となりそうだ。

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報じられた合意内容:TSMCが20%出資、ノウハウ提供も?

ニュースサイト「The Information」が最初に報じ、Reutersが追随した情報によると、IntelとTSMCは、Intelの半導体製造工場(ファブ)を運営するための合弁会社(JV: Joint Venture)設立に向け、暫定的な合意に至ったとされる。

この合意に基づき、世界最大の半導体受託製造企業であるTSMCは、新会社の株式の20%を取得する見込みとのことだ。TSMCはこの出資分を現金ではなく、同社が長年培ってきた高度なチップ製造に関する知見やノウハウをIntel従業員に共有し、トレーニングを提供することで賄う可能性があるという。これが事実であれば、IntelはTSMCの効率的な生産手法や技術サービスを直接学ぶ機会を得ることになり、長年の課題であった製造プロセスの改善に繋がるかもしれない。

残りの80%の株式を誰が保有するのかは現時点では不明確だ。Reutersは以前、TSMCがAMD、Broadcom、NVIDIAといった米国の主要ファブレス半導体企業に対し、この合弁事業への出資を打診したと報じたことがある。しかし、NVIDIAとTSMCの役員はこの報道を後に否定していた。

背景にあるIntelの苦境と米国政府の強い後押し

この異例とも言える提携協議の背景には、Intelが直面している深刻な経営状況と、米国の半導体産業強化を目指す政府の強い意向がある。

Intelは近年、製造技術開発の遅れや市場シェアの低下に苦しんできた。特にAI(人工知能)ブームを牽引する高性能半導体の波に乗り遅れ、巨額の投資を行ったファウンドリ事業(他社ブランドのチップを製造する事業)も、TSMCのような競合他社が提供するレベルの顧客サービスや技術サポートを提供できず、遅延やテスト失敗が報告されていたと、元幹部がReutersに語っている。その結果、Intelは2024年に188億ドルもの純損失を計上。これは1986年以来初の年間赤字であり、同社の株価も2024年には、一時60%下落した。

このような状況を打開すべく、Intelは2024年3月、元取締役で半導体業界のベテランであるLip-Bu Tan氏を新たなCEOに任命した。Tan氏就任当初から、抜本的な改革を行うとの観測が出ていた。

今回の合弁報道は、単なる企業間の戦略的提携にとどまらない。The InformationやReutersによると、ホワイトハウスと商務省の高官が、Intelの経営危機を解決するためにTSMCとIntelに取引を成立させるよう働きかけてきたとされ、米国の半導体製造能力強化とIntel再建への強い意志が働いていることを示唆している。米国政府としては、Intelの工場が海外企業、特にTSMCに完全に売却されることは望んでおらず、合弁という形での協力が現実的な落とし所と見ている可能性がありそうだ。

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課題と今後の焦点:不透明な部分と業界への影響

この合意が正式に決定すれば、半導体業界に大きな影響を与えることは間違いない。しかし、現時点では多くの点が不透明である。

まず、TSMCが具体的にどのIntelの工場運営に関与するのか、その詳細は明らかになっていない。Intelの工場は数十億ドル規模の投資が行われているが、多くはIntel自身のプロセッサ製造に特化しており(Intel 3やIntel 4プロセス対応工場など)、最新のIntel 18Aプロセスに対応できる工場は限られている。TSMCがどのレベルの製造技術(最先端プロセスを含むか否か)を合弁会社に提供するのかも不明だ。

また、TSMC自身の米国での投資計画との整合性も問われる。TSMCはアリゾナ州に大規模な工場(Fab 21)を建設中であり、最近ではさらに1000億ドルの追加投資と5つの工場増設計画を発表している。この自社計画と、Intelとの合弁事業への関与(たとえ20%の出資であっても)がどのように両立するのか、今後の説明が待たれる。

市場の反応は対照的であった。報道を受けてIntelの株価は約7%上昇した一方、米国で取引されるTSMCの株価は約6%下落した。これは、投資家がIntelにとっては再建への大きな一歩と期待する一方、TSMCにとっては競合への技術流出リスクや、自社計画との重複によるリソース分散などを懸念している表れかもしれない。

現在、IntelとTSMCは決算発表前のサイレント期間にあるため、将来計画や業績に影響を与えうる事項について公式なコメントは出せない状況である。両社とも報道に対してコメントを控えている。

この歴史的な提携が実現するのか、そしてどのような形で具体化するのか。Intelの再建、米国の半導体戦略、そして世界のテクノロジー業界の勢力図に大きな影響を与える可能性のある動きとして、今後の展開が注目される。


Sources

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