テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

Microsoft、データセンター計画を縮小か?世界各地で停止・延期報道

Y Kobayashi

2025年4月4日

Microsoftが世界規模でデータセンター建設計画を停止または延期しているとBloombergが報じた。AIサービス需要の予測見直しや建設上の課題などが背景にある可能性があり、同社の巨額投資戦略が大きな曲がり角を迎えているのかもしれない。

スポンサーリンク

Bloomberg報道:世界各地で計画見直し

Microsoftが、人工知能(AI)やクラウドサービスを支えるデータセンターの建設計画を世界各地で見直していることが、Bloombergの報道により明らかになった。同報道は、この状況に詳しい匿名の情報筋の話として、Microsoftがインドネシア、英国、オーストラリア、そして米国のイリノイ州、ノースダコタ州、ウィスコンシン州などで、データセンター用地の交渉中止や開発延期に踏み切ったと伝えている。

MicrosoftはAIサービスの商用化におけるリーダーと目されており、特にOpenAIとの緊密なパートナーシップを通じてその地位を確立してきた。そのため、同社の設備投資計画は、クラウドおよびAIサービスに対する長期的な顧客需要を測る上で、投資家から注視されている。

Microsoft自身は、データセンター計画に変更を加えている事実を認めているものの、個々のプロジェクトに関する具体的な詳細については明言を避けている。「当社は、適切な場所に十分なインフラを確保するため、何年も前からデータセンターのキャパシティニーズを計画している」と広報担当者は述べ、「AI需要が拡大し続け、当社のデータセンター拠点が拡大し続ける中で、我々が行った変更は、我々の戦略の柔軟性を示すものだ」と説明している。

しかし、具体的な事例として、Bloombergは以下の点を挙げている。

  • 英国: ロンドンとケンブリッジの間にある、高度なNVIDIA製チップをホストできると宣伝されていたサイトのリース交渉から撤退。
  • 米国シカゴ近郊: データセンター用地の交渉を停止。
  • 米国ノースダコタ州: Applied Digital社とのデータセンター賃貸交渉が長期化し、独占交渉権が失効。Applied Digitalは現在、他の企業と交渉を進めている。
  • インドネシア(ジャカルタ郊外): データセンターキャンパスの一部の建設作業を一時停止。
  • 米国ウィスコンシン州マウントプレザント: 計画されていた拡張の一部を保留。ここはバイデン大統領(当時)も訪問した複合施設の一部である。
  • 英国ロンドン(ドックランズ): Ada Infrastructureの210メガワット規模のデータセンターへのリース交渉を保留。

また、クラウドコンピューティングの余剰能力をMicrosoftにリースしていたCoreWeave社のCEO、Michael Intrator氏は、Microsoftが追加のリース提案から手を引いたことを認めている。ただし、影響を受けたプロジェクトの数や場所は明かさなかった。

計画縮小の背景:需要、コスト、技術進化の複合要因か

今回のMicrosoftによるデータセンター計画の見直しが、単に一時的な建設上の課題(電力供給の制約や建設資材の不足など)によるものなのか、それともAIサービスに対する需要予測の下方修正を反映したものなのかは、現時点では判然としない。

複数の要因が考えられる。

  1. AI需要の伸び悩み懸念: 一部の投資家は、Microsoftによるサーバーファームへの巨額投資を正当化できるほど、AIサービスの購入予測が伸びていないのではないかと懸念している。こうした懸念は、データセンター予算の多くを占めるNVIDIAのような半導体メーカーを含め、世界のハイテク株の重荷となっている。Microsoftの株価も、報道を受けて下落した。
  2. 建設上の課題とコスト: データセンター建設には、用地確保、電力供給、建設資材、労働力など、多くの課題が伴う。Bloombergが報じたウィスコンシン州のプロジェクトでは、最初の6ヶ月で建設に2億6200万ドルが費やされ、そのうち約4000万ドルがコンクリートだけであったという。こうしたコスト増や建設遅延のリスクが、計画見直しの一因となった可能性もある。業界インテリジェンス企業datacenterHawkのディレクター、Ed Socia氏は、クラウド企業がコスト削減と市場投入までの時間短縮を目的として計画を微調整していると指摘。「当初は最も早く市場投入できると考えたプロジェクトでも、労働力、サプライチェーン、電力供給が思ったほど迅速でないと判明すれば、短期的に他の市場に焦点を移す必要がある」と述べている。
  3. AI技術の進化と効率化: 2024年1月、中国のスタートアップDeepSeek AIが、従来の想定よりも少ないリソースで競争力のあるAIサービスを開発できることを実証し、そのモデルをオープンソースとして公開した。TD Cowenのアナリストは、この動きを受けてデータセンターへの投資に対する精査を強めている。長期的には、新しいエンジニアリング技術によって、AIが必要とする計算能力が従来予想されていたよりも少なくなる可能性が浮上している。SiliconANGLEは、MicrosoftがAI開発の低コスト化・ユビキタス化という市場の方向性を見て、資金をどこに投じるべきか戦略的に一時停止している可能性があると指摘している。
  4. Microsoft自身の戦略的判断: MicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏は最近、エネルギーとコンピューティングリソースを巡る競争が続く結果、数年後にはコンピューティング能力が供給過剰になるとの見方を示唆している。「2027年、28年には多くのキャパシティをリースすることになるだろう。なぜなら、建設状況を見ると『これは素晴らしい』と思うからだ。全てのコンピューティング構築で起こる唯一のことは、価格が下がることだ」とNadella氏は述べている。これは、AIに対する熱狂がやや冷め、より長期的な視点での投資判断が行われている可能性を示唆する。また、Microsoftは以前から、次期会計年度(2025年7月~)のインフラ投資は新規建設から既存施設へのサーバー等の設置に重点を移し、ペースを緩めると表明していた。今回の動きはこの方針に沿ったものとも解釈できる。
  5. OpenAIとの関係変化?: TD Cowenのアナリストは、Microsoftの計画縮小が、評価額3000億ドルとされる主要AIスタートアップOpenAIからの新規ビジネスの一部を放棄したことを反映している可能性も指摘している。OpenAIは今年初め、SoftBankグループやOracleとの合弁事業を発表し、AIインフラに最低1000億ドル、最大500億ドルを投資する計画だと報じられている。同アナリストは以前、OpenAIがこの提携の下でコンピューティングの一部をMicrosoftからOracleに移している可能性が高いと述べていた。CoreWeaveのIntrator CEOも、「(Microsoftの動きは)かなり局所的であり、彼らとOpenAIの関係が変わっただけだ」と述べ、業界全体の問題というよりMicrosoft固有の事情であるとの見方を示している。また、MicrosoftとOpenAIの関係が冷え込んでいる可能性もあり、MicrosoftがAI投資に対してより慎重なアプローチを取っていることも考えられる。
スポンサーリンク

今後の展望:投資継続と戦略の柔軟性

Microsoftは、計画の見直しを認めつつも、進行中のプロジェクトへのコミットメントを強調している。ウィスコンシン州での33億ドルのプロジェクトは来年稼働予定であり、拡張に向けた準備作業も開始されているという。また、インドネシア・セントラル・クラウドリージョンも2025年第2四半期に稼働予定であるとしている。

さらに、同社は現会計年度(2024年6月まで)にデータセンター構築に約800億ドルを投じる計画に変更はないとしている。これは依然として巨額の投資であり、AIインフラへの注力が続いていることを示している。

一方で、OpenAIはコンピューティング能力の拡大を続けている。OracleやSoftBankとの提携に加え、新たなテスト時計算推論モデルがさらなる計算リソース需要を生み出すと見込んでいる。伝えられるところによれば、OpenAIは「StarGate」と呼ばれる最大5000億ドル規模のAIインフラ投資計画を進めており、2030年までにコンピューティング能力の約75%を自社専用のクラウドコンピューターから調達することを目指しているという。

今回のMicrosoftのデータセンター計画縮小の報道は、AI開発競争の現状と将来に関する様々な憶測を呼んでいる。AI需要の真の姿、技術進化による効率化のインパクト、そして巨大IT企業間の戦略的な駆け引きが、今後のデータセンター投資の行方を左右することになりそうだ。Microsoftが示した「戦略の柔軟性」が、市場の変化に賢明に対応したものなのか、それとも一時的な調整に過ぎないのか、今後の動向が注目される。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする