Microsoft社が米国と欧州で合計2ギガワット(GW)の電力を消費する予定だったデータセンタープロジェクトから撤退したと、投資銀行TD Cowenのアナリストが報告した。この撤退は、AIコンピューティングの供給過剰と、同社がOpenAIへの追加支援を見送る決定が主な要因とされている。
撤退の規模と背景
投資銀行TD Cowenのアナリスト、Michael Elias氏らが主導する調査によると、Microsoftは過去6ヶ月間に、欧州および米国で合計2ギガワット(GW)の電力消費が見込まれていたデータセンタープロジェクトから撤退したとのことだ。この動きには、新規のリース契約交渉からの撤退や、既存のリース契約のキャンセル、延期が含まれるとされる。
TD Cowenは2025年2月からMicrosoftによるリースキャンセルや延期が予想以上に広範である可能性を指摘していた。当時もTD Cowenのアナリストが「数百メガワット」の容量に関するリースの破棄を明らかにしていた。今回の2GWという具体的な規模の指摘は、Microsoftのデータセンター戦略における重要な転換点を示唆している可能性がある。
背景には、MicrosoftとOpenAIの関係変化がある。両社は今年初め、多年契約を変更し、OpenAIが他社のクラウドコンピューティングサービスも利用できるようにした。TD Cowenは、Microsoftの撤退は「主に、OpenAIの追加トレーニングワークロードをサポートしないという決定によって引き起こされた」と分析している。
技術的要因と業界への影響
Microsoftの今回の撤退には技術的要因も関係している可能性がある。NVIDIAの最新AI処理装置は、従来のHopperラックの3倍に当たる120kWの電力を必要とし、液体冷却が必須となる。既存のデータセンターの多くはこうした高密度・高電力システムに対応できないため、新規リースよりも既存施設の改修が優先される状況だという。
「データセンター容量計画は非常に複雑なゲームであり、最も好ましくないシナリオは容量よりも需要が多いことです」とOmdiaの主席アナリストAlan Howard氏はThe Registerに対して指摘している。
Microsoftの撤退により生じた空白を、GoogleとMetaが埋めつつある。TD Cowenのサプライチェーン調査によれば、Googleは欧州市場で、Metaは米国市場でMicrosoftが手放した容量を獲得している。Alphabetは今年のAI構築に750億ドル、Metaは最大650億ドルを投資する計画を発表している。
中国勢との競争と投資戦略の変化
投資家の間では、米国テック企業によるAI投資への懸念が高まっている。1月には中国のスタートアップDeepSeekが、OpenAIが使用した10,000基のGPUに対し、わずか2,788基のGPUでAIモデルを構築できたと発表。これを受けてNVIDIAの株価が17%下落するなど、市場に大きな衝撃を与えた。
こうした状況下でも、MicrosoftはAIインフラへの投資を継続する姿勢を示している。同社の広報担当者は「今会計年度にインフラに800億ドル以上を費やす計画は順調に進んでおり、顧客の需要に応えるために記録的なペースで成長を続けています」と述べている。
「一部の地域でインフラを戦略的にペース配分または調整することがあるかもしれませんが、すべての地域で引き続き強力に成長していきます」と同社は強調。データセンター投資の重点が、新規建設から既存施設の改修やサーバー・機器の設置にシフトしていることを示唆している。
Alibabaグループの会長Joe Tsaiが先日、データセンター建設における潜在的なバブルについて警告するなど、業界全体でインフラ投資の適正規模を見極める動きが出てきている。
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