Hot Chips 2025の場で、Intelは次世代Eコア Xeon「Clearwater Forest」の技術的な詳細を明らかにした。同社の最先端プロセス「Intel 18A」を初めて採用し、最大288コアを集積、革新的な3Dパッケージング技術を駆使した、データセンターの電力効率とスループット密度を再定義するための戦略的製品と言えるだろう。本稿では、そのアーキテクチャの詳細と、技術的選択の意図と市場に与えるインパクトを見てみたい。
データセンターの勢力図を塗り替える一手

Intelは、前世代の「Sierra Forest」でデータセンター向けCPUの新たな方向性を示した。高パフォーマンスコア(P)によるシングルスレッド性能の追求から、高効率コア(E)を大量に集積することによるスレッド密度と電力効率の最大化へのシフトである。Clearwater Forestは、その戦略をさらに先鋭化させたものだ。
クラウドネイティブなワークロードやスケールアウト型アプリケーションが主流となる現代のデータセンターでは、絶対的なシングルスレッド性能よりも、電力あたりの処理性能(Perf/Watt)やラックスペースあたりのスループットがTCO(総所有コスト)を左右する。Clearwater Forestが最大288コアという前世代比2倍のコア数を実現したのは、この市場要求に対するIntelの明確な回答である。これは、AMDが「Bergamo」や次世代「Turin」のZen-cコアで展開する高密度サーバーCPU市場への直接的な対抗策であり、半導体技術の粋を集めたIntelの競争力回復への強い意志の表れと見て間違いない。
Clearwater Forestの複合アーキテクチャ
Clearwater Forestの核心は、単一の技術革新ではなく、プロセス、パッケージング、マイクロアーキテクチャという複数の要素を高度に統合した複合的な設計思想にある。
Intel 18Aプロセス:RibbonFETとPowerViaがもたらす物理的基盤

Clearwater Forestのコンピュート・チップレットは、Intelの5世代/4年計画(5N4Y)の最終目標である「Intel 18A」プロセスで製造される。このプロセスノードの採用は、性能と電力効率の飛躍的な向上を実現する物理的な土台となる。
- RibbonFET (GAA – Gate-All-Around): 従来のFinFET構造では3方向からしかゲートがチャネルに接していなかったのに対し、RibbonFETではチャネルの4方向すべてをゲートが囲む構造を持つ。これによりゲートの制御能力が格段に向上し、リーク電流を抑えながらより低い電圧でトランジスタを駆動できる。これは、直接的に電力効率の改善に寄与する。
- PowerVia (Backside Power Delivery): トランジスタ層の裏面から電力を供給する革新的な技術である。従来の配線構造では、信号線と電力供給線が同じ層に混在し、複雑な配線による信号遅延やIRドロップ(電圧降下)が性能向上のボトルネックとなっていた。PowerViaはこれらを分離することで、電力供給を安定化させIRドロップを4-5%低減すると同時に、信号配線の最適化を可能にし、セル密度を90%以上にまで高める。
この2つの技術の組み合わせは、Clearwater Forestが288ものコアを高密度に集積しつつ、厳しい電力枠内で動作させるための根幹を成す。アーキテクトの視点から見れば、これは単なる微細化ではなく、トランジスタ構造とチップの電力供給網を根本から再設計するパラダイムシフトである。
3D積層技術の結晶:Foveros Direct 3DとEMIBによる異種ダイ統合

Clearwater Forestは、Intelの先進パッケージング技術のショーケースでもある。その物理構造は、複数の異なるプロセスノードで製造されたチップレットを立体的に組み合わせた、極めて高度なものだ。
- コンピュート・チップレット (Compute Chiplet): 12個。Darkmont E-Coreを搭載し、最先端のIntel 18Aプロセスで製造。
- ベース・タイル (Base Tile): 3個。L3キャッシュ、メッシュファブリック、メモリコントローラなどを内蔵し、Intel 3プロセスで製造。
- I/Oチップレット (I/O Chiplet): 2個。PCIeやUPIといった高速I/Oを担い、成熟したIntel 7プロセスで製造。

これらの異種ダイを繋ぎ合わせるのが、以下の2つの技術である。
- Foveros Direct 3D: コンピュート・チップレットをベース・タイルの上に直接積層するための3Dスタッキング技術。9µmという非常に狭いバンプピッチで接続することで、ダイ間のデータ経路を大幅に短縮し、低遅延かつ低消費電力な通信を実現する。
- EMIB (Embedded Multi-die Interconnect Bridge): ベース・タイル同士や、I/Oチップレットとの水平方向の接続に用いられる2.5D技術。シリコンブリッジを基板に埋め込むことで、従来の基板配線よりもはるかに高速・高密度なダイ間通信を可能にする。
このハイブリッドなアプローチは、各機能に最適なプロセスノードを適用し、コストと性能を最大化しようとする合理的な設計思想の表れである。CPUコアのように性能と電力効率が最重要視される部分は最先端の18Aを、キャッシュやファブリックはそれに次ぐIntel 3を、そしてアナログ回路が多く微細化の恩恵が少ないI/Oは枯れたIntel 7を用いる。この巧みな使い分けこそが、巨大で複雑なSoCを実現する鍵となっている。
新Eコア「Darkmont」のマイクロアーキテクチャ分析

Clearwater Forestの性能を決定づけるのが、新開発のE-Core「Darkmont」である。Intelは、前世代の「Crestmont」(Sierra Forestに搭載)から命令実行のパイプラインを大幅に拡張し、SPECint 2017ベースで17%のIPC(Instructions Per Clock)向上を達成した。
- フロントエンドの拡張: 命令デコーダが6-wideから9-wide(3つの3-wideデコーダ)へと50%拡張された。これは、パイプラインの入り口を広げ、より多くの命令を並列に処理するための根本的な強化である。分岐予測器も精度向上と大規模化が図られており、この広いフロントエンドを効率的に満たすための改良が施されている。
- アウト・オブ・オーダー・エンジンの深化: 命令を並べ替えて実行するOoOエンジンも大幅に強化された。アロケーション(命令発行)は5-wideから8-wideへ、リタイア(実行結果の確定)は8-wideから16-wideへと倍増。OoOウィンドウサイズも416エントリへと60%増加している。これは、命令レベルの並列性を最大限に引き出し、パイプラインのストールを最小化するためのリソース増強に他ならない。
- 実行エンジンの増強: 実行ポートは17から26へと大幅に増加。整数演算ユニットとベクター演算ユニットは2倍、ストアアドレス生成も2倍に強化されている。この実行リソースの拡充が、フロントエンドで取り込まれ、OoOエンジンで並べ替えられた命令を実際に高速処理する能力を担保している。
この17%というIPC向上は、単一の改良によるものではなく、フロントエンドからバックエンドに至るまで、パイプライン全体をバランス良く拡張した結果である。特に、高密度サーバーで求められる多様な整数演算ワークロードにおいて、このアーキテクチャ改良は大きな性能向上に繋がるだろう。
メモリとI/O:ボトルネックを排除するプラットフォーム設計
288ものコアがフルに性能を発揮するには、それらを支えるメモリとI/Oサブシステムが極めて重要になる。Clearwater Forestは、この点においても抜かりない設計が施されている。
12チャネルDDR5-8000が実現する1.3TB/sのメモリ帯域

メモリインターフェースは、ソケットあたり12チャネルのDDR5に対応し、サポートするメモリ速度はSierra Forestの6400 MT/sから8000 MT/sへと引き上げられた。これにより、2ソケット構成での実効メモリリード帯域は1300 GB/sに達する。この広大な帯域は、288コア(2ソケットで576コア)という膨大な数のコアがメモリアクセスで飢餓状態に陥るのを防ぐための生命線である。
L2/LLCキャッシュ階層の再構築

キャッシュアーキテクチャも重要な進化を遂げている。4つのDarkmontコアで共有される4MBのL2キャッシュは、その帯域幅がSierra Forestの2倍となる400 GB/sに強化された。L2キャッシュはコアに最も近いキャッシュ階層であり、ここでのヒット率と帯域は実効性能に直結する。L2帯域の倍増は、DarkmontコアのIPC向上によって増大したデータ要求に応え、L3キャッシュやメインメモリへのアクセスを削減するための必然的な対応と言える。
さらに、Intel 3プロセスで製造されたベース・タイル上には巨大なL3キャッシュ(LLC: Last Level Cache)が配置され、2ソケット構成では合計1152MBという広大な容量を誇る。これは、大規模なデータベースやインメモリ分析など、巨大なワーキングセットを持つアプリケーションで絶大な効果を発揮するだろう。
PCIe Gen5とCXLによる拡張性
I/Oは、ソケットあたり96レーンのPCIe Gen5をサポートし、そのうち64レーンはCXL (Compute Express Link) にも対応する。これにより、最新のGPUやDPU、FPGAといったアクセラレータの接続はもちろん、CXL経由でのメモリ拡張やメモリプーリングといった次世代のデータセンターアーキテクチャにも対応可能な、高い拡張性を確保している。
パフォーマンスとエコシステムへの影響:データセンターの「効率」を再定義する
Clearwater Forestは、単なる性能向上に留まらず、データセンターの運用効率と経済性にも大きな影響を与える。Intelは、このEコア専用Xeonが、いかにしてデータセンターのTCO(総所有コスト)を削減し、持続可能な成長を可能にするかを明確に示している。
圧倒的な性能/ワット効率とラック密度
Intelは、Clearwater Forestが前世代のXeon(おそらくPコアベースの製品)と比較して、3.5倍の性能/ワット効率向上を達成すると主張している,。これは、データセンターにおける電力消費が最大の運用コストの一つであることを考慮すると、非常に大きな意義を持つ。
- ラック分析によるTCO削減: 具体的なラック分析では、第2世代Intel Xeon CPUを搭載した60サーバーラック(合計1400サーバー)のソリューションが、Clearwater Forestを搭載した20サーバーラック(合計180サーバー)のソリューションに置き換えられることが示されている。これにより、750kWのフリート電力削減、71%のスペース削減、そして2.31倍のvCPU/ラックゲインが実現されるという。これは、データセンター事業者が直面する電力、スペース、冷却といった物理的な制約を劇的に緩和し、同一のフットプリントでより多くのワークロードを実行可能にすることを意味する。結果として、総所有コスト(TCO)の大幅な削減に直結する。
このような効率の飛躍は、単にプロセスノードの微細化によるものではなく、Darkmont E-Coreのマイクロアーキテクチャの最適化、高度なチップレットパッケージング、そして電力供給ネットワークの革新が複合的に作用した結果である。特にクラウドプロバイダーやハイパースケーラーにとって、ラックあたりのvCPU密度と電力効率は、サービス提供の収益性を直接左右する最重要指標の一つであり、Clearwater Forestはまさに彼らが求めるソリューションを提供する。
既存プラットフォームとの互換性と市場戦略
Clearwater Forestは、既存のXeon 6900Eプラットフォームとの互換性を維持する,,,。この互換性は、顧客が既存のサーバーインフラストラクチャ(マザーボード、シャーシ、電源、冷却システムなど)を再利用しながら、プロセッサをアップグレードできることを意味する。これにより、導入障壁が低減され、初期投資を抑えつつ最新の性能と効率の恩恵を享受することが可能になる。これは、新しいプラットフォームへの大規模な移行コストを避けたいと考える企業にとって、非常に魅力的な選択肢となるだろう。
Intelは、Xeon 6世代でPコアベースの「Granite Rapids」とEコアベースの「Sierra Forest」という2つの製品ラインを並行して展開し、ワークロードに応じた最適化を図ってきた。Clearwater Forestは、このEコアラインアップの次世代を担う製品として、特に高密度、スケールアウト、電力効率が重視されるクラウドネイティブなワークロードにフォーカスしている。
AMD EPYC Bergamo/Turinとの競争軸
データセンター市場において、Clearwater ForestはAMDのEPYCシリーズ、特に高密度コアを特徴とする「Bergamo」(Zen 4cアーキテクチャ)やその次世代「Turin」と直接競合する。AMDのZen 4cコアはSMT(Simultaneous Multi-Threading)をサポートし、AVX-512クラスのベクトルユニットも搭載しているため、単一スレッド性能や特定のHPCワークロードで強みを持つ可能性がある。
一方、IntelのClearwater Forestは、Eコア専用設計により、極限までコア密度と総スループットを追求している。Darkmont E-CoreはSMTをサポートしないが、その代わりに物理コア数を最大限に増やすことで、多数の独立した軽量スレッドを並列実行するクラウドサービスやAI推論などのワークロードで圧倒的な優位性を確立しようとしている。
Clearwater Forestは、高性能Pコアが担ってきた従来のXeonの定義を再構築することを意図しており、Intelが性能重視の「Diamond Rapids」(Pコアベースの次世代Xeon)と効率重視の「Clearwater Forest」という明確な差別化戦略を進めていることを示唆している。Intelは、Clearwater Forestによって、「プレステージベンチマークを追いかけるのではなく、電力予算をオーバーせずにどれだけのワークロードをラックに詰め込めるか」という新たな価値基準を顧客に提示しようとしているのだ。
Intelの半導体復権とデータセンターの未来を占う
Intel Clearwater Forestは、単なる新製品の発表に留まらず、Intelの半導体製造技術の復権と、データセンター市場における戦略の再構築を象徴する存在である。Intel 18AプロセスとFoveros Direct 3Dという最先端の製造・パッケージング技術の組み合わせは、同社が今後数年間で他社との技術的優位性を再確立する上での重要なマイルストーンとなる。
Darkmont Eコアアーキテクチャの大幅な強化は、Eコアがもはや「低消費電力のおまけ」ではなく、データセンターの中心的なワークロードを担いうる高性能な計算ユニットであることを明確に示している。288コアという圧倒的な物理コア数、DDR5-8000対応の広帯域メモリ、そしてCXLを深く統合したI/Oサブシステムは、クラウド、HPC、AI推論といった今日の、そして未来の要求の厳しいワークロードに最適化された基盤を提供する。
2026年の市場投入に向けて、Clearwater Forestが実際にデータセンターでどのようなパフォーマンスと効率性を見せるのか、そしてAMDの競合製品に対してどのような市場評価を得るのか、技術コミュニティの注目が集まることは必至である。この製品は、Intelが長年の課題であった製造プロセス技術の遅れを取り戻し、データセンター市場のリーダーとしての地位を再確立するための、極めて重要な一手となるだろう。Clearwater Forestは、データセンターの設計思想、そしてXeonというブランドが意味するものを、根本から変革する可能性を秘めている。
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