IntelがAMDの3D V-Cacheに類似した大容量キャッシュ技術「Local Cache」を2025年発売予定のサーバープロセッサClearwater Forestに搭載することが明らかになった。しかし、ゲーミング性能で優位性を示すAMDのデスクトップ向け3D V-Cache搭載モデルに対抗する計画は当面ないとしている。
Local Cache搭載の「Clearwater Forest」の詳細が明らかに
Intelの次世代Xeonプロセッサ「Clearwater Forest」は、同社の野心的な技術の集大成となる製品だ。Intel 18Aプロセスノードを採用し、約3000億トランジスタを集積する大規模なチップとなる見込みである。その中核となるアーキテクチャは、3つの「アクティブ」ベースタイルを基盤とした革新的な設計を採用している。各ベースタイルには4つのCPUタイルが搭載され、合計12個のCPUタイルがFoveros Direct 3Dによるハイブリッドボンディング技術で接続される構造となっている。
注目すべきは、ベースタイル内に配置される「Local Cache」という新しいキャッシュ構造だ。これまでIntelは分散設計においても、コアとキャッシュを同一のコンピュートタイル内に配置し、リングバスで接続する方式を採用してきた。しかしClearwater Forestでは、このアプローチを大きく変更。キャッシュをベースタイルに移動し、CPUタイルにはコアのみを配置する新しい設計思想を採用している。
この設計変更により、CPUタイルとベースタイルは相互に依存する関係となる。これはAMDの3D V-Cacheとは異なるアプローチだ。さらに、全体の構造を完成させるため、ノース側とサウス側にI/Oタイルを配置。これらのI/OタイルとCPUタイルクラスターは、EMIB 3.5D技術によって接続されている。結果として、Clearwater Forestは12個のコンピュートタイル、2個のI/Oタイル、そして3個のベースタイルという、合計17個のアクティブタイルで構成される極めて複雑な設計となっている。
このアーキテクチャの中核を担うのが、Atom Darkmontコアだ。これは、Lunar LakeやArrow Lake CPUで採用されている高速なSkymontコアの後継となるものである。Intelのホワイトペーパーによれば、この大規模な「ローカル」キャッシュを備えたCPUチップレットユニットは、完全なコンピュートモジュールとして機能する。これにより、コア数とキャッシュ要件に基づいて、製品スタックを柔軟にスケールアップすることが可能となっている。
ゲーミング市場への展開見送りの理由
Intel Tech Communications ManagerのFlorian Maislinger氏が、Der8auerとBens Hardwareのインタビューにおいて、デスクトップ向け大容量キャッシュ技術の展開を見送る詳細な理由を明らかにした。同氏は「ゲーミング市場は我々にとって極めて大きな大衆市場ではない」と述べ、Intelが販売するCPUの大多数がゲーミング以外の用途で使用されている現状を指摘している。
特に注目すべきは、AMDのX3D製品に対する同氏の分析だ。「AMDのCPUは非常に特定のターゲットグループ、つまりゲーマーに向けて最適化されている」と指摘。3D V-Cacheテクノロジーがゲーミング性能において大きな利点をもたらすことは認識しているものの、その技術には特定の欠点や妥協点が伴うと説明している。例えば、X3D CPUはアプリケーション性能において、必ずしも優位性を示せていない点を挙げている。
さらにMaislinger氏は、サーバー市場の重要性を強調。「サーバー市場は、デスクトップCPUとは異なる市場規模と潜在的なアドレス可能市場を持っている」と述べ、大容量キャッシュ技術の展開先としてサーバー市場を選択した理由を説明している。この判断の背景には、製造の複雑性とコスト面での課題も存在するとしている。
しかし、この決定は現在の市場動向と一部矛盾する面も見られる。AMD Ryzen 7 9800X3Dは主要小売店で品切れが発生するほどの高い需要を見せており、ゲーミング性能においてIntelの最新Core Ultra 200シリーズを上回る結果を示している。実際、IntelのArrow Lake-Sプロセッサは、第14世代Core “Raptor Lake Refresh”に対してゲーミング性能での世代間の向上を実現できていないことが明らかになっている。
これに対してIntelは、Arrow Lake-Sのゲーミング性能が期待を下回っている原因を特定し、修正可能であるとしている。マイクロコードの更新やOS側での対応によって、パフォーマンスの改善を図る計画だという。しかし、こうした対応は本質的な解決策とはならない可能性が高く、将来的な戦略の見直しが必要となる可能性も否定できない状況だ。
Xenospectrum’s Take
今回の発表は、IntelがAMDの3D V-Cacheの技術的優位性を認識しつつも、より収益性の高いサーバー市場に注力するという戦略的判断を示している。しかし、Arrow Lake-SがAMD Ryzen 7 9800X3Dに対してゲーミング性能で後れを取っている現状を考えると、デスクトップ市場での競争力維持のために、将来的にはLocal Cache技術のデスクトップ展開も検討せざるを得なくなる可能性が高い。皮肉なことに、「小さすぎる市場」と切り捨てたゲーミングセグメントが、最終的にIntelの足かせとなる日が来るかもしれない。
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