Lightmatter社は、AIチップ間のデータ転送速度を飛躍的に向上させる新たなフォトニクス技術「Passage M1000」および「Passage L200」を発表した。これらの技術は、従来の電気信号による接続の限界を打破し、光を用いてチップ間を接続することで、AIインフラストラクチャにおける深刻なボトルネック解消を目指すものである。
AI時代のボトルネックを光で突破
現代のAI開発、特に大規模言語モデル(LLM)の学習においては、数千から数万個のGPU(画像処理装置)を連携させて処理を行う必要がある。しかし、GPU自体の処理能力が飛躍的に向上する一方で、チップ間でデータをやり取りするインターコネクト(相互接続)技術がその速度に追いつけず、システム全体の性能を制限するボトルネックとなっていた。LightmatterのCEO、Nick Harris氏が指摘するように、GPUはその計算能力の大部分をデータの到着待ちに費やしているのが現状である。
この課題に対し、Lightmatterはシリコンフォトニクス技術、すなわち光を用いてチップ間で情報を伝達するソリューションを開発した。電気信号の代わりに光を用いることで、より高速かつ低遅延、高密度のデータ転送が可能となる。同社はこれまでに8億5000万ドルのベンチャー資金を調達しており、その企業価値は44億ドルと評価されるなど、AIインフラにおける光学技術への期待の高まりを象徴する存在である。
革新的技術:Passage M1000とL200
今回発表されたのは主に以下の2つの技術である。
- Passage M1000 3D Photonic Superchip:
- 次世代のXPU(CPUやGPUなど、特定の処理に特化したプロセッサの総称)やスイッチ向けに設計された、マルチレティクル(半導体製造における露光単位)のアクティブフォトニックインターポーザー(チップを搭載し相互接続する基板)。
- 面積4,000平方ミリメートル超、記録的な114 Tbps(テラビット/秒)の総光帯域幅を実現。
- 従来のチップ設計ではI/O(入出力)接続がチップの端(ショアライン)に限定されていたが、M1000は「エッジレスI/O」技術により、インターポーザー表面上のほぼどこからでもダイ(半導体チップ本体)への接続を可能にする。これにより、極めて高い接続密度を実現。
- 再構成可能な導波路ネットワークとWDM(波長分割多重:一本の光ファイバーで複数の光信号を伝送する技術)を採用し、256本の光ファイバーを統合することで、従来のCPO(Co-Packaged Optics:光部品と電子部品を同一パッケージ内に実装する技術)と比較して桁違いの帯域幅を提供する。
- GF Fotonix™シリコンフォトニクスプラットフォームを採用し、GlobalFoundriesやAmkorといったパートナーとの協力により量産体制を構築。2025年夏に利用可能となる予定。
- Passage L200 CPO (Co-Packaged Optics):
- GPUやネットワークスイッチと直接統合されるように設計されたCPO製品。32TBおよび64TBのモデルが用意される見込み。
- 既存のインターコネクトと比較して最大100倍の帯域幅向上を謳う。
- 最も強力な64TB L200は、複数のGPUを単一チップ上にパッケージ化し、200 TB/s(テラバイト/秒)を超えるI/O帯域幅を提供。これによりAIの学習と推論を8倍以上高速化できると同社は主張している。
- 従来の階層的なネットワークスイッチ構成をフラット化し、GPU間の通信遅延を大幅に削減する。
- 2025年の発売を予定。
これらの「Passage」技術は、インターポーザー上に光の通り道(導波路)を高密度に形成し、チップレット(特定の機能を持つ小さなチップ部品)やGPUダイを直接接続する。これにより、データが移動する物理的な距離を短縮し、電気配線に伴う信号の減衰や発熱、消費電力といった問題を軽減することが期待される。
AIインフラへの影響と今後の展望
Lightmatterの技術は、AIモデルのトレーニング時間短縮、より大規模で高性能なモデルの開発、データセンターのエネルギー効率改善に貢献する可能性を秘めている。特に「エッジレスI/O」というコンセプトは、チップ設計の自由度を高め、将来のプロセッサアーキテクチャに大きな影響を与えるかもしれない。
AMDのような競合他社も光学技術の採用を模索しており、NVIDIAも一部ネットワーキングチップで光学技術を導入しているが、NVIDIA CEOはまだ技術が十分に成熟していないとの見解も示している。Lightmatterが他社に先駆けて3Dフォトニックインターポーザーのような先進的な製品を市場に投入することで、この分野における技術競争がさらに加速することは間違いないだろう。
GlobalFoundriesのような大手ファウンドリとの強固なパートナーシップは、この革新的な技術を量産レベルで実現するための鍵となる。Passage M1000とL200の登場は、AIとハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の分野におけるインターコネクト技術の新たな時代の幕開けを告げるものと言えるだろう。
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