大阪大学の研究チームが、温度によって構造が変化する「生きた電極」を持つデバイスを開発。二酸化バナジウム(VO2)のメタマテリアル特性を応用し、従来のシリコン電子デバイスの性能を大幅に向上させることに成功した。この技術は、高速・高感度な次世代デバイスの実現に貢献すると期待される。
VO2メタマテリアルがもたらす「生きた電極」
従来の高速電子デバイスは、デバイスを小型化することで高速動作を実現してきた。しかし、小型化は製造を困難にするという課題があった。大阪大学の研究チームは、シリコンなどの従来の基板上に、パターン化された金属層(構造メタマテリアル)を配置することで電子の流れを加速させる、新たな方法を模索している。
この手法は有望だが、メタマテリアルの特性を実世界の状況に合わせて調整できるように、構造を制御可能にすることが課題だった。研究チームは、この解決策として二酸化バナジウム(VO2)に着目した。
VO2は、適切に加熱すると、層内の小さな領域が絶縁体から金属に変化する特性を持つ。これらの金属領域は電荷を運ぶことができるため、微小な動的電極として振る舞う。研究チームはこの挙動を利用して、テラヘルツ光に対するシリコン光検出器の応答を選択的に強化する「生きた」マイクロ電極を生成した。
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研究を主導した大阪大学産業科学研究所の大坂藍招へい教員は、「VO2をメタマテリアルとして含むテラヘルツ光検出器を製作しました」と説明する。「精密な加工方法を用いて、シリコン基板上に高品質のVO2層を作製しました。VO2層内の金属ドメインのサイズは、従来実現されていたものよりも数十倍大きく、温度調節によって制御され、シリコン基板のテラヘルツ光に対する応答を変調しました」。
温度制御による機能向上
温度を適切に調整すると、VO2の金属ドメインが導電性ネットワークを形成し、シリコン層内の局所的な電場を制御し、テラヘルツ光に対する感度を高める。
共著者である服部梓招へい准教授は、「光検出器を56℃に加熱すると、信号が大幅に増強されました」と付け加える。「この増強は、この温度でのシリコン層と動的な導電性VO2マイクロ電極ネットワークとの間の効果的な結合によるものだと考えています。つまり、VO2メタマテリアルの温度制御された構造が電場増強を調整し、シリコンのイオン化に影響を与えたのです」。
この「生きた」VO2金属領域の温度調整された挙動は、シリコンのテラヘルツ光に対する応答を強化した。これらの結果は、メタマテリアルが、従来の材料の限界を克服し、速度と効率の要件を満たす高度な電子機器の開発を促進する可能性を示している。
メタマテリアルと半導体の融合が拓く未来
この研究成果は、VO2内の金属ドメインネットワークを調整することで機能を制御できるVO2/Siメタデバイスを実証したものであり、光電子デバイスにおけるメタデバイス開発の第一歩といえる。
大阪大学の研究グループは、独自の加工・微細加工技術を駆使することで、高品質なVO2が外部刺激に応じて構造を変化させる「生きた電極」として働くデバイスの作製に世界で初めて成功した。また、この生きた電極を持つダイオードで、実際にテラヘルツ光の検出器として最大で1桁以上の機能向上を実証した。
この技術は、既存の半導体技術と容易に統合できる可能性があり、再構成可能なコンピューティングや高度なイメージングシステムなど、適応可能な回路コンポーネントが必要とされるプラットフォームに利益をもたらす可能性がある。また、超高速データ伝送を模索している通信分野において、テラヘルツ波を効率的に検出し変調するデバイスは、将来の6Gネットワークの開発に不可欠である。
研究グループは、微細加工技術、材料特性、光学技術を適切に融合したデバイス設計により、高速かつ高感度な次世代デバイスの実現が期待されるとしている。
論文
- ACS Applied Electronic Materials: Si–VO2 Hybrid Materials with Tunable Networks of Submicrometer Metallic VO2 Domains Provide Enhanced Diode FunctionalityArticle link copied!
参考文献
- 大阪大学産業科学研究所:変幻自在な電極材料でダイオードの性能を向上 ―材料と光が拓く新しいデバイス技術―
- TechXplorer: ‘Living’ electrodes breathe new life into traditional silicon electronics
研究の要旨
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