MicrosoftがNVIDIAのHopperシリーズGPUを48万5000個購入し、AIインフラ整備で業界をリードしていることが判明した。調査会社Omdiaの報告によると、この調達規模は競合他社の2倍以上に達し、約310億ドルという巨額の投資となっている。
圧倒的な調達規模で競合を引き離す
Microsoftによる48万5000個のNVIDIA Hopperチップの調達は、NVIDIAの年間収益の約20%を占める規模となっており、AI市場における同社の圧倒的な投資体力を示している。この調達規模は、中国ByteDanceの23万個、Meta(旧Facebook)の22万4000個と比較しても圧倒的だ。特に注目すべきは、この調達がH100、H200、そしてH20といった複数のHopperシリーズを含む包括的なものであることだ。
この大規模投資の背景には、Microsoftの13億ドル規模のOpenAIへの出資が密接に関連している。同社はAzure Platform上でのAIサービス提供を強化するとともに、自社のAIサービスであるCopilotの処理能力も大幅に向上させる計画だ。Microsoft Azure Global InfrastructureのAlistair Speirs氏は「優れたデータセンターインフラの構築には複雑な工程と多額の資本が必要で、数年単位の計画が必要となる」と説明する。この発言は、同社が短期的な需要への対応だけでなく、長期的な成長戦略の一環としてこの投資を位置付けていることを示唆している。
中国市場に目を向けると、ByteDanceとTencentは米国の輸出規制に対応するため、特別に設計されたH20モデルを中心に調達を進めている。両社とも約23万個の調達を行っているが、これはMicrosoftの半分以下の規模に留まる。一方、米国市場では、Meta、Tesla/xAI、Amazon、Googleといった主要テクノロジー企業の調達規模は平均して約20万個程度となっており、Microsoftとの差は依然として大きい。
この規模の差は、AIインフラ整備における質的な優位性にも直結している。Microsoft Azure Global Infrastructureでは、チップの調達だけでなく、適切なストレージコンポーネント、インフラストラクチャ、ソフトウェアレイヤー、ホスト管理レイヤー、エラー修正などの包括的なシステム構築を進めており、これらの要素が総合的に同社の競争力を形成している。
業界全体で加速するAIチップ開発競争
NVIDIAのGPUが市場を席巻する中、主要テクノロジー企業各社はNVIDIAへの依存度を軽減するため、独自のAIチップ開発を本格化させている。この動きを最も早く始めたのはGoogleであり、同社は約10年前からTensor Processing Unit(TPU)の開発を進めてきた。TPUは機械学習に特化した処理装置として設計され、特にGoogleの自社サービスにおいて高い効率性を実現している。
Metaも近年、独自チップの開発を加速させており、Meta Training and Inference Accelerator(MTIA)を発表した。MTIAは特にメタバース関連の処理に最適化されており、同社の将来戦略における重要な技術基盤として位置付けられている。また、Amazonはクラウドコンピューティング顧客向けに、TrainiumとInferentiaという2種類の独自チップを展開している。Trainiumは機械学習モデルのトレーニングに特化し、Inferentiaは推論処理に焦点を当てた設計となっている。
しかし、Omdiaのクラウドおよびデータセンター研究部門ディレクターであるVlad Galabov氏は、現状における課題を指摘する。「NVIDIAのGPUがサーバー投資の驚異的な割合を占めており、そのピークに近づいている」という分析は、各社の独自チップ開発が本格化する一方で、依然としてNVIDIAの技術的優位性が揺るがない現状を示している。
特に注目すべきは、NVIDIAが持つソフトウェアスタックの優位性だ。同社のCUDAなどの開発環境は、長年にわたって築き上げられた豊富なライブラリとツール群を有しており、これが他社の参入を困難にする大きな要因となっている。実際、各社の独自チップは、特定の用途やワークロードに対しては優れたパフォーマンスを示すものの、汎用性や開発環境の充実度においては、依然としてNVIDIAの後塵を拝している状況だ。
さらに、次世代のAIチップ開発競争も既に始まっている。NVIDIAは最新のBlackwellアーキテクチャを発表し、さらなる性能向上を約束している一方、各社も研究開発投資を増強している。このような状況下で、電力供給や冷却技術といったインフラ面での課題も、今後の競争において重要な要素となることが予想される。
Xenospectrum’s Take
Microsoftの今回の大規模調達は、単なるハードウェアの確保以上の戦略的意味を持つ。同社が計画している総額1000億ドル規模のStargateプロジェクトや、独自チップMaiaの開発を考慮すると、これは過渡期における「つなぎ」の意味合いが強い。
興味深いのは、この「つなぎ」に310億ドルという途方もない金額を投じられる企業が、実質的にMicrosoftしか存在しないという現実だ。これはAI業界における覇権争いが、すでに「勝者の見えた」状態に移行しつつあることを示唆している。皮肉なことに、この「つなぎ」こそが、他社を引き離す決定的な差となる可能性が高い。
Source
- Financial Times: Microsoft acquires twice as many Nvidia AI chips as tech rivals
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