米Northrop Grummanは2026年10月2日、米粒ほどの大きさに無線回路の機能を集約する窒化ガリウム(GaN)チップ技術「FORTITUDE」を発表した。同社は「3倍の電力、20倍の信号品質」を掲げ、衛星やレーダー向けの無線回路で、数十個の部品を置き換えられる可能性があると説明している。FORTITUDEは、同社が長年開発してきた電界効果トランジスタ技術「SLCFET」を新たな名称で展開するものだ。

今回の発表で前面に出されたのは、広い周波数帯で信号経路を切り替え、不要な周波数成分を除去する機能を、小型の半導体に集約する設計である。公式発表で示された倍率の意味を理解するには、その構造と、すでに製品として公開されている仕様を分けて見る必要がある。

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信号経路を切り替え、不要な周波数を除去する

FORTITUDEは、信号を通す経路を選択するスイッチと、必要な周波数を通しながら不要な成分を抑えるフィルタの機能を備えるという。無線装置では、送信と受信の経路を切り替えたり、使用する周波数帯に応じて回路を選択したりする必要がある。これらの機能を1つの半導体へ集積できれば、個別部品を接続するための配線や実装面積を減らせる。

Northrop Grummanの新しい説明資料では、kHz帯から20GHzまでの周波数に対応し、1ナノ秒未満で切り替えられるとしている。中出力版と高出力版を用意し、防衛向けの監視装置や通信システムに加え、将来の6Gへの展開も想定している。

ただし、この周波数範囲は通信速度を直接表す数字ではなく、1ナノ秒未満という切り替え時間も、ネットワーク全体の遅延を示すものではない。

部品は単に小さくすればよいわけではない。小型化によって配線損失や発熱が増えれば、かえって信号が弱くなる場合もある。FORTITUDEが目指すのは、小型化しながら信号を通すときの損失を抑え、遮断するときには信号を漏れにくくすることだ。その両立を支えるのが、GaN系材料を薄く積み重ねた「超格子」と、積層構造を立体的に制御するゲート構造である。

積層したチャネルを側面からも制御する

RFスイッチでは、オン時の抵抗が信号損失の原因になる。一方、オフ時に残る静電容量は、高周波信号が漏れる経路となる。一般的な設計では、電流を流しやすくするために素子を大きくすると静電容量も増えやすく、低損失と高周波での高い遮断性能を両立させるのが難しい。

Northrop Grummanの従来の技術解説でも、この抵抗と容量のトレードオフを、SLCFETが解決しようとしてきた課題として説明している。

SLCFETは、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)とGaNの薄い層を交互に積み重ね、電子が流れるチャネルを複数形成する。電流経路を縦方向に重ねて並列化することで、平面方向に素子を大きくすることなく抵抗を下げる設計だ。

ただし、チャネルを積層すると別の課題が生じる。上側のチャネルがゲートの電界を遮るため、上面から電界を加えるだけでは、下側のチャネルを十分に制御しにくい。

そこで、積層した半導体表面に凹凸を設け、ゲートを上面だけでなく側面にも沿わせる。側面からも電界を加えることで、複数のチャネルを制御する構造だ。SLCFETの名称に含まれる「castellated」は城壁のような凹凸形状を意味し、「FORTITUDE」という城塞を連想させるブランド名にもつながっている。

この構造自体は、今回初めて公開されたものではない。Northrop Grummanの研究者らが発表した2015年のAVS学会講演要旨では、並列チャネルと側面ゲートの仕組みに加え、1〜18GHzに対応するスイッチで、10GHz時の挿入損失を0.25dBと実測した結果が報告されている。

挿入損失は、部品を信号経路に挿入したことでどれだけ電力が失われるかを示す指標だ。この過去の実測結果は技術開発の蓄積を示すものではあるが、今回発表されたFORTITUDEの全仕様を測定した結果ではない。

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既存製品の0.38dBは、どの程度の損失なのか

SLCFET技術を使った既存製品「SF0083」は、1つの入力信号を2つの経路のどちらかへ切り替えるスイッチだ。Northrop Grummanの2024年版データシートには、動作周波数や制御電圧など、実際に回路へ組み込む際に必要となる仕様が記載されている。

項目 SF0083の公開仕様 読み取れること
周波数範囲 0.5〜25GHz この製品が対応する周波数帯
チップ寸法 1,330×1,340μm(1.33×1.34mm) 裸のチップとして供給され、実装時には外部配線が必要
制御電圧 0V/−14V、典型値 RF信号とは別にスイッチ制御用の電圧が必要
推奨周囲温度 −40〜85℃ この製品の推奨動作温度範囲
挿入損失 0.38dB、典型値 50Ω終端を前提としたシミュレーション値

SF0083の典型的な挿入損失0.38dBは、電力比に換算すると約8.4%の損失に相当する。ただし、これは50Ω終端を前提としたシミュレーション値である。

換算には、通過電力比=10^(−挿入損失[dB]/10)を使う。0.38dBの場合、通過する電力は約91.6%で、約8.4%が失われる計算になる。根拠は同資料の電気特性表と図1で、図では25GHz付近の損失が約0.38dBとなっている。

ただし、全周波数帯で損失が一定という意味ではなく、実装後の回路でも必ず同じ値になることを保証するものでもない。

受信回路では、途中で失われる電力を抑えられれば、後段までより強い信号を届けやすくなる。ただし、この値だけから装置全体の消費電力が何%減るかを求めることはできない。

また、2015年の実測値とは周波数や評価条件が異なるため、単純に数字の大小だけで世代間の性能差を判断することもできない。SF0083と、今回FORTITUDEとして展開される製品群との具体的な対応関係も、公表資料からは明らかになっていない。

量産技術は存在するが、FORTITUDE全体の実用化とは別

Northrop Grummanの現在の製品一覧では、SLCFETの「3S」と「3HP」が量産段階に分類され、いずれも100mmウェハーを使うプロセスとされている。SF0083も在庫製品として掲載されている。少なくともSLCFETには、研究試作にとどまらず、量産プロセスと実際に供給されている製品が存在する。

ただし、量産プロセスが確立されていることと、FORTITUDEが掲げるすべての機能を備えた製品が各用途で採用されていることは別である。製品一覧に在庫が表示されていても、納期や供給可能数量、価格までは分からない。

また、SF0083のような裸のチップとして提供される製品では、パッケージングや外部配線を含めた回路設計が必要になる。既存装置の部品をそのまま置き換えられるとは限らない。

さらに、同じ技術基盤の上で集積できる機能を増やす研究も進められている。Northrop Grummanと米海軍研究所の研究者らによる2023年のCS MANTECH学会論文では、SLCFETを使った増幅器に高誘電率のゲート絶縁膜を採用し、耐圧と高周波特性を改善した結果が報告されている。

同論文では、既存のスイッチと増幅器を同じウェハー上へ集積できる技術基盤としてSLCFETを位置づけている。スイッチやフィルタに加え、信号を増幅する回路まで同じ基盤上に組み込めるようになれば、複数の周波数帯や用途へ柔軟に対応する無線回路を小型化しやすくなる可能性がある。

製造拠点について、新しい資料ではFORTITUDEの開発と製造を米メリーランド州リンシカムで行うとしている。Microelectronics事業全体では、米国内に2つの半導体工場と高度なパッケージング施設を運用していると説明している。

米国内で製造できることは、防衛用途における調達やサプライチェーンを考えるうえで重要な要素となる。ただし、Microelectronics事業全体の生産能力を、そのままFORTITUDE単独の供給能力や出荷量とみなすことはできない。

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「3倍」「20倍」を評価するには比較条件が必要

今回の発表で掲げられた「3倍の電力」と「20倍の信号品質」には、具体的な比較対象や絶対値が示されていない。公式図解にも同じ倍率が掲載されているが、「信号品質」をどの指標で測定したのか、どの周波数や温度、回路条件で比較したのかは明らかにされていない。

そのため、「20倍」をそのまま通信速度が20倍になる、あるいは信号対雑音比が20倍改善すると解釈することはできない。

周波数に関する数字も、技術基盤と個別製品を分けて読む必要がある。新資料で示されるkHz〜20GHz、SF0083の0.5〜25GHz、製造プロセス表にある直流〜100GHzは、それぞれ異なる対象について示された数字だ。

広い周波数範囲に対応できる製造プロセスがあっても、その上に作られるすべての回路が同じ周波数帯や出力性能を持つわけではない。将来の6Gや宇宙システムへの言及も、具体的な規格への適合や実配備が確認されたことを意味するものではない。

FORTITUDEを実際の装置へ採用する際には、まず使用する周波数と出力条件での挿入損失や歪み、パッケージへ組み込んだ後の熱特性などが判断材料になる。そのうえで、既存の複数部品を置き換えることで回路をどれだけ簡素化できるのかを、実機で評価する必要がある。

こうした製品ごとの性能や供給条件が明らかになれば、超格子構造を使った低損失のスイッチ技術が、複数の無線機能を小型のハードウェアへ集約する手段として、どこまで実用的なのかを具体的に評価できるようになる。