NVIDIAは今後4年間で米国の半導体サプライチェーンに数千億ドルを投資する計画を発表した。同社CEO Jensen Huang氏は、全体で約5,000億ドル相当の電子機器を調達予定であり、そのうち「数千億ドル」を米国内で製造すると述べている。TSMCのアリゾナ工場ではすでに生産が開始されており、最新のBlackwellシステムも米国内で製造されている。
5,000億ドルの巨額投資計画:NVIDIAの米国製造シフトが始動
Financial Timesの報道によると、NVIDIAは今後4年間で電子機器に約5,000億ドルを費やす予定で、そのうち「数千億ドル」を米国内で製造される製品に充てる計画だ。「今後4年間でおそらく合計5,000億ドル相当の電子機器を調達することになるだろう。そのうち、数千億ドルを簡単に米国で製造できると思う」とHuang氏はFinancial Timesとのインタビューで述べた。
このHuang氏が言う「数千億ドル(hundreds of billions)」が1,000億ドル程度を指すのか、あるいは3,000億ドル程度になるのかは明確ではないが、いずれにせよ巨額の投資となる見込みだ。
現在、NVIDIAはすでにTSMCのアリゾナ工場(Fab 21)で生産を開始している。「我々はそこにいる」とHuangはGTC 2025の記者会見で述べ、「我々は現在アリゾナで生産用シリコンを稼働させている」と付け加えた。Reutersによれば、Huang氏はどのチップがアリゾナ工場で製造されているのか、またその生産量については詳細を明かさなかったが、「production silicon」という表現はテストやプロトタイプではなく実際の製品チップが製造されていることを意味する。また、Financial Timesへの取材では、最新のAI向けGPUアーキテクチャであるBlackwellシステムも米国内で生産されていることを確認した。
米国シフトの背景:地政学リスクと貿易政策
この大規模投資の背景には、Trump政権の「America First」貿易政策や、台湾を巡る地政学的緊張の高まりがある。NVIDIAの投資発表はTrump氏の貿易政策への対応と見られ、Appleなどのテクノロジー大手による同様の発表に続くものだ。
アナリストからTrump政権下での高い関税の影響について質問された際、Huang氏はNVIDIAには短期的な影響はほとんどないと見ているが、長期的には生産を米国に移行する方針だと回答した。ただし、具体的なタイムラインは示されなかった。
台湾を巡る地政学的緊張もNVIDIAの決断に影響している。同社はアジアの製造への依存を軽減するためにも米国内生産にシフトする決定を下したとされる。Huang氏はFinancial Timesとのインタビューで、HuaweiのAIチップにおける存在感の拡大について深刻な懸念を表明し、制裁が機能していないと述べたようだ。
半導体業界全体の米国回帰の動き
NVIDIAの動きと並行して、TSMCも米国での生産拡大に積極的に取り組んでいる。世界最大の半導体製造受託企業であるTSMCは、アリゾナに5つの追加チップ工場を建設する新たな1,000億ドルの投資計画を発表した。これは、以前に約束した650億ドルに追加されるものだ。
2024年12月、ReutersはTSMCがNvidiaのBlackwellチップを同社のアリゾナ新工場で生産する交渉を行っていると報じていた。今回のHuang氏の発言により、これが実現したことが確認された形だ。
メモリ製造大手のMicronは2027年に、SK hynixは2028年に米国工場の稼働を開始する予定だ。また、Texas InstrumentsのSM1工場は2025年に操業開始を予定している。Analog DevicesやGlobalFoundriesなども米国内での生産能力の拡大を進めている。
これらの動きには、米国の半導体産業再興を目指すCHIPS法による支援も背景にあると見られている。米国内での半導体生産能力の拡大により、NVIDIAが今後数年間で米国製シリコンに数千億ドルを費やすことは現実的な見通しとなっている。
AIブームを背景とした旺盛な需要とNVIDIAの事業戦略
NvidiaはGTC 2025の金融アナリストとの質疑応答セッションで、主要クラウドサービスプロバイダー4社からの同社主力Blackwellチップへの注文が360万個に達していると発表した。しかし、Huangは氏この数字が「需要を過小評価している」と指摘し、この数字には主要顧客であるMetaや小規模クラウドプロバイダー、スタートアップからの注文が含まれていないと説明した。
Facebookの親会社であるMetaはNVIDIAチップの最大の購入者の一つであり、CEOのMark Zuckerberg氏は昨年初め、同社がBlackwellチップを使用してオープンソースの大規模言語モデルLlamaをトレーニングする計画だと述べていた。Metaは今年のAIインフラに最大650億ドルを投資する予定であり、その大部分はNVIDIAチップに向けられると予想されている。
また、Huang氏は中国のAI企業DeepSeekのモデルに関する市場の理解が「完全に間違っていた」と指摘し、推論能力(AIシステムが推論を行う能力)に焦点を当てることで計算需要が増加し、結果的にNVIDIAチップの需要を促進すると述べた。
NVIDIAは主にクライアントPC向けやデータセンター向けのGPUで知られているが、それ以外にも独自のCPU、DPU、NVLinkスイッチ、ネットワーキングチップ、自動車用SoCなど様々なチップを設計している。クライアントPC向けGPUの販売台数が減少傾向にある一方で、フラッグシップGPUのダイサイズは増大しており、NVIDIAが生産するシリコン面積は拡大している。また、データセンター向けの巨大なGPUの販売も増加しており、同社は今後数年間もこの傾向が続くと予想している。
こうした需要の高まりと米国内での半導体生産拡大が、NVIDIAの巨額投資計画の背景にあると見られている。
Intel買収の噂を明確に否定
最近の報道では、TSMCがNVIDIA、Broadcom、AMDにIntelの工場を運営する合弁会社への出資を打診したと伝えられていた。また、他のメディアは以前、Trump大統領の支持を受けたIntelが製造部門を分離し、TSMCを含むコンソーシアムにその管理を移管する計画を検討しているとも報じていた。
しかし、Huang氏はGTC 2025の記者会見でこれらの噂を明確に否定した。「誰も我々をコンソーシアムに招待していない」「誰も私を招待していない。他の人々が関わっているかもしれないが、私は知らない。パーティーがあるかもしれないが、私は招待されなかった」と述べた。
今回の噂については、NVIDIAが最近Intelの新しい製造プロセスをテストしていたことが、両社の協力関係に関する憶測を高めていたが、現時点では具体的な提携は確認されていない。Reutersは、Huang氏のこのコメントがあったにもかかわらず、IntelとNVIDIAの株価は時間外取引で変動がなかったと報じている。
シリコンバレーの復活となるか
NVIDIAの米国半導体サプライチェーンへの数千億ドル規模の投資計画は、Trump政権の貿易政策や台湾を巡る地政学的緊張の高まりを背景に、半導体産業の生産拠点が米国へとシフトする大きな動きの一部となっている。すでにTSMCのアリゾナ工場での生産開始や、Blackwellシステムの米国内生産が確認されており、今後の展開が注目される。
今後4年間で約5,000億ドル相当の電子機器調達のうち、「数千億ドル」を米国内で製造するというNVIDIAの計画は、TSMCやMicron、SK hynix、Texas Instrumentsなどの主要半導体企業による米国内での生産拡大の動きとも連動している。
AIブームを背景にしたNVIDIAのチップ需要は引き続き堅調であり、特にMetaなど主要テック企業によるAIインフラへの巨額投資が、同社の事業成長を支えると予想される。一方、IntelとNVIDIAの提携に関する噂については、Huang氏が明確に否定している。
米国の半導体産業再興を目指すCHIPS法の支援もあり、半導体サプライチェーンの米国回帰は今後も加速すると見られている。
Sources