Samsung Electronicsが主要なメモリーチップであるDRAMとNANDフラッシュの価格を最大5%引き上げる方向で調整していることが明らかになった。背景には、AI(人工知能)分野での需要急増や、米国の追加関税への懸念から顧客企業が在庫積み増しに動いていること、さらに供給側の生産調整がある。この動きは、市場の需給バランスが変化し、メモリー価格が上昇局面に入りつつあることを示唆している。
最大5%の値上げ交渉、すでに一部顧客とは合意か
韓国のニュースサイト「毎日の経済」によると、Samsung Electronicsは現在、主要なグローバル顧客との間で、DRAMおよびNANDフラッシュメモリーの供給価格を現行水準から3%から5%引き上げる方向で交渉を進めている模様だ。一部の顧客とは、すでにこの値上げ条件を反映した契約交渉に着手しているとも報じられている。
これまでSamsungは、メモリー市場の供給過剰と需要の鈍化が続いていたため、価格設定に対しては比較的慎重な姿勢を維持してきた。特に、中国メーカーによる廉価なレガシー(旧世代)メモリー製品の市場投入も、価格上昇を抑制する要因となっていた。
しかし、市場環境は変化しつつある。競合である米Micronも、すでに顧客に対してメモリー製品の値上げを通知しており、Samsungの今回の動きは、業界全体の価格トレンドに沿ったものと言える。
値上げの背景:AIブームと関税リスク、供給削減の複合要因
今回の価格引き上げの背景には、複数の要因が複合的に絡み合っている。
第一に、AI分野における需要の急増が挙げられる。特に中国市場において、AI搭載デバイスが次々と登場し、産業用オートメーション(FA)の進展と相まって、高性能なメモリーチップへの要求が高まっている。市場調査会社DRAMeXchangeのデータによると、高性能PCやサーバーに主に用いられるDDR5 DRAMの価格は前月比で12%も急騰しており、この需要の強さを裏付けている。同じくNANDフラッシュの価格も9.6%上昇し、3ヶ月連続での上昇となった。一方で、汎用的なPC向けDDR4 DRAMの価格は横ばいが続いており、需要が特定の高性能分野に集中している様子がうかがえる。
第二に、米国の追加関税への懸念である。Trump米大統領が示唆する対中追加関税の対象品目に、現時点では半導体は含まれていない。しかし、将来的に半導体にも特別な関税が課される可能性を顧客企業が懸念し、「関税が導入される前に在庫を確保しておこう」という動きが広がっている。この予防的な在庫積み増しが、短期的な需要を押し上げている側面がある。
第三に、供給側の生産調整である。昨年まで続いた供給過剰に対し、Samsungを含む主要メモリーメーカーは生産量を削減する「減産」に踏み切ってきた。この結果、市場への供給量が絞られ、需給バランスが改善に向かいつつあることも、価格上昇を後押しする要因となっている。
今後の見通し:さらなる価格上昇の可能性も
業界関係者は、もし実際に半導体に対する追加関税が導入されるような事態になれば、供給への懸念と価格上昇圧力がさらに強まり、今年後半にはメモリー価格が一段と上昇する可能性があると見ている。
今回のSamsungによる価格引き上げは、単なる市況変動への対応だけでなく、同社の収益性改善を加速させるとともに、地政学的なリスク(特に米国の通商政策)がもたらす市場の不確実性に対応するための戦略的な一手であるとも評価されている。
消費者にとっては、特に高性能PCや最新デバイスに搭載されるDDR5メモリーなどの価格が今後上昇する可能性があり、注意が必要である。一部では、値上がりが本格化する前に購入を検討すべきとの声も出始めている。
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