世界半導体貿易統計(WSTS)は、2025年の世界半導体市場が前年比11.2%増の6,972億ドルに達するとの最新予測を発表した。この成長は、ロジックとメモリ部門が牽引し、両部門合わせて4,000億ドルを超える規模になると予測されている。この予測は、2024年の好調な市場動向を反映して上方修正されたものである。
2024年の市場動向が示す力強い回復
世界半導体市場は2024年に予想を上回る力強い回復を示している。市場規模は前年比19.0%増の6,269億ドルに達する見通しとなり、特に下半期に入って成長が加速している。この成長の特筆すべき点は、10月の月間売上高が569億ドルを記録し、前年同月比で22.1%の増加を達成したことである。さらに注目すべきは、この10月の数字が産業史上最高の月間売上高を記録したという事実であり、市場の回復が本格的な成長フェーズに移行していることを示している。
この力強い回復を牽引しているのは、主にメモリ部門とロジック部門である。メモリ部門は前年比で81.0%という驚異的な成長率を記録している。この急激な回復は、データセンター需要の回復や、スマートフォンなどの消費者向け電子機器市場の持ち直しが主な要因となっている。また、人工知能(AI)関連の需要増加も、高性能メモリの需要を押し上げる重要な要因となっている。
一方、ロジック部門も16.9%という堅調な成長を示している。この成長は、クラウドコンピューティングの拡大やAIの実用化に伴う高性能プロセッサの需要増加を反映している。特に、大規模言語モデル(LLM)の学習や推論に必要な高性能チップの需要が、予想を上回るペースで拡大している。
地域別の動向を見ると、特に顕著な成長を示しているのが米州市場である。米州は前年同月比54.0%という際立った成長率を記録しており、これは主要クラウドプロバイダーの設備投資拡大や、政府の半導体産業支援策の効果が顕在化してきたことを示している。中国市場も17.0%の成長を記録し、製造業の回復と5G関連需要の拡大が成長を後押ししている。
アジア太平洋地域は12.1%、日本は7.4%の成長を記録している一方で、欧州市場は7.0%の減少となった。この地域間での成長率の差異は、各地域特有の産業構造や政策環境、さらには地政学的な要因が複雑に絡み合った結果といえる。特に欧州市場の低迷は、エネルギー価格の高騰や地政学的な不確実性が、設備投資の抑制要因となっていることを示唆している。
SIAのJohn Neuffer会長兼CEOが指摘するように、この市場回復は7ヶ月連続で前月比プラスの成長を記録しており、その持続性が裏付けられている。これは単なる一時的な回復ではなく、デジタルトランスフォーメーションの加速という構造的な変化を反映したものであり、産業の新たな成長フェーズの始まりを示唆している。
2025年の市場展望と成長要因
WSTSの最新予測によると、2025年は全地域で市場拡大が期待される。特に注目すべき点は以下の通りである:
- ロジック部門が17%以上の成長率を維持
- メモリ部門が13%の成長を見込む
- その他の半導体カテゴリーも一桁台ながら着実な成長を予測
- 米州とアジア太平洋地域が引き続き二桁成長を維持する見通し
WSTSは2025年の半導体市場は包括的な成長期に入ると見ている。特にロジック部門は、人工知能(AI)や高性能コンピューティング需要の継続的な拡大を背景に、17%を超える成長率が予測されている。この成長は単なる数字以上の意味を持っており、テクノロジー産業全体のデジタルトランスフォーメーションの加速を反映している。
メモリ部門も13%という堅調な成長率が見込まれている。この成長は、2024年に見られた81%という急激な回復からは減速するものの、より持続可能な成長パターンへの移行を示している。データセンターの拡大やエッジコンピューティングの普及により、高性能メモリの需要は底堅く推移すると予測されている。
その他の半導体カテゴリーについては、一桁台の成長率ながら、着実な市場拡大が見込まれている。特にアナログ半導体やセンサー類は、自動車産業のEV化や産業機器のスマート化を背景に、安定した需要が期待されている。これらの製品は、デジタル製品ほどの劇的な成長は見込めないものの、産業基盤を支える重要な役割を果たしている。
地域別の見通しでは、米州とアジア太平洋地域が引き続き市場を牽引する見込みである。特に米州市場は、クラウドサービスプロバイダーの設備投資継続や、政府の半導体産業支援策の効果により、力強い成長が期待されている。アジア太平洋地域も、中国を中心とする製造業の回復と、5Gインフラ整備の本格化により、二桁成長を維持すると予測されている。
注目すべきは、これらの成長予測が単なる景気循環的な回復を超えて、産業構造の根本的な変化を示唆している点である。特に、ロジックとメモリ部門を合わせた市場規模が4,000億ドルを超えるという予測は、デジタル社会への移行が新たな段階に入ることを示している。この変化は、半導体産業が従来の「電子部品産業」から、グローバル経済の根幹を支える「基幹産業」へと進化していることを明確に示している。
Xenospectrum’s Take
今回のWSTSの予測には、業界の構造的な変化が反映されている。特に注目すべきは、コンピューティング部門の急速な回復だ。これはAIブームによる高性能チップの需要増加が、予想以上の影響を与えていることを示唆している。
しかし、この楽観的な予測には若干の留保も必要だろう。欧州市場の低迷は、地政学的リスクや経済の不確実性が依然として市場の重石となっていることを示している。また、81%という破格のメモリ部門の成長率は、この分野の激しい価格変動を考慮すると、持続可能性には疑問が残る。
SIAのJohn Neuffer会長兼CEOが指摘するように、業界は確かに「高い成長を維持している」。だが、この成長の質、特に地域間の不均衡な発展は、グローバルサプライチェーンの脆弱性を示唆している。2025年に向けて、この不均衡をいかに是正していくかが、業界の重要な課題となるだろう。
Sources
- World Semiconductor Trade Statistics: WSTS Semiconductor Market Forecast Fall 2024
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