Qualcommの最新フラッグシップチップ「Snapdragon 8 Elite」を搭載したOnePlus 13の、テック系YouTuberのGeekerwan氏による詳細なベンチマークレビューにより、同社初となる3nmプロセスと自社開発CPUコアの真価が明らかになった。特に注目すべきは、PCプラットフォーム向けに開発されたアーキテクチャの最適化と、独自の電力効率設計による性能向上である。
革新的なCPUアーキテクチャの深層
Snapdragon 8 Eliteの核心部分であるCPUアーキテクチャは、大型コア「Oryon L」と小型コア「Oryon M」という2種類の自社開発コアで構成されている。
大型コア「Oryon L」はPC向けX Eliteのアーキテクチャを踏襲しながら、モバイル向けに最適化を施しているようだ。具体的には、8-Wideデコードユニットを維持しつつ、L1命令キャッシュを192KBから128KBに削減。一方で、整数演算と浮動小数点演算のスケジューラのキュー深度を最適化し、アウトオブオーダー実行能力を示すROBキューの深さを650から679まで拡大している。
小型コアの「Oryon M」は完全な新設計であり、ArmのA7xxシリーズに近い規模のアーキテクチャを採用している。4-Wideデコードと4基のALUを備える整数演算部を持つ一方で、浮動小数点実行ユニットは最小限に抑えられている。これは意図的な設計選択であり、浮動小数点演算を大型コアに集中させることで、システム全体の効率を最適化する戦略が見て取れる。
ベンチマークが示す実力の本質
SPEC 2017による詳細な性能検証では、Oryon L大型コアの真価が明らかになった。整数演算性能においては、MediaTek Dimensity 9400に搭載されるX925コアと同等の性能を示し、Apple A16に近い効率を実現している。特筆すべきは浮動小数点演算性能で、中低負荷時にはX925と同等を維持しつつ、高負荷時にはApple A17 ProとA18 Proの間に位置する卓越した性能を発揮している。
Snapdragon 8 Eliteの小型コアOryon Mは、ベンチマークテストにおいて特徴的な性能特性を示している。整数演算性能に関しては、昨年のSnapdragon 8 Gen 3に搭載されたArm A720コアと同等のレベルの電力効率を実現している。ただし、低消費電力領域においてはAppleのA15およびA16と比較するとやや性能が劣る結果となった。一方で、高いピーク周波数を活かした性能上限の高さは注目すべきであり、特にDimensity 9400に搭載された低周波数のA720コアと比較した場合、大型コアの整数演算処理をより効果的に分担できる能力を持っている。
浮動小数点演算に関しても、A720コア相当の性能となっている。これはQualcommの意図的な設計選択であり、浮動小数点演算の処理を超大型コアであるOryon Lに集中させる戦略の表れである。
このような性能特性からは、Qualcommの明確な設計思想を読み取ることができる。日常的なタスク処理で重要となる整数演算では高い効率性を確保しつつ、浮動小数点演算については必要最小限の性能を維持することで電力効率を優先している。そして、高負荷の浮動小数点演算が必要となる場面では、より効率の良い大型コアに処理を委ねる仕組みを採用しているようだ。
マルチコア性能では、2個の大型コアと6個の高周波小型コアという独自の構成により、Geekbench 6で10,000点を超える高スコアを記録。15Wを超える消費電力ではあるものの、低消費電力域ではApple A18 Proを上回る場面も確認された。前世代のSnapdragon 8 Gen 3と比較すると、Snapdragon 8 Gen 3が11Wで実現していた性能を6W程度で実現するなど、電力効率で大幅な進化を遂げている。
GPU「Adreno 830」:革新的なアーキテクチャの詳細分析
Qualcommの最新フラッグシップチップに搭載されたAdreno 830 GPUは、従来のモバイルGPUとは一線を画する革新的なアーキテクチャを採用している。ダイショットの分析から、GPUは3つのスライスグループで構成され、各グループは4CUを持つ新しい設計思想に基づいている。
アーキテクチャの革新
Adreno 830は、前世代と比較して大幅な設計変更が施されている。特筆すべきは、合計12基のCUを採用し、前世代の8Gen3から2倍のCU数を実現したことである。各スライスグループには4MBのキャッシュが割り当てられ、GPU全体で12MBという大容量の専用キャッシュを搭載している。この設計はデスクトップグラフィックスカードに近い思想を取り入れたものといえる。
レンダリングパイプラインの進化
Adreno 830の最も革新的な特徴は、レンダリングパイプラインの大幅な刷新だ。従来のQualcomm GPUが採用していたTBR(Tile-Based Rendering)方式から脱却し、12MBの大容量キャッシュとフレームバッファ圧縮技術を活用することで、画面の分割処理を必要としない直接レンダリングを実現している。これはデスクトップGPUで一般的なIMR(Immediate Mode Rendering)方式に近い手法であり、モバイルGPUとしては画期的な進化である。
性能と電力効率
動作周波数は1.1GHzまで引き上げられ、3DMark SNLのベンチマークでは、MediaTek Dimensity 9400のGPUに迫る性能を示している。特に高周波メモリと組み合わせた場合、高負荷時の性能はさらに向上する可能性がある。前世代の8Gen3と比較すると、同じ消費電力で30%以上の性能向上を達成している。
実ゲームでの性能
OnePlus 13での実機テストでは、『原神』のような高負荷ゲームにおいて810P解像度で60fpsを安定して維持し、消費電力は4.6WでiPhone 16 ProやMediaTek 9400搭載機と同等レベルを実現している。特筆すべきは、本体温度が39.8度未満に抑えられている点で、これは同社の測定史上最低となる優れた熱制御性能である。
さらに、GPUレベルでのフレーム補間技術を活用することで、1980×900の高解像度設定でも120fpsの安定動作を実現している。この技術はNVIDIAのDLSS3に近い考え方を採用しており、ゲーム側の最適化によってモーションベクター情報を取得し、より正確な補間フレームを生成することが可能となっている。
『崩壊:スターレイル』の高負荷シーンでも終始フルフレームレートを維持し、消費電力は競合のDimensity 9400モデルを下回る6W未満に抑えられている。
このように、Adreno 830は単なる性能向上だけでなく、アーキテクチャレベルでの革新を実現している。デスクトップGPUに近い設計思想を取り入れながら、モバイル向けの最適化を施すことで、高い性能と優れた電力効率の両立を達成している点は、モバイルGPUの新たな方向性を示すものといえる。
Xenospectrum’s Take
Snapdragon 8 Eliteの開発成功は、QualcommのCPUアーキテクチャ独自開発における重要なマイルストーンとなった。特にPCプラットフォーム向けアーキテクチャのモバイル最適化という観点で、大きな技術的進歩を遂げている。整数演算と浮動小数点演算の役割分担を明確化した独自の設計思想は、モバイルプロセッサの新たな方向性を示唆している。
実際の使用シーンにおける性能と効率性の高さは、理論値以上の価値をもたらしており、特にゲーミング性能における熱制御と電力効率の両立は、モバイルゲーミングの新たな基準となる可能性を秘めている。さらなるアプリケーション対応の拡大とアーキテクチャの進化により、モバイルコンピューティングの新時代を切り開く礎となることが期待される。
Sources
- Geekerwan: 骁龙8 Elite首发评测:能效有多好?
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