テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

トランプ関税、中国へ125%に急騰 一方で他国は90日猶予

Y Kobayashi

2025年4月10日

Trump大統領は、中国を除くほとんどの国に対する追加関税の導入を90日間猶予し、税率を10%に引き下げた。一方、報復関税を発動した中国へは税率を125%に引き上げた。市場は一時反発したが、米中貿易摩擦の激化は避けられない見通しだ。

スポンサーリンク

突然の方針転換:猶予とエスカレーションの同時進行

世界経済を揺るがしたTrump大統領の新たな関税政策が、発表からわずか1週間余りで大きな修正を迎えた。2025年4月初旬に発表され、市場に「核爆弾」とも評された広範な追加関税措置。その衝撃が冷めやらぬ中、Trump大統領はSNS「Truth Social」を通じて、新たな方針転換を発表したのである。

具体的には、中国を除く75カ国以上に対して課すとしていた高い追加関税について、その本格的な実施を90日間猶予する。この猶予期間中、これらの国々からの輸入品に対する関税率は、一律10%に引き下げられる。これは、当初発表されていた日本(24%)、ベトナム(46%)、カンボジア(49%)といった国々に対する大幅な関税率と比較すると、顕著な緩和措置である。

当初、この10%の関税がカナダとメキシコにも適用されるかについて混乱が見られたが、ホワイトハウスは後に、これらの国々はこの新しい10%関税の対象外であると明確化した。これは、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の枠組みを考慮した動きとも考えられる。

しかし、この緩和措置は中国には適用されない。それどころか、米国に対する報復関税を発動した中国に対しては、さらなる強硬措置が取られた。米国は中国製品に対する関税率を、従来の104%から125%へと前例のない水準まで引き上げたのである。

この関税率の変遷を振り返ると、米中間の貿易摩擦の激化が鮮明になる。

  1. 2025年2月: Trump政権、中国製品に20%の関税を課す(同時にカナダ・メキシコには25%)。
  2. 4月初旬: 追加関税を発表し、対中関税率を54%に引き上げ。
  3. 中国の報復: 米国製品に34%の関税を課し、レアアースの輸出制限を示唆。
  4. 米国の再報復: 既存の54%にさらに50%を追加し、対中関税率は104%に到達。
  5. 中国の再報復: 米国製品への関税をさらに50%上乗せし、84%に。
  6. 今回の措置: 米国、対中関税率を125%に引き上げ。

この125%という関税率は、事実上、多くの中国製品の米国市場からの締め出しに近い効果を持つ可能性があり、米中間の経済的な「デカップリング(切り離し)」を加速させる可能性を秘めている。

方針転換の背景:市場の圧力と共和党内の働きかけ

この急な方針転換の背景には、何があったのだろうか。複数の要因が指摘されている。

第一に、市場の猛烈な反発である。4月初旬の関税発表後、世界の株式市場は大きく動揺した。ダウ平均株価は急落し、安全資産とされる米国債の利回りも急上昇するなど、金融市場は不安定な状況に陥った。特に、関税発表後の数日間で企業の時価総額が数兆ドル規模で失われたことは、経済に対する深刻な懸念を引き起こした。Goldman Sachsは一時、景気後退(リセッション)の可能性が50%以上あるとの予測を発表したほどである(猶予発表後に予測は修正されたが、依然45%としている)。こうした市場の混乱は、経済の安定を重視する層からの強い批判を招いた。

第二に、共和党内部からの圧力である。Trump大統領の同盟者である少なくとも3人の共和党上院議員(Ted Cruz、Mike Lee、Lindsey Graham)が、大統領に対し、関税を交渉の「てこ」として利用し、最終的には関税を引き下げる方向で迅速に他国と取引するよう直接働きかけていたことが明らかになっている。特にCruz議員は自身のポッドキャストでも同様の主張を展開。「これらの関税をてことして利用し、貿易相手国の関税を劇的に引き下げ、その見返りに米国の関税を引き下げることができれば、それは大きな勝利となるだろう」と語っている。市場の混乱が続く中、特に2週間の議会休会を前に、共和党議員の間では世界的な貿易戦争への懸念が高まっていた。猶予発表のニュースは、上院共和党の会合中に伝わり、安堵の声とともに拍手も起こったという。

第三に、政権内部の路線対立である。Trump政権内では、関税政策の位置づけについて意見の相違が見られた。Peter Navarro大統領補佐官(通商製造政策局長)のような強硬派は、関税は交渉材料ではなく、恒久的な貿易構造改革の一環であると主張していた。一方、Scott Bessent財務長官らは、より柔軟な姿勢を示唆し、交渉の可能性に言及していた。今回の猶予措置は、後者の影響力が一時的に増した結果とも解釈できる。ただし、対中強硬派として知られるHoward Lutnick商務長官も決定に関与しており、単純な路線対立の結果とは言い切れない複雑な背景があるようだ。

Trump大統領自身は、猶予の理由について「人々が少し先走って、少し恐れていたからだ」と記者団に語り、「まだ何も終わっていない」とも付け加えた。これは、関税カードを依然として手放しておらず、状況次第で再び強硬策に転じる可能性を示唆している。

Lutnick商務長官はXで「世界はTrump大統領と協力して世界貿易を修正する準備ができているが、中国は反対の方向を選んだ」と投稿し、今回の措置が中国を孤立させ、他の国々を交渉のテーブルに着かせるための戦略であることを示唆している。

スポンサーリンク

市場の反応:一時的な安堵と根強い不確実性

Trump大統領による関税猶予の発表は、金融市場に一時的な安堵感をもたらした。発表があった水曜日、S&P 500指数は7%以上、ナスダック総合指数は約9%と、近年まれに見る大幅な上昇を記録した。数日間にわたり急騰していた米国債の利回りは低下した。

ウォール街のある幹部は、この決定を「フルシチョフが(キューバ危機の際に)船を反転させたことに匹敵する金融・経済的な出来事だ」と評し、世界経済の危機回避に向けた重要な一歩と捉えた。

しかし、市場関係者の多くは、これで不確実性が払拭されたとは考えていない。

  • 依然として高い関税: 中国以外の国に対しても10%の関税は維持されており、これは依然として企業や消費者にとって負担となる。
  • 米中対立の激化: 中国に対する125%という異常な高関税は、世界第1位と第2位の経済大国間の対立を決定的なものにする可能性がある。中国からの輸入品に大きく依存する産業への影響は計り知れない。
  • 90日後の不透明感: 猶予期間である90日後に何が起こるのか、全く見通せない。交渉がまとまらなければ、再び高関税が復活するリスクがある。
  • 政策の予測不可能性: Trump大統領の政策決定プロセスは依然として予測が難しく、SNSでの突然の発表に市場が振り回される状況は変わっていない。

あるBloombergのコラムニストは、「中国に対する関税が景気後退と株価の再暴落を引き起こす可能性は依然として高い」と警告している。Atrantic誌のDerek Thompson氏は、「Trump氏は金融市場の信頼を高めて米国製造業への長期投資を促す代わりに、混乱を解き放った」と批判し、企業が将来の投資計画を立てることを困難にしていると指摘する

テクノロジー業界への深刻な影響:サプライチェーンの混乱とコスト増

今回の関税騒動は、特にグローバルなサプライチェーンに深く依存するテクノロジー業界に大きな影響を与えている。

中国への高関税の影響:

  • 製品価格の上昇: ラップトップ、スマートフォン、タブレット、ゲーム機、モニターといった主要なコンシューマー向け電子機器の多くは、依然として中国での生産・組立に大きく依存している。125%という関税は、これらの製品価格を大幅に押し上げる可能性がある。
  • サプライチェーンの寸断リスク: たとえ最終組立地が中国でなくても、部品供給網は中国を経由していることが多い。高関税や米中対立の激化は、この複雑なサプライチェーンを寸断し、製品供給に遅延や混乱をもたらす可能性がある。アップルのような企業は、以前から生産拠点の多様化(インドなどへのシフト)を進めているが、短期間での完全な脱中国依存は困難である。
  • 新製品への影響: 市場の混乱を受け、任天堂は発表されたばかりの新型ゲーム機「Switch 2」の予約受付を延期したと報じられた。PCメーカーは、AI機能搭載PCで市場の活性化を狙っていた矢先に、関税による価格上昇と需要減退という逆風に直面する可能性がある。

関税猶予と10%関税の影響:

  • 一時的な安堵: ベトナムやカンボジアといった中国以外の生産拠点に対する関税が大幅に引き下げられたことは、これらの国への生産シフトを進めていた企業(例えば任天堂)にとっては朗報である。
  • 依然残るコストと不確実性: しかし、消費者技術協会(CTA)が指摘するように、10%の関税が維持されること自体が、特に中小企業やスタートアップにとっては依然として負担となる。「10%に引き下げられたからといって、それが良いことだとは限らない」とCTAの担当者は述べている。この継続的な不確実性は、企業の計画、イノベーション、資金調達能力を損なう。
  • 在庫と将来の価格: 多くの企業は関税の影響を抑えるため、人気製品の在庫を積み増していた。しかし、CTAによれば、これらの在庫はいずれ底をつき、企業は関税を価格に転嫁するか、コストのかかる急激なサプライチェーンの再編を迫られることになる。

CTAのCEO Gary Shapiroロ氏は、猶予措置を「米国の消費者にとっての勝利」と評価しつつも、「現在進行中の10%の普遍的な基本関税とこの継続的な不確実性は、すでに米国の小規模企業に損害を与えている」と述べ、Trump大統領に関税の完全撤廃と、同盟国との信頼できる貿易関係の再構築を強く求めている。

さらに、半導体に対する関税導入の可能性も示唆されており、これが実現すれば、半導体を搭載するあらゆる製品(自動車、家電、産業機器など)に影響が及ぶ可能性がある。トランプ大統領は、台湾のTSMCに対し、米国に工場を建設しなければ100%の税金を課すと脅しをかけており、補助金(CHIPS法)ではなく関税による産業誘致を重視する姿勢を示している。

中国の反発と米中対立の行方

米国による対中関税125%への引き上げに対し、中国は即座に強い反発を示した。中国財務省は、米国の関税引き上げを「誤りの上に誤りを重ねるもの」と非難し、米国製品に対する報復関税を従来の34%からさらに50%上乗せし、84%に引き上げると発表した。これは米国東部時間の水曜正午から発効した。

中国外務省の報道官は、Trump大統領を「傲慢でいじめっ子」と評し、一切の譲歩を見せない姿勢を明確にしている。中国は米国に対し、全ての対中関税を撤廃し、「相互尊重に基づいた平等な対話を通じて」相違点を解決するよう求めている。

この関税の応酬は、米中間の経済的なデカップリング(切り離し)を現実のものにする可能性を高めている。Bloombergは、100%の関税でさえ、米国による中国製品の輸入をほぼ消滅させるだろうと試算している。あるアナリストは、「Trump氏の意図でも中国の意図でもないだろうが、彼らが(当然の理由で)彼と交渉しなければ、我々はデカップリングに行き着くだろう」と述べている。

米中対立の激化は、世界経済全体に暗い影を落とす。両国は世界のGDPの約4割を占めており、両国間の貿易が滞ることは、世界的なサプライチェーンの混乱、インフレ圧力の高まり、そして経済成長の鈍化につながる可能性がある。

今後の展望:不確実性の霧は晴れず

Trump大統領による関税政策の突然の転換は、多くの疑問を残したままである。

  • 90日間の猶予期間の意味: この期間中に、米国は75カ国以上との間でどのような交渉を進めるのか。関税引き下げや非関税障壁の撤廃を含む、恒久的な貿易協定に至ることはできるのか。ルトニック商務長官は交渉には数週間かかる可能性があるとしているが、CTAなどは交渉が長引けばテクノロジー業界のイノベーションが阻害されると懸念を示している。
  • トランプ政権の真の狙い: 関税政策を通じて、米国製造業の復活、政府歳入の増加、より有利な貿易協定の締結といった複数の目標を掲げているが、これらの目標は互いに矛盾する側面もあり、一貫した戦略は見えにくい。「結局のところ、Trumpの世界観にはあまりにも多くの矛盾があり、壮大な計画について語ることを正当化できない」とFinancial Times紙は指摘する。
  • 他の国々の動き: 日本、韓国、ベトナム、インドなどは、米国との二国間協議を進めている。EUも米国に対する報復関税を発表(ただし発効は先送りされる可能性)。これらの国々が米国とどのような合意に至るかが注目される。
  • 世界経済への長期的影響: 短期的な市場の反応とは別に、貿易戦争の長期化や政策の不確実性が世界経済に与えるダメージは深刻である。JP Morganは、2025年末までに世界が景気後退に陥る確率を60%と見積もっている。Atlantic誌のDavid Frum氏は、Trump政権の行動は「米国の言葉は信用できず、米国の信用は信頼できない」ことを示したと厳しく批判している

今回の関税猶予は、市場の暴落と共和党内の圧力に対する一時的な反応であった可能性が高い。しかし、根本的な問題である米中対立の激化と、Trump政権の保護主義的な通商政策の方向性は変わっていない。90日間の猶予期間は、嵐の前の静けさなのか、それとも対話による解決への貴重な機会となるのか。世界経済とテクノロジー業界は、依然として不確実性の高い霧の中を進むことを余儀なくされている。Trump大統領による関税を巡る動きは、今後も世界が固唾を飲んで見守る最重要課題の一つであり続けるだろう。


Sources


Source

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする