韓国メディアSedailyの報道によると、Samsung Electronicsが「夢の半導体プロセス」と呼ばれる1nm(ナノメートル、10億分の1メートル)チップ製造技術の開発に着手した模様だ。既に専門チームが結成され、2029年以降の量産開始を目標としているが、実現にはHigh-NA EUVリソグラフィ装置などの次世代技術が不可欠となる。これは、最先端プロセスにおけるTSMCとの競争激化を受けた戦略的な動きと見られる。
「夢のプロセス」1nmへ、専門チーム結成の報道
業界情報筋によると、Samsung Electronicsの半導体研究組織内で、1.0nmプロセス開発を専門とするプロジェクトチームが最近発足したという。このチームには、これまで2nmなど最先端プロセスの開発に関与してきた研究者の一部が異動してきたと伝えられている。
1.0nmプロセスは、現在の技術ロードマップの先を行くものであり、Samsungが公式に発表しているロードマップでは、2027年の1.4nmプロセス量産が最先端とされている。今回の1nm開発着手は、その計画をさらに前倒し、あるいは超える野心的な試みと言えるだろう。
Sedailyの報道によれば、この動きの背景には、Samsung Electronicsの李在鎔(イ・ジェヨン)会長が先月、役員に対して「技術重視の伝統を継承しよう」「世の中にない技術で未来を創ろう」と強調したことがあるとされる。現在量産中の3nmや、今年量産予定の2nmプロセスにおいて、歩留まり(良品率)などの点でライバルである台湾TSMCに後れを取っているとの認識から、将来技術である1nmプロセス開発を加速することで、競争の主導権を奪還したいという狙いが透けて見える。
これまでに報じられているところでは、Samsungの2nm GAA(Gate-All-Around)プロセスの試作段階での歩留まりは約30%とされ、3nm GAAプロセスからは改善が見られるものの、TSMCが2nmプロセスで既に60%以上の歩留まりを達成していると報じられていることと比較すると、依然として大きな差が存在する。
技術的課題と2029年以降の量産目標
1.0nmという未踏の領域への到達は、技術的に極めて挑戦的である。Sedailyは、このプロセス実現のためには「既存の設計の枠を破る新しい方式の技術コンセプト」が必要であり、さらに「High-NA EUV(High-NA Extreme Ultraviolet)リソグラフィ装置」のような次世代製造装置の導入が不可欠であると指摘している。
High-NA EUVリソグラフィ装置は、従来のEUVリソグラフィ装置よりも高い解像度を実現し、より微細な回路パターンを形成できる次世代の切り札とされる技術である。これまでの所、Samsungがこの高価で最新鋭の装置を確保したか、あるいは発注したかについてのハッキリとした情報はまだない状態だ。
これらの技術的ハードルや装置導入の必要性を考慮し、Samsungは1nmプロセスの量産開始時期を2029年以降と設定している模様だ。これは、開発着手から量産まで少なくとも5年以上の期間を要することを示唆しており、その間に様々な生産上の課題に直面する可能性も高い。
TSMCとの競争と戦略的意味合い
Samsungが1nm開発に踏み切ったとされる背景には、やはり最大のライバルであるTSMCの存在が大きい。TSMCは、2026年後半には1.6nm(A16)プロセスの生産を開始すると発表しており、さらに1.4nmプロセスの開発にも着手しているとされる。
一方で、一部の報道では、Samsungが以前に1.4nmプロセスの開発計画をキャンセルした可能性が示唆されていた。その理由は明確にされていないものの、リソースを2nm GAA技術の確立や、今回の1nmのようなさらに未来の技術に集中させるための戦略的判断であった可能性も考えられる。ただし、この1.4nm計画のキャンセルはSamsungから公式に発表されたものではなく、あくまで報道レベルの情報である点には注意が必要である。
今回の1nm開発着手の報道が事実であれば、Samsungは現在の2nm/3nm世代での劣勢を認めつつ、一気に1nm世代で技術的リーダーシップを奪還しようという長期的な戦略に舵を切ったと解釈できる。これは、急速に進化するAI(人工知能)半導体市場などの需要に応え、将来の競争優位性を確保するための重要な布石となる可能性がある。
Sedailyはまた、最近交代したSamsung Electronicsファウンドリ事業部のトップ(ハン・ジンマン社長)が、DeepXのような韓国のAI半導体スタートアップ企業と積極的に会談し、顧客ニーズの把握やパートナーシップ強化に注力していることにも触れている。これは、単なるプロセス技術開発だけでなく、ファウンドリビジネス全体の生態系強化にも力を入れていることの表れであろう。Samsungの1nmプロセス開発の今後の進捗が注目される。
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