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EU9カ国連合、半導体強化へ「Chips Act 2.0」を準備―産業界から強い支持

Y Kobayashi

2025年3月23日

オランダ、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなど欧州連合(EU)の9カ国が、2023年に導入された現行の欧州半導体法(European Chips Act)の限界を克服する「Chips Act 2.0」の準備を加速させている。欧州半導体業界団体からも強い支持を受け、2025年夏までに具体案の提出を目指す取り組みが本格化している。

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新半導体戦略への動き

EU9カ国による新たな連合が半導体戦略強化に向けた取り組みを開始した。オランダのDirk Beljaarts経済相によると、この9カ国連合は「新しい欧州半導体法のための予備作業」を行っており、2025年3月12日に正式に発足。欧州委員会と緊密に協力しながら欧州の半導体競争力と戦略的自律性の強化を目指している。

Beljaarts経済相はReutersの取材に対し「民間と公的の両方の資金をセクターに投入し、中小企業にも波及効果が確実に届くようにする必要がある」と述べた。

この動きは、欧州半導体業界団体(ESIA)と米国SEMI協会の欧州支部が主導する形で、欧州議会議員(MEPs)と円卓会議を開催するなど、業界からの働きかけが活発化する中で進展している。

現行Chips Actの課題と失敗

2023年に最終決定された430億ユーロ規模の現行欧州半導体法は、主要目標達成に失敗したとの評価が広がっている。ただし、米国や中国の大規模支援プログラムに対して欧州産業の相対的地位の悪化を防いだ点では一定の効果があったとされる。

現行制度の主な問題点として、複数のソースが以下を指摘している:

  1. 承認プロセスの複雑さと遅延:加盟国が資金提供し、欧州委員会が承認する二重プロセスが煩雑で時間を要し過ぎた
  2. 製造偏重の支援体制:サプライチェーン全体、特に研究開発、設計、材料などへの包括的支援が不足
  3. 行政手続きの重層性:EC、加盟国、地方当局という複数レベルでの承認要件が急速に発展する半導体産業のペースに合わなかった

これらの構造的問題により、計画されていた複数の重要プロジェクトが延期または中止に追い込まれた。IntelはドイツのMadgeburgでの最先端ファブ計画を前CEOのPat Gelsinger氏の下で一時停止し、GlobalFoundriesとSTMicroelectronicsのフランスCrollesでの合弁ファブも中止された。これらのプロジェクトは当初、Chips Actのもとで数十億ユーロの公的支援を受ける予定だった。

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産業界からの具体的要求

欧州半導体業界はより効果的な「Chips Act 2.0」への具体的な期待を明確に打ち出している。欧州議会での円卓会議後、ESIAとSEMI Europeは欧州委員会のHenna Virkkunen副委員長(技術主権、安全保障、民主主義担当)に共同宣言を送付した。

ESIAのFrederique Le Greves副社長は業界の3つの優先事項を次のように要約した:

  1. 「より迅速な行政手続きを備えた改正欧州半導体法に裏付けられた明確な欧州半導体戦略」
  2. 「より強靭性につながる貿易・外交政策アプローチの確立」
  3. 「イノベーション促進への継続的な注力」

SEMI EuropeのStefano Ramundo Orlando氏は「半導体産業はサプライチェーン全体にわたる業界をサポートする措置で半導体法を補完することを求めている」と説明し、特に「半導体設計と製造、R&D、材料、機器」分野での直接支援の必要性を強調した。

この円卓会議には、Infineon、Bosch、NXP、STMicroelectronicsといったチップメーカーや、ASMLなどの半導体製造装置メーカーを含む10社以上の企業が参加した。

グローバル競争環境と欧州の戦略

欧州の半導体強化策は、激化するグローバル競争と地政学的緊張の文脈で理解する必要がある。特に、第二次Trump政権の「変動的な貿易政策」による市場の不確実性が、欧州の戦略的自律性強化への取り組みに一層の緊急性を与えている。

米国ではCHIPS法投資が終了段階にあり、一部資金の回収さえ行われている状況である一方、中国も半導体産業への大規模投資を継続している。

欧州委員会は2030年までに欧州半導体法を支援するために430億ユーロ以上の政策主導型投資を計画している。この資金はHorizon EuropeとDigital Europeプログラムを通じて提供され、長期的には同規模の民間投資によって補完される見込みだ。

欧州半導体エコシステムの強みと弱点

欧州は半導体エコシステムの中でも特定の分野で世界的な強みを持っている。特に研究開発と半導体製造装置の分野では卓越した地位を占めている。

強み:

  • 研究開発の卓越性(imecなどの研究機関)
  • 半導体製造装置(オランダのASML、ASM International、ドイツのCarl Zeiss SMT、SUSS MicroTecなど)
  • 特定用途向けチップ設計(自動車、産業用など)

弱点:

  • 最先端プロセスノードでのチップ製造能力(アイルランドのIntel以外)
  • 先端チップパッケージング技術
  • 設計・製造の統合的アプローチ

一方で、TSMCがドイツのドレスデンにESMC(European Semiconductor Manufacturing Company)を設立するなど、一部の投資は現行の半導体法のもとでも実現している。また、スペインではChipFlowの設立を促進する効果もあった。

今後の展望と実現への道筋

9カ国連合は夏までに具体的な提案を提出する計画を明らかにしている。新アプローチはより選択的かつ戦略的な資金配分を目指し、特に「欧州諸国からの内部需要」を調査して、企業が投資に値すると認識できるようにする方針だという。

もっとも、The Futurum GroupのRichard Gordon氏のように「EU官僚機構での手続き削減は困難」「Trumpのアメリカ第一政策への対応策が不明確」などと懐疑的な見方も存在する。

皮肉なことに、欧州半導体産業の要求内容は、英国政府が2023年にすでに採用した戦略と類似点がある。英国は財政規模の制約から、巨大製造施設への補助金よりも、チップ設計、R&D、化合物半導体など自国が競争優位性を持つ分野に焦点を当てる選択をした。

欧州委員会はこの9カ国イニシアチブを「強く支持している」と表明しており、今後数カ月でChips Act 2.0の具体的な形が見えてくることが期待される。業界関係者は、より迅速な実行力と包括的な支援体制が、欧州半導体産業の競争力回復の鍵になると指摘している。


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