TSMCの2nmプロセスノード製造における高コストと生産能力の制限により、Apple、NVIDIA、Qualcommなど主要顧客が次世代チップ製造をSamsung Foundryへ移行することを検討している可能性が報じられている。ウェハー1枚あたり約3万ドルという高額な製造コストが、業界の製造戦略を大きく揺るがしているようだ。
高騰するTSMCの2nmプロセス
TSMCの2nmプロセスは現在60%という安定的な歩留まりを達成しているものの、製造コストの高騰が深刻な課題となっている。ウェハー1枚あたり約3万ドルという価格設定は、主要顧客にとって大きな負担となっており、当初2025年後半のiPhone 17向けに2nmチップの採用を予定していたAppleですら、2026年まで導入を延期する事態となっている。その結果、Appleは次期iPhoneで3nm第3世代(N3P)プロセスの採用を検討している状況だ。
生産能力の制約も深刻な課題となっている。TSMCは現在、月産1万枚のウェハー生産能力を2026年までに8万枚まで拡大する計画を進めているが、業界からは需要に追いつかないとの見方が強い。さらに、同社は先進プロセスの価格を5-10%引き上げる方針を示しており、これによってスマートフォンなど最終製品の価格上昇も懸念されている。
TSMCはこの状況に対応するため、アリゾナ工場での生産能力増強を計画しており、現在より2万枚増となる月産14万枚規模まで拡大する方針を打ち出している。しかし、この増産体制が整うまでの期間、供給不足とコスト高の状況は続く見通しとなっている。
Samsungの台頭と業界再編の可能性
この状況下でSamsung Foundryが新たな製造パートナーとして浮上しているという。特にNVIDIAとQualcommは、TSMCへの過度な依存によって価格交渉力を失うことを懸念し、Samsungの2nmプロセスでのテスト生産を開始している。具体的には、Qualcommが将来のSnapdragon 8 Eliteシリーズの製造をSamsungに委託することを検討しており、これが実現すれば両社にとって大きな転換点となる可能性がある。
Samsungは既に日本のPreferred Networks(PFN)からの受注を確保しているほか、韓国国内のファブレス企業からも関心を集めている。同社の2nmプロセス開発は2025年第1四半期にテスト生産を開始する予定で、TSMCを追う展開となっている。
しかし課題も山積している。Samsungは過去に4nmプロセスでQualcommのチップを製造した際、過熱問題や性能低下などの技術的な問題に直面し、その後3nmプロセスでは主要顧客からの注文獲得に苦戦している。さらに、DRAM、NANDの価格下落に加え、HBM3E高帯域幅メモリーもNVIDIAの認証を得られていない状況にあり、半導体部門全体が厳しい局面に立たされている。
韓国メディア朝鮮日報は、数十億ドル規模の損失を抱えるSamsung Foundry事業にとって、2nmプロセスでの成功が「最後のチャンス」となる可能性を指摘している。業界専門家たちは、Samsungが本格的な競争力を獲得するためには、単なる価格競争力だけでなく、性能と歩留まりの大幅な改善が不可欠だと分析している。
Xenospectrum’s Take
TSMCの価格戦略は、同社の市場支配力を示すと同時に、その限界も露呈している。64.9%という圧倒的な市場シェアを誇るTSMCだが、過度な価格設定は結果的に競合を利する可能性がある。
ソウル大学校名誉教授のKim Hyung-joon氏が指摘するように、TSMCへの依存度増大は、必然的にファウンドリの多様化を促すだろう。しかし、Samsungが本当にこの機会を活かせるかは、単なる価格競争力だけでなく、性能と歩留まりの改善にかかっている。皮肉なことに、TSMCの「成功」が、結果的に競争環境を活性化させる触媒となるかもしれない。
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