台湾高等検察署智慧財産検察分署は2026年7月20日、TSMCの元副理を国家安全法と営業秘密法に違反した疑いで起訴し、懲役7年を求刑した。検察によると、被告は国家核心重要技術に関わるものを含む営業秘密21件を無断で複製し、中国で使おうとした。TSMCは異常を察知し、文書をすべて回収している。この事件の重みは、実際に技術が移転したかではなく、国外で使う意図と複製行為を結び付けて起訴した点にある。

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21件を複製、TSMCは全件を回収

起訴内容によると、TSMCで副理を務めた陳姓の被告は、2023年5月から2024年2月にかけ、香港籍の丁姓人物と中国で半導体材料分析会社「CSMAC」を設ける計画を進めた。被告は「藍海計画」と名付けた案を作り、台湾の半導体人材を中国へ採用する構想を立てていたと検察は主張する。

この事業計画は、文書の複製と結び付けられている。検察によれば、被告は中国側の出資者や技術専門家に対し、自らが半導体の製造工程と材料を理解していると示すため、TSMCの文書を権限なく複製した。対象は国家核心重要技術に関わる営業秘密と一般の営業秘密を合わせて21件で、被告は自宅へ持ち帰って調べたとされる。

ただし、検察発表は21件の内訳や製造ノード、複製した時期を明らかにしていない。21件すべてが国家核心重要技術だったわけでもない。TSMCは社内で異常を察知した後に調査し、複製された技術文書を全件取り戻した。発表には、中国側へ文書や技術が実際に渡ったとの認定はない。

捜査当局は2026年5月28日に5カ所を捜索し、電子記録などを分析した。陳姓被告は勾留中である。丁姓人物を巡る別の組織形成・機密収集事件の押収物を調べる過程で今回の容疑が見つかったが、本人は死亡したため不起訴となった。

流出前でも成立する法の設計

台湾の国家安全法は、国家核心重要技術の営業秘密が実際に国外へ渡った場合だけを処罰する制度ではない。第3条第2項は、外国や中国大陸などで使う意図を持ち、対象となる営業秘密を不正に取得したり、権限なく複製したりする行為を禁じる。違反した場合、第8条第2項は3年以上10年以下の懲役と、500万台湾ドル以上5,000万台湾ドル以下の罰金を定めている。

一般の営業秘密にも別の罰則がある。営業秘密法第13条の2は、国外などで使う意図を伴う侵害に1年以上10年以下の懲役を科し、300万台湾ドル以上5,000万台湾ドル以下の罰金を併科できる。検察は今回、国家安全法と営業秘密法の双方を適用した。

この組み合わせにより、TSMCが文書を全件回収した後でも、複製時の目的を裏付ける証拠があれば検察は起訴できる。今回の「全国初」は、国家核心重要技術に当たる営業秘密を中国で使う意図があったとして起訴した最初の事件、という意味だ。文書が回収された事実は、検察が複製行為と使用意図を罪に問うことを妨げなかった。

制度の対象は、企業が重要と考える情報すべてではない。国家安全法は、国外への流出が国家安全や産業競争力、経済発展に重大な損害を与え得る技術を、行政院が国家核心重要技術として公告する仕組みを設けた。国家科学及技術委員会は2023年12月、半導体を含む22項目の最初のリストを公表している。

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2025年の初起訴との違い

台湾では2025年8月、同じ国家安全法をTSMCの営業秘密に適用した最初の起訴がすでに行われている。元従業員ら3人が対象となり、検察は2nm製造工程の情報を不正に取得したと主張した。元従業員が転職先のTokyo Electron Taiwanで、TSMC向けエッチング装置の採用拡大に情報を役立てようとした、というのが起訴内容だった。

今回との違いは、技術の具体性と想定した利用先にある。2025年の発表は2nmと装置供給者を明示した。これに対し、今回の検察発表は製造ノードを伏せる一方、中国で設立を計画したCSMAC、出資者への技術力の提示、人材採用案を一続きの目的として描いている。

したがって、今回が国家核心重要技術を巡る初の摘発や初の起訴というわけではない。今回は「中国で使う意図」を伴う事件として初めて起訴に至った事例である。この区別を外すと、台湾の執行が今回始まったかのように見えてしまう。実際には2025年の初起訴に続き、想定された利用先と事業計画が異なる重要事例が加わった。

裁判が問う「意図」の証拠

これから裁判所が判断するのは、検察が描いた計画と21件の複製を、どこまで一体の行為として認定できるかである。文書は全件回収され、実際の移転も認定されていない。検察が「藍海計画」やCSMAC設立案、出資者への説明目的と複製行為をどの証拠で結び付け、裁判所が中国で使う意図をどう評価するかが争点になる。

一方、検察発表には被告の認否がなく、国家核心重要技術に該当するとされた文書の内容も示されていない。起訴は有罪判決ではない。今後の公判で、21件のうちどの文書が国安法の対象となり、被告の行為と中国での使用意図がどう結び付くのかが明らかになれば、企業が異常を見つけてから検察が国安法で立件するまでに必要な証拠も見えやすくなる。