欧州で開催されたTSMC 2024 TECHNOLOGY SYMPOSIUMにおいて、同社は3nmプロセスの取り組みについて、現在と将来の見通しに関する最新情報を共有している。その中で、現行世代の「N3E」の現況について共有したことに加え、性能面での最適化が施された、“第3世代”とも言える「N3P」ノードが予定通り2024年後半に量産開始する予定である事を改めて明らかにした。
N3Eは“素晴らしい”歩留まり
TSMCの第2世代3nmプロセス「N3E」は、最近登場したAppleのiPad Proに搭載された「M4」チップで初めて採用されたと言われている。今後これはQualcommのWindows PC向け「Snapdragon X」チップや、スマートフォン向けのフラッグシップチップ「Snapdragon 8 Gen 4」で採用されると見られているTSMCの最先端プロセスだ。
N3EはTSMCの第1世代3nmプロセスの「N3B」のコスト最適化バージョンを言われている。N3BからいくつかのEUVレイヤーを排除し、EUVダブルパターニングの使用を完全に排除した物だ。これにより製造コストの若干の低減が見込まれ、プロセスウィンドウと歩留まりが広がるが、トランジスタ密度においてはN3Bから低下が見られる。
既に量産体制に入っているN3Eについて、TSMCはこれのD0欠陥密度は「N5」とほぼ同程度であり、それぞれのライフサイクルの同じ時点での欠陥率に匹敵すると述べている。成熟した5nmテクノロジーと同等の歩留まり率というのは驚異的な話だ。ちなみに、N5の歩留まりについては、「SRAMの歩留まりは90%以上、ロジックの歩留まりも80%以上」とのことだ。
TSMCの幹部は「N3Eは昨年の第4四半期に予定通り量産を開始しました。顧客の製品で優れた歩留まり性能を見ており、予定通り市場に投入されました」と、このノードの立ち上がりが順調である事を報告している。
N3(別名N3B)は、Appleが唯一の主要顧客であるため、比較的短いライフサイクルになると見られている一方で、N3EはQualcomm、NVIDIA、AMDなど、TSMCの幅広い顧客によって採用されるだろう。
2024年後半登場の「N3P」では更なる性能と消費電力低減が期待出来る
N3(N5比) | N3E(N5比) | N3P(N3E比) | N3X(N3P比) | |
---|---|---|---|---|
消費電力 | -25-30% | -32% | -5% ~ 10% | 高い |
パフォーマンス | +10-15% | +18% | +5% | +5% Fmax @ 1.2V |
チップ密度 | ? | ? | 1.04倍 | 同じ |
SRAMセルサイズ | 0.0199µm² (N5比で-5%) | 0.021µm² (N5と同等) | ? | ? |
大量生産開始時期 | 2022年後半 | 2023年下半期 | 2024年下半期 | 2025年 |
上記の通り、優れた歩留まりを誇るN3Eだが、TSMCによるとこのすぐ後に控えている第3世代3nmプロセス「N3P」についても歩留まりはかなり期待出来るようだ。
TSMCの幹部によると、N3Pプロセスは現在、検証を終えており、その歩留まりはN3Eノードの歩留まりとほぼ同等であるという。
しかし、重要な利点は、N3Pがもたらす強化された仕様にある。チップ設計者は、N3Eと比較して、同じ消費電力で約4%の性能向上、または同一のクロック周波数では約9%の消費電力削減を期待できる。また、ロジック、SRAM、アナログ部品で構成される一般的なチップ設計では、トランジスタ密度も4%向上する。
N3Eの光学的シュリンクであるN3Pは、IPブロック、設計ルール、EDAツール、手法の面でN3Eとの互換性を維持しており、メーカーにとっては移行がスムーズになるとのことだ。そのため、TSMCとしては、N3EやN3ではなくN3Pを使用することを期待している。
「我々はN3P技術を成功裏に提供しました。検証を通過し、歩留まり性能はN3Eに近い。製品顧客からのテープアウトも受けており、今年後半には生産を開始する予定です。N3PのPPA(性能、電力、面積)優位性のため、N3のテープアウトの大部分がN3Pに移行することを期待しています」と、TSMCの幹部は述べている。
3nmプロセスに関しては、既に立ち上げが行われているSamsungとTSMCに関して、歩留まりの低さが両社の頭を悩ませている事が報告されていた。情報筋によると、両社はベンダーを惹きつけることが可能なレベルを下回る60%の歩留まりを超えるのに苦労していると言われていた。この低い歩留まりにもかかわらずA17 ProやM3で3nmを採用できたのは、あくまでもそれを受け入れるだけのAppleの資本力があったからだとも言われている。ただし、TSMCはiPhone 15 Proの過熱に関する消費者からの苦情を受け、プロセスの最適化が遅れているという噂に直面した。だが、これらの問題は、少なくともTSMC側では過去のものとなっているようだ。
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