米半導体大手Intelが、主力製品の重大な設計上の欠陥をめぐり集団訴訟に直面している。サンノゼ連邦裁判所に提起された訴状によると、2022年後半から2023年にかけて出荷された第13世代・第14世代Core プロセッサ(開発コード名:Raptor Lake)において、深刻な電圧不安定性の問題が発生した一連の不具合騒動について、同社が製品の欠陥を認識しながら販売を継続し、消費者に対して重要な情報を開示しなかったと主張されている。
根本的な技術的欠陥が明らかに
今回訴訟を起こしたのは2023年1月にIntel Core i7-13700Kプロセッサーを購入したニューヨーク州オーチャードパークのMark Vanvalkenburgh氏だ。Vanvalkenburgh氏は、突然の画面ブラックアウトや予期せぬコンピューターの再起動など、頻繁に問題に遭遇したという。 この夏、彼はIntelのRaptor Lake CPUの安定性の問題を修正することを意図したIntelのパッチを適用しようとしたが、この解決策では不具合を解決できなかった。
訴状には、「製品を購入した後、原告はプロセッサに欠陥があり、不安定で、高い確率でクラッシュすることを知った。 このプロセッサは、彼のコンピュータに、不規則な画面のブラックアウトや不規則なコンピュータの再起動などの問題を引き起こした。 Intelが発行した第13世代プロセッサー用のパッチをインストールしようとしても、これらの問題は解決しなかった。 その結果、彼は支払ったものを手に入れることができなかった。 もし原告が製品の真実を知っていたら、その製品を購入しなかったか、あるいはもっと安い金額で購入しただろう」と主張されている。
Intelが2024年9月に公表した根本原因分析によると、問題の本質は「Vmin Shift不安定性」と呼ばれる現象にある。これは、プロセッサのIAコア内のクロックツリー回路が高電圧・高温条件下で劣化し、クロック信号のデューティサイクルが変動することで、システム全体の安定性が損なわれる構造的な欠陥が確認された。
この欠陥は、マイクロコードのアルゴリズム上のエラーにより、プロセッサが不適切な高電圧を要求することで顕在化。ユーザーの環境では、突発的な画面の暗転やシステムの予期せぬ再起動といった重大な動作不良として現れた。特筆すべきは、一度この現象が発生したプロセッサは、回路自体が物理的に劣化しているため、後からのソフトウェア的な修正が不可能という点である。
Intelの対応の不適切性が浮き彫りに
訴状で特に問題視されているのは、Intelの危機対応の遅れである。同社は2024年4月の時点で、不具合の原因をユーザーやOEMパートナーによる不適切な電圧設定にあるとして、自社の責任回避を試みた。しかし、2024年7月になってようやく、マイクロコードのアルゴリズムに起因する設計上の欠陥であることを認めざるを得なくなった。
その後、Intelは3段階のマイクロコードパッチ(0x125、0x129、0x12B)をリリースし、8月には該当製品の保証期間を2年延長する補償プログラムを発表。しかし、原告のMark Vanvalkenburgh氏が指摘するように、これらの対応は既に発生した損害に対する適切な救済とはなっていない。
原告は損害賠償とそれに代わる返還を求めている。 Dovel & Luner法律事務所の弁護士は、同様にRaptor Lakeの不具合を経験した他の顧客もこの集団訴訟に参加することを期待している。
深刻な経営リスクに発展する可能性
本訴訟の影響は、単なる製品の欠陥問題のみならず、Intelの企業統治と危機管理能力に対する根本的な疑義を提起するものだ。直近ではNVIDIAにダウ工業株30種平均指数の構成銘柄の座を明け渡すなど、既に苦境に立つIntelにとって、本件は経営基盤を揺るがしかねない重大事態である。
特に、訴状が指摘する「出荷前後のテストで欠陥を認識していながら、性能面での優位性のみを強調し続けた」という主張は、もし事実であれば、単なる品質管理上の失態を超えて、意図的な情報隠蔽という深刻なコンプライアンス違反となる可能性がある。
Xenospectrum’s Take
本件の本質は、半導体製品の品質管理という技術的な問題を超えて、企業の説明責任と危機対応の在り方に関する根本的な問題提起である。特に注目すべきは以下の3点である。
第一に、問題の発見から公表までの異常な時間的遅延。第二に、初期段階での責任転嫁的な対応。第三に、物理的な劣化を伴う不具合に対する事後的な保証延長という、必ずしも適切とは言えない補償方針である。
Intelのこの一連の対応は、技術的卓越性を誇ってきた同社の企業文化に、重大な疑問を投げかける結果となった。今後、半導体業界全体として、製品の信頼性確保に関する新たな規範の確立が求められる転換点となる可能性が高い。同時に、投資家の観点からは、同社の品質管理体制とリスク管理能力の抜本的な見直しが必要とされることは必至であろう。
Sources
- 訴状 [PDF]
- The Register: Intel sued over Raptor Lake voltage instability
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