AppleがAI機能強化に向けた新たな一手を打ち出した。複数の情報筋によると、同社はBroadcomと協力し、次世代のAIサーバープロセッサの開発を進めているという。コードネーム「Baltra」と呼ばれるこのプロジェクトは2026年の生産開始を目指している。
プロジェクトの概要と技術的特徴
Baltraプロジェクトの中核を成すのは、AppleのAI機能を支える次世代サーバープロセッサの開発だ。AppleのSVP Craig Federighi氏の説明によると、将来のApple Intelligenceは処理をオンデバイスとクラウドで適切に分散させる設計となる。この方針に沿って、Baltraチップは特にクラウドサイドでの処理性能の向上を目指している。
技術面で特筆すべきは、Broadcomのチップレットアーキテクチャおよびパッケージング技術の採用だろう。従来のチップ設計では単一のシリコンダイ上に全ての機能を統合していたが、Baltraではチップレットと呼ばれる機能別の小型チップを複数組み合わせる方式を採用する。この設計手法により、製造時の歩留まりを向上させつつ、より大規模な演算処理能力を実現できる。
そして、Broadcomが提供するであろう発表されたばかりの3.5D XDSiP技術では、このチップレット方式をさらに進化させた革新的なアプローチを採用している。最大の特徴は、チップレット間の接続にFace-to-Face(F2F)スタッキング技術を採用している点だ。従来のFace-to-Back方式では、シリコン貫通電極(TSV)を使用してチップ間の通信を確立する必要があったが、新方式ではハイブリッド銅接合(HBC)技術により、より直接的な接続が可能となる。これにより、チップ間の通信速度が大幅に向上し、信号経路も最短化される。
これにより、具体的には、2つの3Dスタック構造、2つのI/Oチップレット、そして最大12個のHBM(High Bandwidth Memory)モジュールを1つのパッケージに搭載することが可能となり、総シリコン面積は6,000平方ミリメートルにも達する大規模な統合が実現可能となる。
製造プロセスに目を向けると、TSMCの3nmプロセス「N3P」の採用が予想されるようだ。このプロセスは、現行の3nmプロセスをさらに改良した次世代技術であり、トランジスタの密度向上と電力効率の改善を同時に実現する。同プロセスはiPhone 17シリーズに搭載予定のA19およびA19 Proプロセッサでも採用される見込みであり、Appleにとって製造プロセスの成熟度という観点で大きなアドバンテージとなる。
メモリアーキテクチャにおいても、注目すべき進化が見られる。HBMモジュールの採用により、AIワークロードで重要となる大規模なデータ転送を高速に処理することが可能となる。12個ものHBMモジュールを搭載可能という仕様は、現行のハイエンドAIアクセラレータと比較しても突出した仕様といえる。これにより、大規模言語モデルの推論処理など、メモリバンド幅がボトルネックとなりやすいワークロードでも優れたパフォーマンスを発揮できると予想される。
さらに、この設計アプローチには製造上の利点も存在する。チップレットベースの設計により、個々のダイの製造歩留まりを高く保つことが可能となる。また、異なる製造プロセスを組み合わせることで、コストとパフォーマンスの最適なバランスを実現できる。これは特に大規模なAIサーバーの展開を考えるAppleにとって、重要な競争優位性となるだろう。
Xenospectrum’s Take
AppleがBroadcomと組んだ背景には、単なる技術提携以上の戦略的な意図が垣間見える。同社はすでにM2 Ultraなどでマルチダイアーキテクチャを採用しており、AIサーバー向けチップでもこの経験を活かそうとしているのだろう。
興味深いのは、GoogleがTensor Processing Units(TPUs)でBroadcomのIPを活用していた事実だ。AppleはAIインフラ構築において、すでに実績のある技術を採用することで、開発リスクの低減を図っているように見える。もっとも、両社とも極めて慎重な情報管理で知られており、プロジェクトの詳細が明らかになるのは2026年の正式発表まで待たねばならないだろう。
Source
- The Information: Apple Is Working on AI Chip With Broadcom
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