AI企業に対する著作権訴訟で、Thomson Reuters(トムソン・ロイター)が初の大きな勝利を収めた。デラウェア州の裁判所は、AIスタートアップのRoss Intelligenceが、Thomson ReutersのWestlawプラットフォームから著作権で保護された素材を不正に利用し、競合するAIベースの法的調査ツールを構築したと認定した。この判決は、AIトレーニングにおける「公正利用」の概念に新たな解釈をもたらし、今後のAI関連訴訟に大きな影響を与える可能性がある。
Westlawのヘッドノートを無断利用、公正利用は認められず
Thomson Reutersは2020年、Ross IntelligenceがWestlawのコンテンツを不正にコピーし、AIのトレーニングに利用したとして提訴した。争点となったのは、Ross IntelligenceによるWestlawのヘッドノート(判例要旨)の利用が「公正利用」にあたるかどうかだ。
公正利用は、著作権で保護された著作物の利用を、特定の条件下で許可する法理である。米国では、(1)利用の目的と性質、(2)著作物の性質、(3)利用された部分の量と重要性、(4)著作物の市場への影響、の4要素を考慮して判断される。
2023年の判決では、地方裁判所は4要素について2対2の判断を下したが、Stephanos Bibas巡回裁判官は今回、4番目の要素を最も重視し、Ross Intelligenceの行為は公正利用にあたらないと結論付けた。Bibas裁判官は、「RossはWestlawの市場代替物を開発することで競争しようとした」と指摘している。
Ross Intelligenceは、Westlawのコンテンツのライセンス供与を拒否された後、LegalEase SolutionsからWestlawのヘッドノートを基に作成された25,000件の「Bulk Memos」を購入し、AIのトレーニングデータとして利用した。Bibas裁判官は、「Bulk Memoの質問が、元の判決文よりもヘッドノートに似ている場合、実際のコピーを示唆している」と述べ、Ross Intelligenceによる著作権侵害を認定した。
Thomson Reutersの広報担当者Jeff McCoy氏は、「裁判所が当社の主張を認め、Westlawの編集コンテンツが著作権で保護されており、当社の同意なしには利用できないと結論付けたことを嬉しく思います。当社コンテンツのコピーは『公正利用』ではありませんでした」とコメントしている。
AIトレーニングと著作権、新たな潮流
今回の判決は、AIトレーニングにおける著作権と公正利用の問題に新たな一石を投じるものだ。AIの急速な発展に伴い、著作権で保護されたコンテンツを無断でAIのトレーニングに利用することの是非が問われており、同様の訴訟が相次いでいる。
例えば、The New York Timesは、OpenAIとMicrosoftに対し、記事を無断でChatGPTのトレーニングに利用したとして訴訟を提起している。また、Getty ImagesはStability AIに対し、画像の無断利用を巡って訴訟を起こしている。
一方で、AI企業とコンテンツプロバイダーの間で、ライセンス契約を結ぶ動きも出てきている。OpenAIは、Axios、Hearst、CondeNastなどとライセンス契約を締結し、PerplexityもFortuneやTimesなどとパートナーシップを結んでいる。
しかし、ライセンス契約はあくまで一時的な解決策に過ぎない。AIモデルが著作権で保護された素材を言い換えて出力する場合、どの程度の類似性があれば著作権侵害となるのかなど、AIと著作権を巡る法的問題は未だ多く残されている。
XenoSpectrum’s Take
今回の判決は、AIトレーニングにおける公正利用の範囲を狭める可能性があり、AI業界に大きな影響を与えるだろう。特に、著作物の市場への影響を重視する判断は、AI企業にとって厳しいものとなる。
AI技術の発展は、社会に大きな利益をもたらす可能性がある一方で、著作権をはじめとする既存の法制度との衝突は避けられない。AI企業は、コンテンツプロバイダーとの適切な協力関係を構築し、法的リスクを管理しながら、イノベーションを推進していく必要がある。
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