米国政府が、国内半導体製造能力強化のため、台湾TSMCとIntelの合弁会社設立を推進しているという噂が、ウォール街で飛び交っている。この提携は、Intelの最先端製造プロセスにおける課題を克服し、米国内でのチップ生産を安定化させることを目的としているようだ。
TSMCの技術支援でIntelの製造部門を強化
投資銀行BairdのアナリストTristan Gerra氏は、アジアのサプライチェーンからの情報として、「米国政府がTSMCのエンジニアをIntelの3nm/2nm製造施設に派遣し、そのノウハウを提供することで、Intelの製造プロジェクトの実現可能性を確保する」という議論があると指摘している 。
さらに、Gerra氏は、「この製造施設は、TSMCとIntelが共同所有し、TSMCが運営する新しい事業体としてスピンオフされる可能性がある」と述べている。この新会社は、米国のCHIPS法に基づく資金援助の対象となる可能性もある。
実現すれば、Intelはチップ設計とプラットフォームソリューションに注力し、大幅なコスト削減の恩恵を受ける一方、TSMCがチップ製造の実務を担うことになる。
この報道に対し、TSMCはコメントを控えており、Intelからの公式発表もない状況だ。
合弁会社設立の背景と狙い
米国政府がTSMCとIntelの合弁事業を後押しする背景には、半導体サプライチェーンの強化と地政学的リスクの低減という目的がある。
現在、最先端半導体の製造においてTSMCが世界的なリーダーであり、その生産の大部分が台湾で行われている。しかし、地政学的なリスクから、米国政府は国内での半導体製造能力の強化を急務としているのである。
Intelは、かつては世界をリードする半導体メーカーであったが、近年は製造技術でTSMCやSamsung Electronicsに遅れを取り、業績も低迷している。
Citiのアナリストは、Mercury Researchのデータに基づき、2024年第4四半期におけるIntelのマイクロプロセッサ出荷シェアが、前四半期比1.04%減の67.4%となり、「2002年以降の最低水準」になったと報告している。
一方、AMDは、同期間にマイクロプロセッサ市場シェアを0.53%増加させ、22.1%に達した 。ただし、デスクトップ向けプロセッサ市場では、Intelのシェアは前四半期比1.66%増の68.1%に上昇している。
そこで、米政府はCHIPS法による補助金提供を通じてIntelの製造部門の再建を支援すると同時に、TSMCの技術力と経験を活用することで、迅速かつ確実に国内での半導体生産能力を強化しようとしていると考えられる。
米国政府の思惑と実現可能性
合弁会社が設立されれば、Intelにとって多くの利点がある。まず、TSMCの技術支援を受けることで、3nm/2nmプロセスの立ち上げを加速し、製造能力を向上させることができる。また、工場を合弁会社化することで、Intel は投資負担を軽減でき、チップ設計とプラットフォーム開発に注力できるようになる。
TSMCにとっても、合弁会社設立は米国での製造拠点を拡大する機会となる。米政府の支援とCHIPS法の補助金を活用することで、投資リスクを軽減しながら、米国市場と顧客に適切に対応できるようになる。
一方、課題も存在する。合弁会社の運営体制や利益配分、技術と知的財産権の取り扱いなど、TSMCとIntelの間で合意すべき事項は多岐にわたる。また、合弁事業が実際に成功するかどうかは、今後の両社の連携と努力にかかっている。
ちなみに、この報道や、James David Vance副大統領の発言を受けてIntelの株価は前日比7%を超える急騰を見せている。
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