Googleは、Gemini 2.0を基盤とするAI共同研究者「AI Co-scientist」を発表した。このAIシステムは、科学者の仮説生成を支援し、科学研究を加速させることを目的としている。
AI Co-scientistとは?
Co-Scientistは、複数の専門AIエージェントを連携させ、研究の方向性を生成、評価、改善する。また、「テスト時計算」機能を活用し、アイデアの処理と分析を行う。科学者は自身の仮説を提示したり、フィードバックを提供したりすることで、システムと積極的に共同作業することが可能だ。提案の質を評価するため、システムにはEloレーティングシステムが組み込まれている。
Google Researchによると、AI Co-scientistは、科学的発見プロセスにおける現代的なニーズ、特に急速に増加する科学出版物のナビゲートと、異なる分野からの洞察の統合という課題に対処するために開発された。近年、CRISPRのように、微生物学、遺伝学、分子生物学など、多岐にわたる専門知識の融合から画期的な発見が生まれていることが、その必要性を裏付けている。
AI Co-scientistの仕組み
AI Co-scientistは、科学的方法論を反映した設計となっている。研究者が自然言語で研究目標を指定すると、システムは、仮説生成、詳細な研究概要、実験プロトコルを生成するように設計されている。これを実現するために、Generation、Reflection、Ranking、Evolution、Proximity、Meta-reviewといった専門エージェントの連携を利用する。これらのエージェントは、自動フィードバックを用いて仮説を反復的に生成、評価、洗練し、質の高い斬新なアウトプットを生み出す自己改善サイクルを形成する。
また、AI Co-scientistは、Web検索や専門的なAIモデルなどのツールも活用し、生成された仮説の根拠と品質を高める。システムは、Supervisorエージェントが研究計画を構成し、専門エージェントをworker queueに割り当てることで、計算能力を柔軟に拡張し、科学的推論を反復的に改善する設計となっている。
実験による検証:創薬、治療標的、抗菌剤耐性
AI Co-scientistの有用性を検証するため、Googleの研究チームは、創薬、新規治療標的の提案、抗菌剤耐性のメカニズム解明という3つの主要な生物医学応用分野において、実際の実験室での実験を実施した。
薬剤転用:急性骨髄性白血病への応用
薬剤転用は、既存薬の新たな治療応用を発見する手法であり、創薬プロセスを効率化する。AI Co-scientistを薬剤転用に応用した結果、急性骨髄性白血病(AML)に対する新たな候補薬を提案。その後の実験で、提案された薬剤が臨床的に関連のある濃度で複数のAML細胞株の生存率を阻害することが確認された。
治療標的の発見:肝線維症への応用
AI Co-scientistは、肝線維症の治療標的発見においても、有望な結果を示した。AI Co-scientistは、前臨床的エビデンスに基づいたエピジェネティック標的を特定し、ヒト肝臓オルガノイドを用いた実験で、これらの標的が抗線維化活性を持つことが示唆された。スタンフォード大学の共同研究者による今後の報告書で詳細が発表される予定だ。
抗菌剤耐性メカニズムの解明:スーパーバグへの挑戦
抗菌剤耐性(AMR)は、薬剤耐性菌(スーパーバグ)の出現という深刻な問題を引き起こしている。AI Co-scientistは、抗菌剤耐性に関連する細菌の遺伝子伝達進化メカニズムの解明にも貢献した。
インペリアル・カレッジ・ロンドンのJosé R Penadés教授らの研究グループは、スーパーバグが抗生物質に耐性を持つメカニズムの解明に10年を費やしていた。研究グループは、スーパーバグが異なるウイルスから「尾」を形成し、それによって種間で拡散すると仮説を立てていたが、これは未発表の研究内容であった。
Penadés教授らは、GoogleのAI Co-scientistにこの未発表の研究課題を与えたところ、わずか48時間で、AIはスーパーバグが研究チームの仮説と全く同じように「尾」を獲得する可能性を示唆する回答を提示した。ペナデス教授は、AIが自身の未公開研究内容に到達したことに衝撃を受けたとBBCに語っている。
Penadés教授は、「AIが提示した最上位の仮説が正しかっただけでなく、さらに4つの仮説も提示し、その全てが理にかなっていました。そのうちの一つについては、私たちは考えもしなかったもので、現在研究に取り組んでいます」と述べ、AI Co-scientistが研究を加速する可能性を強調した。
科学界へのインパクトと今後の展望
AI Co-scientistは、科学研究の進展を加速する強力なツールとなる可能性を示す一方で、いくつかの課題も指摘されている。Google Researchは、文献レビュー、ファクトチェック、外部ツールとの連携、自己評価技術の強化など、改善の余地があることを認めている。
Penadés教授は、AIが科学研究に変革をもたらすと確信しており、「これは科学を間違いなく変えるでしょう。私は壮大な何かの前に立っており、その一部であることを非常に嬉しく思っています。まるでチャンピオンズリーグの試合に出場する機会を得たようだ」と述べている。
Googleは、AI Co-scientistの可能性をさらに評価するため、Trusted Tester Programを通じて、研究機関へのアクセスを提供することを発表した。このプログラムを通じて、より多くの研究者からのフィードバックを収集し、AI Co-scientistの改善と科学研究への貢献を目指すとしている。
論文
- Google Research: Towards an AI co-scientist [PDF]
参考文献