AMDは3月5日、RDNA 4アーキテクチャを採用する新型GPU「Radeon RX 9000シリーズ」の発表と同時に、AI機能を活用した次世代アップスケーリング技術「FSR 4」を公開した。この技術はRDNA 4 GPU専用に開発され、機械学習モデルを駆使して画質とパフォーマンスを大幅に向上させる。発売時には30以上のゲームタイトルが対応し、2025年には75タイトル以上に拡大予定だ。
FSR 4:AIを活用した新たなアップスケーリング技術
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AMDのFidelityFX Super Resolution(FSR)技術は2021年の初代FSRから進化を続け、FSR 2(2022年)、FSR 3(2023年)、FSR 3.1(2024年)と改良されてきた。今回のFSR 4は大きな転換点となり、初めて本格的に機械学習技術を活用している。
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FSR 4はAMD Instinctアクセラレータでトレーニングされた複数のカスタムゲーム向けMLモデルを統合している。これらのモデルはFSR 4 AIアップスケーリングアルゴリズムに組み込まれ、Radeon RX 9000シリーズGPUが提供する最大779 TOPSのAIアクセラレーションを活用する。AMDによれば、FSR 4のパフォーマンスモードでもネイティブ4K出力よりも優れた画質が得られるという。
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AMDが公開したパフォーマンスデータによると、FSR 4のアップスケーリングモード単体で最大2倍、平均60%の性能向上を実現。さらに、フレーム生成を組み合わせることで、最大3.7倍、平均2.8倍の性能向上を達成する。レイトレーシングを有効にした『ラチェット&クランク』のようなタイトルでは、150 FPSを超える快適なゲームプレイが可能になるという。
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既存タイトルへの容易な統合と幅広い対応
FSR 4はRDNA 4アーキテクチャのRadeon RX 9000シリーズGPU専用となる。これはNVIDIAのDLSS(Deep Learning Super Sampling)と同様のアプローチで、専用ハードウェアによる機械学習アルゴリズムの実行が必要なためだ。これまでFSRはオープンソースでハードウェアに依存しない性質を強みとしてきたが、FSR 4ではRDNA 4のAIアクセラレーターを活用するため、従来のRadeonカードや他社GPUでは動作しない。これらのユーザーは引き続きFSR 3.1を使用することになる。
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ゲーム開発者にとっての朗報は、FSR 3.1対応ゲームが自動的にFSR 4もサポートすることだ(その逆も同様)。現在FSR 3.1に対応しているゲームでも、AMDのドライバー内でFSR 4を有効にできる。
発売時に対応予定の主要タイトルには以下が含まれる:
- Call of Duty Black Ops 6
- God of War Ragnarök
- Horizon Forbidden West/Zero Dawn
- The Last of Us Part I/II
- Spider-Man シリーズ
- Ratchet & Clank Rift Apart
- Civilization VII
- Space Marine II
また、Activision、Guerrilla、Insomniac Games、Naughty Dog、SEGAなど数多くのスタジオがFSR 4対応を表明している。
Fluid Motion Frames 2.1と関連技術
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AMDはFSR 4と同時に、HYPR-RXスイートの一部であるFluid Motion Frames 2.1(AFMF 2.1)も発表した。この最新フレーム補間技術では、ゴーストの削減と時間追跡の向上により画質が改善され、Radeon RX 6000/7000/9070シリーズとAMD Ryzen AI 300シリーズCPUをサポートする。
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Radeon RX 9070 XT GPUでHYPR-RXとAFMF 2.1を有効にすると、最大3倍のパフォーマンス向上が得られる。フレーム生成技術による遅延増加については、Anti-Lag 2技術との組み合わせで最大42%のレイテンシー削減が期待できる。
AMDはAdrenalinソフトウェアにも新機能を追加している。Radeon Image Sharpening 2(RIS 2)は、より強力で応答性の高いシャープニングを提供し、再設計されたエンコーダーは8K@75 FPS(HEVC/AV1)までサポートする。また、AMD AI Apps manager、Install Manager、AMD Chat、Image Inspectorなどの新しいAIツールも導入された。
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AMD Image Inspectorは特に注目に値する。このAI機能はゲーム内の表示崩れを検出し、診断データをAMDに送信してユーザーエクスペリエンスの向上に貢献する。検出可能な問題にはシェーダーのアーティファクト、テクスチャ欠損、画面のスタッタリング、ピクセルの破損などが含まれる。
グラフィックス市場への影響
FSR 4の発表はAMDのグラフィックス戦略における重要な転換点である。NVIDIAが2018年からテンソルコアを活用したAIアップスケーリングでリードしてきたのに対し、AMDは今回初めてハードウェア要件を設け、同様のアプローチを採用した。
現在、グラフィックスアップスケーリング市場はAMD(FSR)、NVIDIA(DLSS)、Intel(XeSS)の3社による競争状態にある。FSR 4の登場により、AIベースのアップスケーリングが標準となり、全体的な画質向上が期待できる。
ゲーム開発者にとっては、FSR 3.1とFSR 4の相互互換性が開発リソースの効率的活用につながる。AMDのGPUユーザーについては、RX 9000シリーズの購入者はFSR 4の恩恵を最大限に受けられるが、それ以前の世代のユーザーはFSR 3.1に制限される。
総じて、FSR 4はAMDがグラフィックス市場での競争力を高める重要な一歩である。NVIDIAのDLSSとの技術差を縮め、より良い選択肢を提供することで、市場競争が活性化し、ゲーマー全体にメリットをもたらすだろう。
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