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TSMC、2nmプロセス歩留まり向上で量産前倒し:年内に南北2工場で生産へ

Y Kobayashi

2025年4月1日

世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCは、最先端の2nmプロセス技術の量産を当初計画より前倒しし、2025年内に台湾北部の新竹宝山工場と南部の高雄工場で同時に開始する見込みだ。試作段階での歩留まりが予想以上に好調であることが背景にあり、Appleをはじめとする主要顧客からの旺盛な需要に応える体制を急ピッチで構築している。これにより、TSMCの業績は下半期に飛躍的に伸びる可能性がある。

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量産計画の前倒しと工場展開の詳細

TSMCは当初、2nmプロセス技術の量産を新竹寶山工場では2025年下半期に開始し、高雄工場は2026年から生産を始める計画だった。しかし、試生産での成功を受けて計画を加速させ、今年内に両工場での同時量産を実現する方針だ。

台湾メディアの経済日報によると、TSMCは31日に高雄工場で「2nmプラント拡張セレモニー」を開催し、高雄市長の陳其邁氏や行政院長の卓榮泰氏、さらに供給業者らが出席したという。同社は4月1日から下半期の受注予約も開始する予定だ。

両工場での役割分担もすでに決定されており、新竹寶山工場の最初のバッチの生産能力はすべてAppleが確保し、同社製品向けに使用される。一方、高雄工場はQualcommやIntelなどApple以外の顧客向けの生産を担当するとされる。このような棲み分けは、TSMCが顧客ごとに最適化された生産ラインを構築する戦略の一環と見られている。

生産能力については、年末までに月間50,000枚のウェハーを生産可能になる見込みで、最終的には月間80,000枚のウェハー生産が目標とされている。これは、3nmプロセスの初期生産能力と比較しても大幅な拡大となる。

予想を上回る試作歩留まり

TSMCの2nmプロセス技術の試生産は当初の期待を上回るペースで進展している。台湾のTF International Securitiesのアナリスト、Ming-Chi Kuo氏は自身のSNS投稿で、試験生産の歩留まり(総生産量に対する品質基準を満たす製品の割合)は当初60%を超え、現在は業界関係者によれば70%を超えている可能性があるという。

この数字は、TSMCが3nmプロセスの初期試生産時に達成した進度を上回っており、量産前の準備作業を約1四半期前倒しできる見通しだ。TSMCは公式コメントで「2nmプロセス技術の進展は順調で、予定通り2025年下半期に量産に入る」と述べているが、実際の進捗はさらに良好な状況とみられる。

2nmプロセスは、現在最先端の量産技術である3nmよりもさらに微細な回路線幅を実現する技術だ。回路線幅が狭くなるほど、同じ面積のシリコンチップにより多くのトランジスタを集積できるため、電力効率が向上し、処理速度も向上する。具体的には、2nmプロセスでは3nmと比較して約15-20%の性能向上と、同時に約25-30%の電力効率の改善が期待されている。

この技術革新の背景には、TSMCが開発を進めているナノシート(Gate-All-Around)トランジスタ構造がある。従来のFinFET構造と比較して、電流の漏れを抑えつつ、より効率的な電流制御を可能にする技術だ。半導体の微細化は「ムーアの法則」(約2年ごとに集積回路上のトランジスタ数が2倍になるという経験則)に沿って進んできたが、物理的限界に近づく中でTSMCは独自の技術革新によって競争優位を維持している。

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顧客需要はすでに2027年以降まで予約殺到

2nmチップに対する市場需要はすでに3nmを上回るレベルに達しており、経済日報の報道によれば、顧客は2027年以降まで順番待ちの状態だという。この強い需要を背景に、2nmプロセスはまだ量産開始前にもかかわらず、予想を上回る市場反応を得ている。

主要顧客としては、Appleが最初に名を連ねる。同社は2026年後半に発売予定のiPhone 18シリーズ向けにA20チップを開発中で、このチップはTSMCの2nmプロセスで製造される見込みだ。Appleは常にTSMCの最先端プロセス技術の「ファーストカスタマー」となっており、今回もその伝統が継続される。

その他の主要顧客としては、Qualcommが挙げられる。同社はTSMCの2nmプロセスで製造される2つのSoC(System-on-Chip)を発表する予定で、そのうちの1つはSnapdragon 8 Elite Gen 3になる可能性が高いとされる。このチップは、Android搭載の2026年発売のハイエンドスマートフォン向けに設計されるもので、Appleの次世代チップに対抗する製品となる見込みだ。

さらに、IntelもTSMCの2nmプロセスへの関心を示しており、経済日報によれば今年内にウェハーの投入を検討しているとの情報もある。これは、Intel自身の半導体製造技術開発が遅延する中で、競争力維持のための戦略的動きと見られている。Intelは自社の製造技術(Intel 18A)も並行して開発を進めているが、スケジュール通りに進まない場合の保険としてTSMCの先端プロセスを活用する戦略をとっている。

業界への影響と競合状況

TSMCの2nmプロセス技術の早期量産開始は、半導体業界のパワーバランスにさらなる影響を与える可能性がある。現在、最先端プロセス技術の量産で実質的な競争相手はSamsungのみとなっている。

以前の報道では、Samsungは自社の2nm GAAプロセスの試生産においてExynos 2600チップで30%の歩留まりを達成したと報告されている。これはTSMCの推定60-70%と比較するとかなり低い数字だ。半導体製造業界では、新プロセス技術の試生産段階で50%以上の歩留まりを達成することが、商業的に実行可能な量産への移行の目安とされている。

半導体製造プロセスでは、新技術の立ち上げ時に高い歩留まりを達成することが極めて重要で、それが量産スケジュールや製品コスト、さらには顧客獲得に直接影響する。TSMCがこの段階で高い歩留まりを達成していることは、同社の技術的優位性をさらに強化する要因となる。

歴史的にTSMCは新しいリソグラフィ(露光技術)への移行は他社より遅れることがあるが、一度量産を開始すると安定したウェハー出力を維持することで知られている。この一貫した製造能力は、ハイエンドチップの主要サプライヤーとしての地位を確立する上で重要な要素となっている。

Intelも独自の18Aプロセス(2nmに相当)の開発を進めているが、量産開始は2025年後半以降となる見込みで、TSMCの計画前倒しにより、先端プロセス技術でのリードをさらに広げられる可能性がある。

財務的な見通しと投資計画

TSMCの2nmプロセス技術の前倒し量産は、同社の財務にも大きな影響をもたらすと予測されている。経済日報の報道によれば、2025年の第3四半期と第4四半期の両方で売上高が1兆台湾ドル(約4兆5000億円)に達する可能性があるという。

これは、TSMCの月間売上高が3,333億台湾ドル以上に達することを意味し、現在の水準から約20%の増加となる。また、利益も過去最高を30%以上上回るとの予測もあり、同社の成長軌道がさらに加速する見込みだ。

経済日報によれば、TSMCの単月売上高の過去最高は2024年10月の3,142億台湾ドル(約1兆4100億円)で、単四半期売上高と利益の最高記録は2024年第4四半期の8,684.6億台湾ドル、1株当たり純利益14.45台湾ドルだった。今年下半期にはこれらの記録が更新される可能性が高い。

2nmプロセス技術の生産拠点としては、すでに新竹寶山工場と高雄工場が確定しており、新竹寶山では4期まで拡張可能、高雄工場区域は5期以上に拡張可能とされている。また、南科工場区域も動的にアップグレードして2nmやA16などのプロセスを導入し、顧客需要に応じる可能性もあるという。

TSMCは2025-2027年の3年間で約650-700億ドルの設備投資を計画しており、その大部分が最先端プロセス技術の開発と生産能力拡大に充てられる見込みだ。この大規模投資は、同社が半導体製造技術でのリーダーシップを維持・強化するための戦略的判断と言える。


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