AMDのLisa Su博士はComputex 2024の基調講演にてZen 5アーキテクチャを採用したコードネーム「Granite Ridge」こと次世代プロセッサ「Ryzen 9000」シリーズを発表した。
Granite Ridgeは、Ryzen 7000「Raphael」、Ryzen 8000「Hawk Point」に連なる、AM5ソケットに対応する3番目のプロセッサシリーズとなる。詳細については以下の通りだが、スペックなどは事前のリーク通りの内容だ。
Zen 5コア・アーキテクチャ:最大35%のIPC向上
AMDのRyzen 9000デスクトップCPUは、新開発の「Zen 5」コア・アーキテクチャを採用し全面刷新されたモデルとなる。
その核心となるZen 5コア・アーキテクチャは、まずは性能において、IPC(サイクルあたり命令実行数)はこの前任となるZen 4コア・アーキテクチャから16%と大幅な向上が実現されている。ただし、このベンチマーク・コレクションでトップの結果は、AVX-512命令セットのVAES512およびVAES256拡張を活用するGeekBench 5.3 AES XTSベンチマークであることに留意すべきである。
Zen 5では大きく以下の改良が施されている。
- 分岐予測精度とレイテンシの向上
- より広いパイプラインとベクターによる高いスループット
- デザイン全体のウィンドウ・サイズの拡大による並列性の向上
AMD Zen 5コア・アーキテクチャは、フロントエンド命令の命令帯域幅、データ帯域幅(L2からL1、L1からFP)、AI性能(AIとAVX512のスループット)など、いくつかの面で最大2倍の向上を実現している。
これらの新たな変更により、IPCはZen 4と比較して平均16%向上しており、更に特定のケース(Geekbench 5.4 AES XTS)などでIPCが最大35%向上する事もあるという。
改良されたもう1つの重要な領域はL2およびL3キャッシュ構造だ。AMDはまた、IMCに大幅な変更を加え、EXPO/XMPメモリのサポートが大幅に向上し、Infinity FabricのクロックがZen 4の2000 MHzからZen 5の2400 MHzに引き上げられ、DDR5-5600の速度がネイティブでサポートされるようになった。
Ryzen 9000 デスクトップCPU:最大16コア/32スレッドをサポート
Ryzen 9000シリーズは、このZen 5チップレット(CCD: Core Complex Die)を最大2つ搭載する。Zen 5 CCDはそれ自体が最大8つのコアを備えており、これによりRyzen 9000デスクトップCPUは最大16コアを搭載し、IntelがArrow Lakeにて採用を見送るとされているマルチスレッドテクノロジーを継続する事で、32スレッドに対応する。
AM5パッケージに変更はなく、IOD(I/O Die)も前モデルと同じ物が採用されている。ただし、Zen 5 CCDへの変更に伴いコンデンサのレイアウトに若干の変更が加えられている。
上の画像は、2つのCCDを搭載したRyzen 9000シリーズチップのレンダリング画像で、シリコンの構成とレイアウトを表したものだ。前世代のRyzenプロセッサーと同様、中央に大型のIODがあり、すべてのI/Oおよびメモリー操作がこのダイを通じて行われる。これまでのZen 5のロードマップでは、AMDが4nmと3nmのプロセスを混在させて使用することが示されていたが、今のところAMDは、ベースとなるZen 5のCCDにどれが使用されるかは明らかにしていない。
Ryzen 9000デスクトップCPUは以下の4つのSKUで登場する。
アーキテクチャ | コア/スレッド | ブーストクロック | L2キャッシュ | L3キャッシュ | 統合グラフィック | メモリサポート | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Ryzen 9 9950X | Zen 5 | 16/32 | 5.7GHz | 16MB | 64MB | RDNA 2 CU x 2 | DDR5-5600 | 170W |
Ryzen 9 9900X | Zen 5 | 12/24 | 5.6GHz | 12MB | 64MB | RDNA 2 CU x 2 | DDR5-5600 | 120W |
Ryzen 7 9700X | Zen 5 | 8/16 | 5.5GHz | 8MB | 32MB | RDNA 2 CU x 2 | DDR5-5600 | 65W |
Ryzen 5 9600X | Zen 5 | 6/12 | 5.4GHz | 6MB | 32MB | RDNA 2 CU x 2 | DDR5-5600 | 65W |
フラッグシップのRyzen 9 9950Xは2つのZen 5 CCDと1つのIODを搭載し、CPUは16コア/32スレッド、最大ブーストクロックは5.7GHzとなっている。キャッシュは80MB(L2キャッシュが16MB、L3キャッシュが64MB)だ。
AMDはRyzen 9 9950XとIntel Core i9-14900Kとの、ゲーム及び生産性アプリでのパフォーマンス比較を実施し、結果を公表している。いつものことながらこれはAMD自身のテストによる物であるため、その点を考慮して読む必要があるが、AMDによればゲームパフォーマンスは最大23%(平均13.2%)の向上、生産性アプリでのパフォーマンスは最大56%(平均29.8%)上回るという。
特にゲーム パフォーマンスの向上は、チップに関連するレイテンシの削減によるものだとAMDは述べている。
この下に位置するのが、Ryzen 9 9900Xだ。こちらは最大 5.6 GHzのブースト クロックと 76MB(L2 12MB、L3 64MB) のキャッシュとなる。これは前モデルのRyzen 9 7900XのTDP170Wから大きく低下した120WのTDPを実現している。
Ryzen 7 9700XもTDPがRyzen 7 7700Xの105Wから65Wへと下がっている。8コア16スレッドCPUで、最大5.5GHzのブーストクロック、キャッシュは40MB(L2キャッシュ8MB、L3キャッシュ32MB)だ。これはCCDが一つで構成される。
そしてRyzen 5 9600Xは6コア12スレッドで最大5.4GHzのブーストクロック、キャッシュは38MB(L2キャッシュ6MB、L3キャッシュ32MB)だ。こちらもRyzen 5 7600XのTDPが105Wから65Wへと低減されている点は大きな進歩だ。
既に述べたように、AM5ソケットを採用する3代目のプラットフォームと言う事で、Ryzen 9000は既存の600シリーズ・ボードと完全な下位互換性があるが、AMDはデスクトップでのZen 5の発売に向けて、2つの新しい800シリーズ・マザーボード・チップセットも準備している。X870E(エクストリーム)チップセットとX870チップセットは、発売時に多数の新型マザーボードに搭載される予定だ。
670(E)シリーズではオプションだったUSB 4.0サポートが、X870(E)マザーボードでは標準となっている点は注目に値する。また、X870(E)ボードはWi-Fi 7をサポートし(600シリーズの6Eから増加)、少なくとも1つのPCIe 5.0 NVMeスロットが引き続き必須となる。AMDはまた、両プラットフォームをベースとするマザーボードが「合計44のPCIeレーンを備えている」とも述べており、その内訳はCPUから24レーン、チップセットからさらに20レーンとなっている。
フラッグシップモデルのRyzen 9 9950X(16C/32T)、Ryzen 9 9900X(12C/24T)、Ryzen 7 9700X(8C/16T)、エントリーモデルのRyzen 5 9600X(6C/12T)を含むAMD Ryzen 9000シリーズは、2024年7月に販売開始される予定だ。本稿執筆時点では、AMDは価格を提示していない。
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