AMDの次世代プロセッサー「Ryzen 7 9800X3D」が、3DCG制作ソフトウェアBlenderのベンチマークテストにおいて、前世代モデルを大きく上回る性能を記録した。これまでゲーミング性能に特化していたV-Cache搭載プロセッサーが、クリエイティブワークでも優位性を示す結果となり、クリエイティブ業界に訴求する製品となりそうだ。
期待を超える性能向上の実態
Blender Open Dataベースに登録された最新のベンチマーク結果において、Ryzen 7 9800X3Dは324.94ポイントを記録した。これは前世代モデルのRyzen 7 7800X3Dが記録した256.39ポイントを実に26%以上も上回る驚異的な性能向上だ。さらに注目すべきは、同世代のV-Cache非搭載モデルであるRyzen 7 9700Xと比較しても11%高いスコアを達成したことだ。
CPU | Blenderスコア |
---|---|
Ryzen 7 9800X3D | 324.94 |
Ryzen 7 7800X3D | 256.39 |
Ryzen 7 7700X | 263.68 |
Ryzen 7 9700X | 292.97 |
Core i5-14600K | 279.8 |
Core i7-14700K | 433.66 |
Core Ultra 5 245K | 322.1 |
Core Ultra 7 265K | 460.38 |
Core Ultra 9 285K | 558.73 |
この結果が特に興味深いのは、9800X3Dが不利な条件下でこの性能を実現している点にある。従来のV-Cache搭載プロセッサーは、発熱対策のためクロック速度を抑える必要があり、通常モデルと比べて生産性アプリケーションでは性能が劣る傾向にあった。実際、Ryzen 7 9700Xは最大5.5GHzまでブースト可能であるのに対し、9800X3Dは5.2GHz程度に留まると予測されている。それにもかかわらず、より高い性能を実現したことは、AMDの技術革新を強く示唆している。
技術的ブレークスルーの可能性
この予想外の性能向上を実現した背景には、AMDによる画期的な設計変更があると見られている。従来のV-Cache実装では、プロセッサーダイ(CCD)の上部に64MBのL3 V-Cacheを配置する方式を採用していた。この設計では発熱が大きな課題となり、プロセッサーの性能を十分に引き出せない要因となっていた。
しかし、新型の9800X3DではV-CacheをCCDの下部に配置する革新的な設計が採用された可能性が高いとされている。AMDが製品発表に先立って「V-Cacheの再構想」と表現した技術革新が、単なるマーケティング上の誇張ではなく、実質的な技術的ブレークスルーを示唆していたことが明らかになってきた。
マーケットへのインパクト
今回のベンチマーク結果は、プロセッサー市場に大きな影響を与える可能性がある。これまでV-Cache搭載プロセッサーは「ゲーミング特化型」という明確な市場ポジショニングを持っていたが、クリエイティブワークでも優位性を発揮できるようになれば、製品としての価値提案が大きく変わる。
11月7日に予定されているAMDの正式発表では、予想小売価格484ドルから525ドルの価格帯を含む詳細な製品仕様が明らかになる見込みだ。本製品は8コア16スレッド構成で、合計104MBのキャッシュを搭載し、DDR5-6000のメモリーをサポート。さらにオーバークロックによってDDR5-8000以上の高速メモリーにも対応するとされている。
Xenospectrum’s Take
今回のベンチマーク結果は、AMDのプロセッサー技術が新たな進化段階に達したことを示している。発熱という物理的制約を技術革新によって克服し、ゲーミングとクリエイティブワークの両面で高い性能を実現できれば、これはプロセッサー市場における大きなターニングポイントとなるだろう。
ただし、現時点のベンチマーク結果は単一のテストに基づくものであり、製品の総合的な評価には、発売後の包括的なベンチマークテストを待つ必要がある。特に、マルチCCD構成のRyzen CPUにV-Cacheを搭載した場合のスケジューリングの課題など、技術的な検証ポイントはまだ残されている。
しかし、もしAMDが従来のV-Cache技術の制約を本当に克服したのであれば、これまで「不満足な」とされてきたCPU市場に、待望の革新をもたらす可能性がある。今後の正式発表と市場投入後の実性能に、業界の注目が集まることは間違いない。
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